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 感染症の話 1999 年第49週(12月6 日〜12 日)掲載

 
◆急性肝炎

疫 学
 肝臓を炎症の主座とするウイルスとしてはA型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスがある。新たな非A-E型肝炎ウイルスとして1995年にSimonsら、1996年にはLinnenらがGBV-C/HGVを報告した。また、1997年には輸血後急性肝炎例の血中からTTVが発見されたが、これらはこれまでのところ肝炎ウイルスと認知されるに至っていない。一方、急性肝炎を惹起するウイルスとしてはEpstein-Barr virus(EBウイルス)、 Cytomegalovirus(サイトメガロウイルス)など様々なウイルスが知られている。
 輸血後肝炎は1972年にHBs抗原、1989年にHBc抗体とC100-3抗体(第一世代HCV抗体)の導入、さらに1992年から第2世代HCV抗体の測定が行われるようになってからは減少の一途をたどっている。輸血後肝炎研究班の全国調査では1992年〜1996年2月までに輸血を受けた5,271名を輸血後3ケ月以上追跡したが、輸血後B型肝炎の報告はなく、C型肝炎を1名認めたが献血者の追跡ができず輸血後C型急性肝炎と断定できなかったとしている。その一方で11例の非A〜C肝炎輸血後肝炎の報告がありこれらの原因究明が今後の課題である。
 本年4月から施行された感染症新法「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」によりウイルス性肝炎は四類感染症に分類され、保健所への報告が必要となり、今後発生状況を把握する事が可能になると思われるが、現在のところ正確な急性肝炎発症動向を知る術はない。

病原体
A型肝炎ウイルス

 A型肝炎ウイルスは1947年にMacCallumらが潜伏期の異なる2種類のウイルス肝炎を区別し、潜伏期の短い方をA型肝炎、長い方をB型肝炎と命名した。その後、KrugmannらはHAVを含む感染性血漿MS-1を分離、さらにBoggsらはMS-1の経口継代に成功し、1973年にFeinstoneらが糞便中に排泄されたMS-1ウイルス粒子を検出した。HAVは直径27nmの正20面体粒子で、ウイルス遺伝子は1個のORFを持つ約7500塩基長のプラス鎖RNAである。HAV粒子の蛋白質には4種類のキャプシド蛋白質(VP1,VP2,VP3,VP4)とゲノムRNAの5'末端に共有結合する蛋白質VPgがある。ピコルナウイルス科、ヘパトウイルス属に分類される。

B 型肝炎ウイルス
 B型肝炎ウイルスは1963年にBlumbergオーストラリア原住民の一人の血清が、たびたび輸血を受けている血友病患者の血清と寒天ゲル内で沈降反応を起こすことを見いだし、オーストラリア抗原と名付けた。1968年にはPrince、大河内がそれぞれ独立して血清肝炎と密接な関係のある抗原を発見したが、それはオーストラリア抗原と同じであることが確認され、HB抗原として統一された。HBVは直径42nmの球形粒子で7nmの外被(エンヴェロープ)と環状2本鎖DNAとDNAポリメラーゼ、逆転写酵素などを包む直径27nmのヌクレオキャプシドからなるDNAウイルスである。HBV-DNAは約3200塩基対からなる環状2本鎖DNAであり、1)外被蛋白をコードしているpreS/S遺伝子、2)コア蛋白(HBc抗原)とHBe抗原をコードしているpre-C/C遺伝子、3)DNAポリメラーゼ・逆転写酵素・5'末端結合蛋白(primase)などをコードしているP遺伝子、4)X蛋白をコードするX遺伝子の4種類のORF(オープン・リーディング・フレーム)からなる。ヘパドナウイルス科に分類される。

C型肝炎ウイルス
 1989年、カイロン社の研究グループが米国CDCの研究者らとともに同定したHCVゲノムは約9.5k塩基からなるプラス鎖RNAであり、そのなかに各蛋白質をcodeする一本のORFが存在する。ゲノムの両端の非翻訳領域には二次構造に富む領域があるが、5'末端側にはIRES(Internal ribosome entry site)が存在し、翻訳反応の開始に重要な役割を持つ。3'末端(3'X)はRNAの安定化に寄与するとの報告があるが詳細は不明である。ウイルス蛋白質は前駆体蛋白質として翻訳され、宿主細胞由来のシグナルペプチダーゼにより構造蛋白であるコア蛋白質、外被蛋白質(E1, E2)が産生される。その後ウイルスのプロテアーゼによって非構造蛋白質NS2,NS3,NS4A,NS4B,NS5A,NS5Bに切断される。フラビウイルス科に属する。

