1999年度 感染症危機管理研修会



事例にみる健康危機管理

                                         
 

厚生省厚生科学課健康危機管理官 唐澤剛

1 健康危機とは? 〜突然の大規模な有事〜

 (1) 危機の一般的特質
    ○ 危機は突然やって来る
    ○ 大規模である
    ○ 平時の基準ではなかなか対応できない

 (2) しかし、実際には何が健康危機なのか?
  ○ 健康危機管理調整会議の報告例 → 通常1か月に約50件
  ○ 次のことは健康危機???
   ・和歌山カレー事件
   ・O157食中毒
  ・台湾における手足口病による死亡者の発生
    ・オリーブ缶詰ボツリヌス食中毒
    ・廃棄物処理施設のダイオキシン
    ・リンパ球液投与事件
    ・バイアグラ服用に伴う死亡
    ・イアケアグッズ
    ・北朝鮮によるミサイル?発射

 (3) 危機の本質
  ○ 何が健康危機かはよくわからないことが多い
         〜 どこまで対応すればよいのか〜
  ○ 予断を排す 〜 思いこんだらお終い〜
  ○ 事前の了解 〜 対応の幹部間での事前了解〜




2 和歌山カレー事件にみる健康危機管理の実際 
(主な経過)
 7月25日  和歌山カレー事件発生

   26日  4名死亡 63名が入通院 ※@午後第1報
        青酸検出。和歌山市が対策本部設置。  

    27日  ※A幹部職員の現地派遣  ※B取材殺到/記者会見 
※C緊急調整会議     ※D警察との連携
※E和歌山からの継続的状況入手(情報ル−ト確定)
※F国立試験研究機関からの中毒情報
※G(財)中毒情報センターからの情報

    28日  ※H毒劇物保管徹底通知

    29日  ※I食中毒予防通知    

  8月 2日  警察庁科学警察研究所で砒素検出

     3日  ※J砒素中毒専門家の紹介・検査実施

     18日  ※K砒素尿検査の医療保険例外適用・PTSD対策補助

     21日  入院患者全員が退院
 
  9月 7日  ※L第1回全国都道府県等健康危機管理担当課長会議 

  11月     内閣毒劇物対策会議報告書

  12月     補正予算に検査機器整備などの関係予算計上

   @ 第1報はいつも不透明。予断を排することが重要
   A 初動の現地入り(職員の直接派遣)による1次情報は非常に重要
   B 定期的・頻繁・懇切丁寧・一元的なプレス対応
   C 緊急調整会議の目的は、情報の共有
   D 連携とは面識があること
   E 相互の信頼感があり、能力のある情報窓口・ルートの確定が重要
   FG 国立試験研究機関&中毒情報センターからの中毒情報
   HI 毒劇物、食中毒は、直ちに全国に警戒チェック徹底の通知発出
   K 砒素検査の医療保険例外適用・PTSD対策の補助
   L 第1回都道府県健康危機管理の担当会長会議の開催

3 健康危機管理と公衆衛生行政

 (1) 自治体固有の仕事、公衆衛生行政の柱、保健所は中核

 (2) 都道府県等における健康危機管理体制の整備
    @部局横断的な総合的取組みの重要性
    A調整機関及び関係部局の対応事項の明確化
    B幅広い情報の迅速な提供
    C関係部局間の情報の共有化
  D当面の対応の確定とフォローアップ
    E関係機関との連携
    F都道府県及び市町村間の連携


(参 考)

厚生省健康危機管理調整会議について


1.厚生省における健康危機管理体制について
(1) 新型インフルエンザ等の感染症や大阪・堺でのO157など、大規模な食中毒といった国民の生命、健康の安全を脅かす事態に省全体が一体となって迅速かつ適切に対処することが重要。
(2) このため、医薬品、食中毒、飲料水、感染症の各分野について関係部局の情報交換を行い、迅速かつ適切な健康危機管理業務を行うための円滑な調整を実施するため、部局横断的な組織として、「厚生省健康危機管理調整会議」を平成9年1月に設置。
(3) 健康危機管理の基本的な体制を定めた「健康危機管理基本指針」の下に医薬品・食中毒・飲料水・感染症の各分野、国立病院、国立試験研究機関における健康危機管理体制を定めた「健康危機管理実施要領」を順次策定、公表。
(4) 平成10年度においては、健康危機管理対策室を設置し、健康危機管理官を配置するなど、体制強化を図っている。
 
2.厚生省健康危機管理調整会議について
(1) 厚生省健康危機管理調整会議では、事案の内容等に応じて、「本会議」、「幹事会」、「幹事等打合せ」の3段階の会議を開催する。
(2) 関係課長等により組織される本会議、課長補佐等により組織される幹事会、は毎月定例(調整会議:毎月第2金曜日午前9時より、幹事会:毎月第4金曜日午   前9時30分より)に開催している。
  また、幹事等打合会は随時開催している。
(3) 平成10年度より、健康危機管理対策室に健康危機管理官及び調整係長(専任)が新設され、体制の強化を図っているが、更に平成11年度組織定員要求においても、3名の増員を要求することとしている。

3.活動状況
(1) 平成9年1月の調整会議設置以来、原油流出事件などの緊急的な対応や香港での新型インフルエンザなど全省的な対応が必要なものについて調整会議を積極的に開催し、関係部局間を調整、役割分担や責任の所在を明らかにしつつ、迅速な危機管理業務を実施。
(2) また、必要な情報を国民に迅速かつ幅広く提供するため、積極的に情報を記者発表するとともに、厚生省ホームページに情報を掲載。


(主な活動概況)

ナホトカ号の重油流出事故に関し、重油回収作業に伴う健康上の注意事
項を取りまとめ都道府県に通知。(H9.1)
「インフルエンザの流行に係る当面の対応について」取りまとめ。(H9.1)
O157の流行状況について評価するとともに、当面の対策について取りまとめ、発表。(H9.3)
クリプトスポリジウム等原虫類総合対策について取りまとめ、記者発表。(H9.10)
テレビ番組「ポケットモンスター」の視聴による健康被害への対応について、記者発表するとともに、都道府県に通知。(H9.12)
新型インフルエンザについて、香港における患者の状況、厚生省の対応等について記者発表。(H9.12、H10.1)
和歌山市で発生した毒物混入事件について、事件発生後、現地の状況を把握すべく、保健医療局長ほか関係職員を現地に派遣するとともに、情報交換・分析等を行うための健康危機管理調整会議を緊急開催。(H10.7)



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