第4セッション 話題の感染症
97/98シーズン・日本のインフルエンザ


日本鋼管病院小児科部長
  菅谷憲夫


1997-98年のシーズンは、A香港型インフルエンザが流行し、全国で127万人の患者発生が報告され、10年振りの大規模な流行となった。世界各国でもA香港型の流行が確認され、その原因は、抗原変異株、A/Sidney/5/97の出現によると報告された。米国では分離されたA香港型インフルエンザのうち、約80%がA/Sidney/5/97 類似株であった。

日本鋼管病院の小児科病棟では、毎年、平均30名のインフルエンザが原因となった患者が入院している。1997-98年の流行では、例年の倍以上の、76名ものインフルエンザ入院患者があり、今回の流行が大規模であったことを反映した。特に1月下旬から2月上旬には、小児科の全入院患者の50%以上がA香港型インフルエンザ患者で占められるという異常な事態となった。日本全国では、おそらく、数万の小児がインフルエンザが原因となって入院したものと考えられる。

欧米では、A型インフルエンザの迅速診断キットが発売されている。ウイルス分離に匹敵する感度をもち、検査に要する時間がわずか10-15分であり、特別な設備、技術を要さず、操作も簡便である。迅速診断キットにより、A型インフルエンザの正確な診断が、診療所、病院の外来、病棟、さらに老人ホーム、長期療養施設等の臨床現場で可能となれば、インフルエンザが原因となった多数の死亡例、入院例が確認され、その結果、国民のインフルエンザの認識が変化して、ワクチン接種率の向上等のインフルエンザ対策の促進につながることが期待される。

日本では、アマンタジンは、A型インフルエンザには適応がないが、新型インフルエンザ対策上からも、適応の拡大は是非必要である。ワクチン接種がほとんど実施されていない日本で、アマンタジンの使用が認められると、ワクチンの代りに乱用されたり、「かぜぐすり」として誤用される危険もある。予防投与は、老人ホームなど、院内流行のリスクが高く、しかも副作用の管理が可能な施設に限定すべきである。治療投与は、迅速診断により、A型インフルエンザの診断が確定した重症入院例にのみ使用すべきである。




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