D型肝炎ウイルス
 1977年RizzettoらによりHDVがコードする唯一の蛋白であるδ抗原抗体系が発見された。HDVはhepadona virus遺伝子または蛋白質の存在下でその生物活性を示す特殊な肝炎ウイルスである。直径36nmの大きさでHBVの表面蛋白抗原で覆われ、約1.7kbの環状一本鎖RNAとδ抗原蛋白質を内蔵している。D型肝炎はHDVがB型肝炎ウイルスキャリアーに重感染するかあるいは急性B型肝炎に同時感染して生じる。

E 型肝炎ウイルス
 HEVのウイルスゲノムは1989年、HCVとほぼ時期を同じくして同定された。直径約30nmのウイルス外被を持たない小型のRNAウイルスである。患者あるいは感染サル糞便を用いた免疫電子顕微鏡では27〜34nmの粒子として観察される。HEVゲノムは約7.2kbのプラス一本鎖RNAで3'末端にポリアデニル基を持っている。この中には5'末端からORF1,ORF3,ORF2の順にORFが一部重複しながら配列している。ORF1は非構造蛋白質をコードし、N末端側からメチルトランスフェラーゼ、システインプロテアーゼ、RNAヘリカーゼ、RNA依存RNAポリメラーゼのモチーフがある。ORF2は構造蛋白をコードしている。

診 断
A型急性肝炎の診断

 HAVは経口感染性であることから貝類の生食等の病歴聴取は重要である。血清学的診断としてはIgM型HAV抗体の測定が有用である。IgM型抗体は発症後、1週間目から出現し(60〜70%)、3〜4週間目に抗体価が最高値となり、以後次第に低下する。また、糞便中のHAV、あるいはHAV-RNAの検出によっても同定可能である。

B型急性肝炎の診断
 B型急性肝炎では潜伏期間中にHBs抗原、HBe抗原,HBV-DNA,DNAポリメラーゼなどが検出される。発症後、トランスアミナーゼの上昇とともにIgM型HBc抗体、IgG型HBc抗体の順に血液中に出現する。B型急性肝炎の早期診断にはHBs抗原、IgM型HBc抗体の検出が有用であるが、両マーカー陰性例において(TMA法による)HBV-DNAの陽性例が半数近く認められたとの報告もある。またIgM型HBc抗体の測定はキャリアーの急性発症と急性B型肝炎との鑑別に有用とされているが(B型急性肝炎では、IgG値は高値)鑑別に苦慮する症例も散見され、臨床経過の追跡が重要である。

C型急性肝炎の診断
 A型やB型急性肝炎と異なり、C型急性肝炎については未だIgM系抗体の有用性が認められておらず、抗原-抗体系での診断法が確立してない。従来より主としてIgG型抗体を測定するものとしてcore蛋白質に対する抗体(JCC-2, C22c)、NS4蛋白に対する抗体(C100-3)が用いられてきたが(第一世代)、現在ではC100-3とコア蛋白質領域およびNS3領域を抗原として組み合わせ検出感度が上昇した第2世代、さらにNS5領域の抗原も含めた第三世代の抗体測定系がHCV抗体スクリーニング検査としてきわめて有用となっている。しかしC型急性肝炎ではHCV抗体が陽性化する以前にHCVのゲノムであるHCV-RNAを検出し得ることから(Window period;ウインドウ・ピリオド)、HCV-RNAの測定(RT-PCR法)がその早期診断に必須である。

D 型急性肝炎の診断
 D型肝炎の診断は臨床所見のみからでは他のウイルス肝炎との鑑別は困難でHDVの血清動態を十分理解した上での血清マーカー測定が重要である。通常、同時感染(coinfection)ならびに重複感染(Superinfection)とも血清HBs抗原陽性、anti-HD陽性であるがD型肝炎急性期においては同時感染ではIgM型anti-HBc陽性・anti-HBc陰性または低力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期には低力価である。一方、重複感染では血清IgM型anti-HBc陰性・anti-HBc高力価陽性であり、血清anti-HDは発症早期から高力価となる傾向にある。またHDVのゲノムであるHDV-RNAの検出は早期診断に有用である。

E 型急性肝炎の診断
 肝炎発症時の糞便あるいは血清からHEV-RNAを抽出し、ORF1のRNA依存性RNAポリメラーゼ領域あるいはORF2の3'末端をPCRで増幅して検出する方法が一般的である。さらに武田らはHEVのVLP(virus-like particle;ウイルス中空粒子)を免疫抗原として作製した高度免疫血清によるウイルス抗原検出に有用なELISAを開発した。

