第4セッション 話題の感染症

     

本邦におけるアデノウイルス7型肺炎の臨床的検討


                   

医療法人宝生会PL病院小児科医長
                             西村 章


【緒言】従来稀であったアデノウイルス7型 (以下Ad7) 肺炎が平成7年より全国で報告されている。今後の診療および感染対策に資する目的で、Ad7肺炎のアンケート調査による臨床的検討を行ったので報告する。

【方法】学会抄録や自治体衛生研究所の感染症情報を基に、Ad7肺炎報告施設にアンケート調査を依頼した。この結果、1997年12月までに、20施設81例の情報を得た。これに当科で経験した8例を加えた計21施設89例のAd7肺炎を対象として後方視的に検討した(表1)

【結果】発症年齢と予後:2.1±2.2歳 (平均±標準偏差) で12ヶ月未満が29例 (33%) であった(図1)。11例 (12%) が死亡, 24例 (27%) に後遺症を認めた。基礎疾患:21例 (24%) に認めた(図2)。院内・家族内感染:院内感染の疑いは32例(36%)、家族内感染は20例(22%)に認めた(図3)。臨床症状:38.0℃以上の有熱期間は9.6±4.4日で, 全例に発熱、咳嗽を認めた。有熱期間は、死亡群と後遺症(+)群は、後遺症(-)群に比べて有意に長かった(図4)。58例 (65%) に酸素投与, 19例 (21%) に人工換気を要する呼吸障害を認めた。その他、意識障害35例 (39%) , けいれん19例 (21%) , 浮腫14例(16%)、嘔吐・下痢13例 (15%) を認めた。臨床検査:白血球減少4499.5±2755.3/μl, 血小板減少15.1±9.3万/μl, GOT上昇202.6±275.3 IU/l, LDH上昇2709.8±1773.5 IU/l, CPK上昇692.0±1401.8 IU/l, フィブリノゲン低下206.6±99.9 mg/dl, フェリチン上昇3184.3±4190.1 ng/mlが特徴的であった。サイトカイン(sIL-2R, IL-6, IFN-γ)が測定されていた3例はすべて高値であった(表2)。診断:ウイルス分離陽性が84例(94%)、抗体診断が42例 (47%) であった。EIA法による診断が13例 (15%) であった(図5)。治療:パルス療法を含むステロイド投与は41例(46%)であった。合併症:胸水25例 (28%) , ARDS15例 (17%) ,であった。肺外合併症(図6)は63例(71%)であり、肝障害28例(31%)、脳炎23例 (26%) , VAHS19例 (21%)、 胃腸炎13例 (15%) , (26%) , DIC6例 (7%) , 心不全5例(6%)、腹水4例 (4%) 等を認めた。予後:11例 (12%) が死亡し, 24例 (27%) に後遺症を認めた。後遺症の内容は、肺機能低下, 閉塞性肺疾患, 多動, 顔面神経麻痺、視野狭窄であった。(図7)。予後危険因子:多重ロジスティック回帰分析による死亡危険因子は、基礎疾患の存在とLDH高値であり、後遺症危険因子は基礎疾患の存在であった(表3表4)

【考案】Ad7肺炎は重症例が多く、全体の約40%が死亡または後遺症を残す点で重大である。症状、検査所見から、高サイトカイン血症の存在が推定される。今後、EIA法活用による早期診断と高サイトカイン血症の検索・治療が重要と考えられた。




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