第4セッション 食中毒情報
Food-Net について
国立感染症研究所
細菌部長  
渡辺治雄


近年、食中毒が大規模化の傾向にあり、被害者の数も増加してきている。特に、O157による腸管出血性大腸菌感染症の出現、卵を原因とするサルモネラ感染症の増加、海外渡航歴のない国内コレラ感染者の増加、井戸水等を原因とする集団赤痢の発生等と話題に事欠かない現状である。これらの食中毒性感染症の特徴のひとつは、各地で発生している散発事例が、実は同一の汚染を原因としている事例・・・つまり散在的集団発生(diffuse outbreak)であるというケースが明らかになってきたことである。その最近の事例として、1998年6月に発生したイクラを汚染原因とするO157事件がある。富山、神奈川、東京等に散在的に発生していたが、実は原因食材および加工地が同一の業者であることが判明し、当該業者のイクラを回収することにより、それ以上の被害者の発生を未然に防ぐことができた。我が国においてとられた未然防止型対応の画期的事件であったといえる。この解明には、菌のDNA解析技術が多大なる貢献をした。つまり、各地で分離された菌のDNA型を解析することにより、各地域で分離された菌のDNA型が同一であることを証明し、たとえ地域が離れているところで発生した事件であってもお互いに関連性がある集団発生である(いわゆる散在的集団発生)ことを科学的に証明した。このような科学的証明をすることにより、だれもが納得する説明が可能となり、その結果が事件の解明につながり、しいては国民の健康を守ることに貢献できることになる。

 本ネットは、菌のDNA型の解析結果を、食中毒の迅速把握に利用し、効率的行政対応に結びつけるためのシステムを構築することにある。本システムの必要性は、食中毒調査会食中毒部会食中毒情報分析分科会で提案されている。その概要は以下の通りである。各地で発生している食中毒事件の情報がインターネット等で24時間以内に厚生省及び国立感染症研究所(感染症情報センター)に送られ、地理的、時間的事象で解析する。また分離された菌株が感染症研究所細菌部に送付される。異常発生が見られる地域の菌株のDNA分析を行い,菌株の相同性を解析する。その結果を各地域に迅速に還元し,疫学的解析に供する。共通の汚染ルートを解明し,汚染物質の回収等の行政措置を執ることにより,感染の拡大を未然に防止する。さらに,解析された菌株を既に構築してある菌株データバンクに参照し,過去のどの株と一致するかを検索し,汚染ルートの根元を突き止める。又,技術研修会を行うことにより,これらの技術を地方衛生研究所等と共有し,各地域で解析可能な方向に持っていくことにより更なる迅速性を高める。解析結果を電送等を利用して交換することも検討する。
 



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