第3セッション 予防接種


予防接種法改正から5年後の見直し
国立療養所三重病院長
神谷  齊

1. 予防接種制度の変遷
  ・予防接種法の制定  昭和23年6月20日 法律第68号
・ 予防接種及び結核予防法の一部を改正する法律
           昭和51年6月19日 法律第69号
  救済制度の導入が実施された。
・予防接種法改正   平成6年7月1日  法律第84号
  予防接種の「義務」→「勧奨」(努力義務)
       「集団」→「個別接種」
             予防接種ガイドラインの作製

2. 予防接種法見直しの経緯
 予防接種法附則第2条に基づき、平成6年の予防接種法改正以後の状況を総合的に分析するとともに、予防接種を取り巻く諸問題について検討し、予防接種制度のあり方について必要な検討を行うことを目的として、公衆衛生審議会伝染病予防部会(現感染症部会)のもとに「予防接種問題検討小委員会」が設置された。
平成10年6月18日に第1回の委員会を開催して以降、平成11年6月まで、約1年の間に計16回の委員会を開催し、審議を続けてきた。この間、予防接種を用いることができる全ての疾患について安全性・有効性等の観点から包括的に検討するとともに、関係学会、予防接種に関する学識経験者、現場の接種医、予防接種による健康被害者団体の代表、ワクチンメーカー等から意見聴取を行った上で、予防接種の目的と理念、国や国民の責務、対象疾患や対象者の考え方、健康被害救済制度のあり方等について審議を行い、その途中経過を中間報告として平成10年12月に公表し、広く世界からの意見を求めてきたところである。
また、中間報告公表後においては、さらに具体的検討を進めるため、インフルエンザ等の4疾患に対象を限定した上での詳細な検討とともに、予防接種の具体的実施方法、情報収集等のあり方、健康被害救済制度等についての審議を進めてきた。


3. 基本的考え方
 予防接種は、感染症対策において主に感受性対策を受け持つ重要なものであり、有効性・安全性が認められている予防接種については、その目的に応じて積極的に推進していく必要がある。特に、予防接種がこれまでの人類の感染症対策の歴史において果たしてきた役割、今後の新興・再興感染症対策における期待とともに、これまで極めて稀であるが重篤な健康被害が発生したことがあったという事実、今後も極めて稀であるが発生することがあり得るといった事実について国民に正確に伝え、国民の理解を得ながら積極的に推進していくことが必要である。
また、平成6年の予防接種法の改正において、被接種者の接種に向けての対応が従来の「義務接種」から、「努力義務接種」に変更されたところであるが、平成6年以降の状況を考慮すると、再び「義務接種」に戻すべき積極的な理由はなく、今後とも国民の理解を前提とする現行の体系を基本として予防接種対策の推進を図るべきである。

4. 具体的推進
1) 対象疾患及び対象者
予防接種は、感染症対策の中での唯一の根本的対策であり、国民を感染症の脅威から守っていくために重要な要素である。したがって、有効性・安全性が確認されたワクチンについては、現行の定期の予防接種の対象である7疾患と同様の取扱いとするか否かに関係なく、国民の理解を前提とした上で、接種の推進に努めていくべきである。
@インフルエンザ

A水痘

B流行性耳下腺炎

C肺炎球菌性肺炎

D対象疾患の類型化

E風疹の予防接種推進の強化

 2)国及び地方公共団体の責務
@基本的な対応
予防接種法に基づいて、国及び地方公共団体が予防接種対策を制度的に推進していることから、接種を希望する者が確実に接種を受けることができ、接種後に健康被害が発生した場合にあっては、迅速に必要十分な救済を図る体制整備を進めていくべきことは極めて重要な国等の責務であると考えられる。このため、国等において具体的な実施体制の構築、情報収集・分析と提供、健康被害救済制度の的確な運用等を図るとともに、ワクチンの供給確保のため、必要に応じ、製造体制の支援について検討すべきである。

Aワクチン開発等の調査研究の推進

B国際協力の推進


3) 国民の責務
@正しい知識の習得

A接種医への正確な情報の提供


4) 実施体制
@実施主体

A個別接種の推進

B臨時の予防接種

C予防接種ガイドライン

D予防接種センター(仮称)

E個別接種における保護者の同伴

5) 情報収集・分析と提供
@感染症の発生状況等の把握とその結果の提供のあり方

Aワクチン接種状況の把握

B健康被害(副反応)の発生状況の把握

C予防接種手帳(仮称)

D学校における普及・啓発


6) 健康被害救済制度
@基本的考え方
 予防接種法に基づいて実施される予防接種は、被接種者に対して義務接種又は努力義務接種といった形で接種を促すことから、万一、健康被害が発生した場合にあっても、救済を受ける権利とこれを実施する国及び地方公共団体の責任を明らかにする必要があり、昭和51年の予防接種法及び結核予防法の改正において、予防接種による健康被害救済制度が法律に基づく新しい制度として規定された。さらに平成6年の予防接種法の改正において、法の目的(第1条)の中に健康被害救済を規定するとともに、政令による障害児養育年金等を土台とした介護加算の創設等、内容の充実が図られた。

A介護手当の独立給付化

B介護サービス提供体制の充実

C定期の予防接種の接種期間の弾力化

D健康被害の認定根拠の明確化

E審査請求制度の適正化

Fその他





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