第2セッション 予防接種について
ポリオ根絶に向けて(世界の現状、日本の現状)

国立感染症研究所 ウイルス2部 部長
宮村達男

1. はじめに
2000年の世界ポリオ根絶に向けて、事業は着々と進行している。まず急性四肢マヒ(Acute Flaccid Paralysis:AFP)の患者を見出し、そこからポリオウイルスを分離する。そして野生株が分離されなくなることをもって、世界レベルでポリオウイルスが野生株のウイルスからワクチンウイルスに置き換えられたこととする。このようなウイルスサーベイランスと強力なワクチン投与が、この計画の2本の柱である。

2. ポリオ根絶への戦略
計画の当初は、ポリオ患者をしらみつぶしに探し出し、そして臨床的に診断された患者の減少をもってポリオの根絶に立ち向かったものであった。しかし計画の後半からは、図1bに示すようなウイルス学的な実験室診断が基本原則となった。

3. 世界の現状
WHOに報告されているポリオ患者の発生は着々と減少し、1998年にはいわゆるpolio-freeの国々が大半を占めるようになった。特に南北アメリカからは1991年以降、野生株によるポリオ患者は一人も発生していない。表1に1996年及び1997年にWHOに報告されたAFP及びポリオ患者の数を、WHOの6つの地域別に分けて示す。我々の属する西太平洋地域及びヨーロッパ地域は、U型、V型の野生株はすでに見つからず、根絶まであと一息である。特に西太平洋地域では、1997年3月カンボジアとタイの国境の患者を最後に、1年以上野生株は分離されていない。

4. 日本のポリオ

 日本におけるポリオ患者の全国規模での実態は、1947年「伝染病届出規則」制定以来正式に把握された。1949年頃より全国各地でポリオの流行が報告された。1960年には北海道を中心に大流行し、1年間の患者が5,000名を越えた。1961年には輸入生ワクチンの緊急投与が行われ、1963年からは定期接種が始まった。その結果、ポリオ患者は激減し、現在までほぼ完全に制圧されている。したがって我が国ではWHO方式のAFPのサーベイランスシステムを導入するまでもなく、ポリオの制圧に成功したと言ってよい。しかし、現実には非AFP患者から偶然ポリオウイルス野生株が分離されることがある。又、近年の臨床医においてはポリオ患者を実際に診たことのない人が多く、最前線のポリオ診断はきちんとウイルス分離、同定をもってなされなければならない。1997年夏、我が国でもポリオ根絶宣言のための国内委員会が発足する一方、厚生省ではポリオ様疾患患者発生動向調査を開始した。



IDSCホーム

危機管理研修会トップページ