第4セッション 話題の感染症

 食中毒情報 O157・サルモネラ等その後の経過

                          厚生省生活衛生局食品保健課長
                                   堺 宣道

【食中毒発生状況】
 1996年の腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒は、5月の岡山県邑久町における発生を初めとして、堺市における大規模な発生など全国各地で発生し、有症者累計17,877名、死者累計12名に上った。また、97年については、有症者累計は1576名、死者累計3名であったが、大規模な発生は少なかったものの、家庭における発生事例の急増など散発的な発生事例が増加しており、引き続き注意を要する状況である。
 本年に入り、5月29日現在累計有症者数は181名(うち入院者数81名、死者0)となっているが、夏場に向けて微増傾向が続いており、今後の動向に注意を要する。
 サルモネラについては、1996年の事件数356件、患者数16,325人に対し、97年はそれぞれ499件、10,890人という発生状況であり、特に事件数で294件(全体の58.9%)、患者数では9,169人(全体の84.2%)の原因菌がS.enteritidisによるものである。
 食中毒全体としては、平成8年事件数1,217件、患者総数46,327人に対し、平成9年では事件数1,843件、患者数39,233人と患者総数では減少しているものの、事件数でみると、病因物質としてサルモネラ菌属、腸炎ビブリオ、カンピロバクターを原因とするものが増加しており、今後とも注意を要する。

【原因究明の状況】
 O157による食中毒でこれまで原因が推定・特定されたのは、有症者累計10名以上の集団事例では岐阜県岐阜市でおかかサラダ、東京都港区で弁当、大阪府堺市で貝割れ大根、岩手県盛岡市でサラダとシーフードソース及び北海道帯広市でサラダ、その他については、神奈川県川崎市で生レバー、福岡県福岡市の牛ホルモン(加熱用)によるもの等がある。また、昨年3月には、同一施設で生産された貝割れ大根からO157が検出され、そのDNAパターンが一致したことから、汚染源、汚染経路としての可能性を有する施設、生産材料等の調査を進めた結果、本年3月までに種子からPCR法によりO157合成抗原遺伝子DNA、VT(ベロ毒素)1遺伝子DNA、VT2遺伝子DNAを検出、またこれらの増殖性についても確認され、この種子が汚染源であることが推定されている。
 サルモネラについては、卵類及びその加工食品、複合調理食品、菓子類等を原因食品とする発生が主であることから、鶏卵のサルモネラ対策として、食品衛生調査会での検討結果を踏まえ、生産から消費にいたる全ての段階における卵の衛生的取扱いを徹底するよう、関係省庁と連携しながら必要な対策を講じることとしている。
 また、その他の食中毒発生時対策としては、発生状況を定期的に分析・評価し、国民に対する必要な情報提供を行うため設置されている食中毒情報分析分科会により、昨年はサルモネラ、ボツリヌス菌、寄生虫、A型肝炎ウイルスを取り上げ情報を分析し、対策を打ち出しており、今後とも継続的に各種食中毒に関する監視を行い、必要な対策を検討する予定である。

【厚生省の予防対策等】
 厚生省では、1996年の5月以降におけるO157による集団食中毒の多発に対応するため、内閣の「病原性大腸菌O−157対策関係閣僚会議」のもと、省内に「病原性大腸菌対策本部」を設置し、発生予防対策、原因究明対策等必要な対策を講じた。
 まず、発生予防対策として、夏期食品一斉取り締まりを延長・強化し、流通食品のO157汚染実態調査の実施、学校給食施設の一斉点検、と畜場における衛生管理の徹底等を行い、また、原因究明対策として、検食の保存期間の延長、感染症研究所における菌株のDNA分析等を行ってきた。
 さらに、昨年3月には、食中毒予防のための「家庭用衛生管理マニュアル」及び「大量調理施設衛生管理マニュアル」を作成し、予防対策を充実するとともに、4月及び5月に食材の汚染実態調査、学校給食の一斉点検等を行っている。
 本年はこれらに加え、社会福祉施設等給食の一斉点検を実施するとともに、調理施設におけるHACCP試行事業(平成9年〜)の中での調理形態別の一般的HACCP事例の作成等を通じて、調理施設の衛生管理の向上を目指しているほか、流通食品についてもO157、S.enteritidisに対象を絞った大規模調査を実施し、汚染実態の解明及び普及に努める予定である。また、これら2菌種については、一見独立した散発事例の多発と見えるが、発生状況及びDNA分析等から散発型の集中発生(いわゆるdiffuse outbreak)の可能性が示唆される事例が見出されており、発生時の疫学調査の必要性とともに、地方自治体と国立感染症研究所の連携によるDNA分析、ファージ型分析結果に基づいた分子疫学的調査手法による原因究明も徹底するようお願いしている。
 なお、これら食中毒対策には、科学的知見の充実が不可欠であることから、必要な調査研究についても充実していく方針である。



(資料1)食中毒対策体系図

(資料2)当面の食中毒対策について(平成10年3月17日 食品衛生調査会食中毒部会)





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