第2セッション:No. 7

4類感染症(人獣共通感染症)


日本生物科学研究所理事  山内一也
                   

 動物由来の4類感染症のうち、とくに重要と思われるものとして、Bウイルス病、Q熱、オウム病、腎症候性出血熱について解説する。また、4類に含められなかったが、同様に注意すべき動物由来感染症として、リンパ球性脈絡髄膜炎(Lymphocytic choriomeningitis: LCM)ウイルスも取り上げることにする。
1.Bウイルス病 
 Bウイルスは単純ヘルペスウイルスにきわめて近縁で、東南アジア産のマカカ属サルに広く潜伏感染している。サルでは病原性をほとんど示さないが、ヒトでは抗ヘルペス剤による治療が遅れると致死率70%に達する脳炎を起こす。そのため、迅速診断が肝要である。サルの汚染は抗体検査(予防衛生協会)で検出できる。ヒトでは咬傷部位の皮膚材料についてのPCRによるウイルス遺伝子検出とウイルス分離が必要である。しかし、ウイルス分離はレベル4実験室が使用できないため、PCRによる診断システムが国立感染研で検討されている。
2.Q熱
 リケッチアの1種、コクシエラ菌による。外国では集団発生が食肉処理場、羊毛処理場、乳肉加工場で多数起きている。ペット動物、鳥類などからの感染も起きている。日本では1980年代終わりから患者が見いだされており、一般人でも抗体がかなり高い頻度で見いだされることから、感染は珍しくないものと推測されている。動物では病原性はほとんど見られないが、家畜やペットの間に広く存在しているものと推測されている。
3.オウム病
 オウム病クラミジアはオウム・インコ類をはじめ多くの種類の鳥類が保有する。鳥類では不顕性感染が多いが輸送などのストレスで発病・死亡する。ヒトは呼吸器感染を起こし、テトラサイクリンで治療が可能であるが、時に死亡することもある。日本では年間推定60万羽もの野鳥が検疫されることなく輸入されているのが問題である。
4.腎症候性出血熱
 ハンタウイルス感染によるもので、日本ではドブネズミによる感染(梅田熱、1960-70)と実験用ラットからの感染(1970−84)がある。中国ではセスジネズミの保有するウイルスによる感染が年間10万人近く出ている。日本にも近縁のウイルスを保有するネズミは広く存在しているので疫学調査が望まれている。
5.LCMウイルス感染
 LCMウイルスは野生ハツカネズミを自然宿主とするが、ハムスターからのヒトの感染も起こりやすい。ネズミはほとんど発病することなく一生、尿や唾液中にウイルスを排出し、ヒトへの感染源となる。ヒトではインフルエンザ様の症状を呈するが、最近、妊娠中の母親の感染からの先天性LCMウイルス感染が問題になっている。

 

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