第2セッション 予防接種について
予防接種副反応調査


国立療養所三重病院院長
神谷 齊


予防接種接種後の副反応の発生率がどのくらいかは統計によって異なり、正確かつ正しく捉え切るのは至難の業である。その理由は、副反応にはワクチン抗原本来の性質による反応とワクチン中の夾雑物(蛋白質)、添加物(ゼラチン、チメロサールなど)によって、刺激または感作が成立して起きるアレルギー反応を介した副反応、真の副反応ではなく紛れ込みと思われるが完全否定はできない副反応がある。例えばDPTワクチン接種後24時間以内に乳児突然死症候群で死亡した場合や、麻しんワクチン接種7日後に発熱無く初めて痙攣発作を起こした場合で脳波異常があった場合等である。後者の場合てんかんの診断を受けたとしても、以前の脳波検査がしてない限り、麻しんワクチンウイルスが影響したのかどうかを証明することは難しい。これらの問題解決に取り組む手がかりとして、平成6年の予防接種法改正に際し取り入れた健康被害の把握の方法は以下の2つである。

1. 予防接種後副反応報告制度
発生した一定基準以上の副反応を後方視的に調査する方法として導入された。誰でも気づいた人が一定の基準と書式に従って報告出来るものであり、その結果は定期的に集計し厚生省から公表される。この目的は健康被害救済制度と切り離して、添付文書に記載されている当該ワクチンに通常みられる副反応の程度を越えていると思われるものの把握、同種の副反応が同一のワクチン又はロットにまとまって報告されてきた場合等早く知ることが出来るように計画されたものである。

接種責任者である市区町村長は、あらかじめ副反応報告書を管内の医療機関、保健所、保健センター等に配布しておき、報告者が予防接種後の健康被害と判断した場合には、その用紙(コピーも可)を使って当該健康被害者の居住地を管轄する市区町村長へ報告する。それは都道府県知事を経由し厚生省保健医療局長(担当結核感染症課)に報告され、予防接種副反応・健康状況調査検討会で最終集計され、都道府県知事を通じて市区町村長あて通知され、管内医療機関へ周知されると同時に、報道機関へも公表される。

表1は平成6年10月から平成9年3月までの結果まとめたものであり、既に厚生省結核感染症課より公表されている。この結果を判断する上で十分理解しておいていただきたい事は、この報告内容は現場の判断で報告されたものであり、予防接種との因果関係の確認は公式には検討されていないものである事、また同じレベルのものでも現場の判断によって報告されたりされなかったりすることもあり得るということである。しかし、一方的であれ異常と思われる反応を報告・集計する事により、予期せぬ副反応や全国的な拡がりが把握出来るルートが開かれた意義は大きいと思われる。

2. 予防接種後健康状況調査事業
あらかじめ依頼された定点で、対象とする予防接種を実施した場合その一定人数を全数登録し、その中に副反応なしが何例、各種副反応が何例発生したかを調査する(前方視的調査)もので、正しい実態把握をして広く国民に情報提供しようとするものである。調査実施機関は各県の予防接種担当課が地域医師会の協力を得て選定依頼することになっている。調査対象は定期接種で各都道府県において各ワクチンにつき原則として1調査機関を選定する。但し、ポリオ、BCGについては集団接種が主となっているので、市区町村単位で選定する。予防接種後健康状況調査の実施時期及び対象者数は、DPT、DT、麻しん、風しん、日本脳炎については、各四半期毎に40名を対象とし、接種後28日間を観察期間とする。ポリオについては、半年毎に100名を対象とし35日間、BCGは前半の半年を300名、後半は100名を対象として4ヶ月間観察する。観察期間が終了したら、接種者の保護者より郵送にて主治医へ返送され、主治医がその間のカルテ記録等を合わせてチェックの上、規定の調査表にまとめた上、県の担当課に報告し、整理されて厚生省に報告される。

この調査は全数把握を目的としているので、副反応がない場合も必ず送ってもらうこと、また通常見られる副反応(注射局所の発赤、発熱、発疹など)もすべて記入されていないと意味がない。回収された調査表は感染症課で集計し、予防接種後副反応・健康状況調査検討会で解析評価を行い、検討を加え還元すると共に、広く国民に公表し理解を深めていただくことになっている。

今回副反応をまとめる段階で問題になるのは、我が国で使用されているワクチンの内、ポリオとBCGは一つの製造機関で作られているため同一の製品であるが、麻しん、風しん、DPT等はそれぞれ株の性質、含有成分を異にしているので、抗原性は同一でも本来同一ではない。したがって細かく副反応を見て行く場合には、ワクチンは製造会社毎に評価する必要がある。例として麻しんワクチンの違いを示した。AIK―C株(北里研究所)とSCHWARZ株(武田薬品工業)は、EDMONSTON株を原株としており、CAM―70株(阪大微研会)とTD97株(千葉県血清研究所)は田辺株を原株としている。調査の結果については、まだ1年分がまとまった段階であり、正式の公表はまだされていないが、担当課の許可をいただいたのでその中でわかりやすい麻疹を例にとって示す。まだ接種母数に差が大きく単純に比較は出来ない。今後症例数の増加と共にそれぞれの特徴が明確になってくるであろう。また、この調査ではワクチンの抗原性の比較は行っていない。今後ユーザーの間で議論されるものと考える。今後はこのようなデーターを参考にして、個別接種で主治医が自分の使いたいワクチンを決めて行くことになる であろう。




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