臨床症状
 A型肝炎、E型肝炎では突然発熱し、それが数日間持続し、その間食欲不振、全身倦怠感、悪心嘔吐、右季肋部痛、濃色尿、下痢などが見られ、引き続き黄疸も認められるようになる。これらの症状は1-2週間程度で軽減する。一般的に、A型肝炎では38度以上の高熱になることが多い。
 B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎は比較的徐々に食欲不振、全身倦怠感、悪心嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感、濃色尿などが見られるようになり、引き続き黄疸も認められるようになる。一般的に、C型肝炎では黄疸などの症状が軽く、D型肝炎では発症が比較的急である。

治療・予後
 治療はいずれの急性肝炎でも対処療法のみであるが、劇症肝炎の場合には血漿交換、人工肝補助療法、肝移植などの特殊治療が必要となる。
 A型肝炎、E型肝炎では通常AST、ALTは1峰性の上昇を示して1-2ヶ月で正常化し、一過性感染である。しかし、A型肝炎の約1%が劇症化し、その約4割が死亡する。E型肝炎では妊婦で劇症化しやすく、その1-3割が死亡する。B型肝炎は感染年齢により予後が異なり、乳幼児の感染では無症状のままキャリア化することが多い。一方、成人の感染ではそのほとんどが一過性で1-2カ月で治癒する。しかし1%は劇症化し、その約6-7割は死亡する。免疫状態が正常な成人で感染した場合にはキャリア化することは少ない。乳幼児および成人のキャリアの一部が慢性肝炎となる。
 C型肝炎では通常AST、ALTは多峰性の変動を示し、6割以上がキャリアとなり、数十年かけて肝硬変、肝癌へと進展する。C型肝炎で治癒する例は急性肝炎で認められているものの、一度慢性肝炎になってから自然治癒する例はまれである。D型肝炎はB型肝炎とともに存在するが、D型肝炎とB型肝炎と同時に感染した場合には、まずD型肝炎、続いてB型肝炎が発症するため、重症化、劇症化することが多いが、キャリア化はまれである。しかし、B型肝炎患者がD型肝炎を発症した場合には多くがキャリア化する。

予 防
 A型肝炎、E型肝炎の予防には手洗い、飲食物の加熱が重要で、特にA型肝炎にはHAワクチンが有効である。日本人の大半はA型肝炎ウイルスに対する抗体がないので、流行地に出かける人はワクチンを接種することをすすめる。B型肝炎では、母子感染の予防策としてキャリア母からの新生児に高力価HBs抗体含有免疫グロブリン(HBIG)とHBワクチンの投与が行われる。成人の感染では性感染、医療行為などがあり、HBワクチンが有効である。C型肝炎では医療行為などが原因となるものの、輸血血液のスクリーニング以外に有効な予防法はない。D型肝炎では性感染などに注意が必要で、場合によりHBワクチンが有効である。

発生動向調査
 急性肝炎は感染症新法において4類感染症に分類されており、診断した医師には直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届けることが義務づけられている。
 報告のための基準は以下の通りである。
 ◯診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって検査所見による判断がなされたもの
 1)A型肝炎
  ・ 血清抗体の検出:(例)血清中の IgMHA抗体が陽性のもの
 2)B型肝炎
  ・血清抗体の検出:(例)患者血清中のIgMHBc抗体陽性のもの(キャリアから急性増悪例は含まない)
 3)C型肝炎
  ・ 核酸・ 抗原の検出:(例)HCV抗体陰性で、HCVRNAまたはHCVコア抗原が陽性のもの
  ・ 血清抗体の検出:(例)患者ペア血清で、第2あるいは第3世代HCV抗体の明らかな抗体価上昇を認めるもの
 4)その他のウイルス性肝炎
  ・ HDV、HEVなどの上記以外の肝炎ウイルスによる急性肝炎や、その他の非特異的ウイルスによる急性肝炎
  ・病原体検査や血清学診断によって、急性ウイルス性肝炎と推定されるもの(この場合には、病原体の名称についても報告すること)
 ◯上記の急性ウイルス性肝炎の報告のための基準を満たすもので、かつ、劇症肝炎となったものについては、報告書の「症状」欄にその旨を記載する。劇症肝炎については、以下の基準を用いる。
  ・肝炎のうち症状発現後8週以内に高度の肝機能障害に基づいて肝性昏睡II度以上の脳症をきたし、プロトロンビン時間40%以下を示すもの。発病後10日以内の脳症の出現は急性型、それ以降の発現は亜急性型とする。

 (注)慢性肝炎、キャリアーについては届け出の対象にはならない。

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この記事は、2002年第03 週にて改訂/更新いたしました。
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