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感染症の話
1999 年第47週(11月22
日〜28 日)掲載
◆乳児ボツリヌス症
乳児ボツリヌス症は生後一年未満の乳児がボツリヌス菌芽胞を経口的に摂取した場合、菌が腸管内で増殖後、産生した毒素により発症する。1976年米国での例が最初の発生報告となっているが、ボツリヌス症の診断に便の検査を導入した結果、新しい型のボツリヌス症として確認されたものである。生後2週目以前の乳児における感染報告例は少なく、母乳(初乳)に含まれる成分が菌の定着・増殖を抑制していることが考えられる。また、患者のほとんどは離乳食を与える前に感染するため、腸内細菌叢を構成している細菌の種類がボツリヌス菌の増殖に関与しているという指摘もある。
疫学および病原体
国内では1986年、千葉県において初発例が確認され原因調査の結果、輸入ハチミツから、患者の便から分離されたものと同型のClostridium
botulinum A型菌が検出された。この症例報告により、1987年10月厚生省は「1歳未満の乳児にハチミツを与えないように」各都道府県に通知を出した。以来、国内で報告された20例足らずの大半はA型菌によるものであるが、B型、C型菌によるものも報告されている。感染源としては国内患者の半数がハチミツを摂取した後に発症しているが、野菜ジュース、コーンシロップ等も感染源となりうる。1990年の北海道のC型、1996年の東京のA型菌毒素の報告例は野菜スープが原因食とされている。A,
B型菌が国内の土壌中から分離された例は稀であり、汚染源はボツリヌス菌芽胞を含む輸入食品が疑われている。
乳児ボツリヌス症は弛緩性の麻痺、呼吸麻痺を主症状とし、致命率は食餌性ボツリヌス症とは異なり1〜3%と低い。乳児の突然死症候群(Sudden
infant deaths syndrome)の1原因と考えられ、突然死症候群の数%は本症によるという海外報告もある。国内でも北海道の例は突然死型と報告されている。また、ボツリヌス菌以外の菌による感染例もある。1979年Clostridium
baratiiの産生したボツリヌスF型毒素による例と1984年Clostridium butyricumの産生したボツリヌスE型毒素による発生例が報告されている。
臨床症状
出生後順調に発育していた乳児が便秘傾向を示す。大半の患者は便秘状態が数日続き、全身の筋力低下、脱力状態(floppy)、ほ乳力の低下、泣き声が小さくなる。特に、顔面は無表情となり、頸部筋肉の弛緩により頭部を支えられなくなる(図1)。眼瞼下垂、瞳孔散大、対光反射が緩慢になる等、食餌性ボツリヌス症と同様な症状が認められる。また、患者は頑固な便秘のために便からは長期間(1〜2カ月)菌が排泄される例も珍しくない(図2)。
ボツリヌス症の筋電図診断法:ボツリヌス患者は毒素による特異的な臨床所見とともに筋電図(EMG)に特有なBrief-duration,
small-amplitude, overly-abundant, motor-unit action potentials (BSAP)の波形が得られることが報告されている。菌の分離と共に診断の確定には本試験は有用である。
病原体診断
血清または便抽出液中の毒素の検出:毒素の検出には動物試験が確実で、毒素に対する感受性も他のin vitro試験法に比べて高い。I群菌(A,
BおよびF型のタンパク分解菌群)が産生するボツリヌス毒素は、トリプシン等のタンパク分解酵素により活性化されていないが、II群菌であるタンパク非分解性B,
EおよびF型菌の産生した毒素は、タンパク分解酵素により毒素活性が著しく上昇する(E型毒素は500倍以上)。食品や便中の毒素は混在菌が産生する蛋白質分解酵素により毒素が活性化された状態で存在していると考えられるが、試験検体に1mg/mlトリプシンを0.1-0.2ml添加後、37℃30分処理したものを直ちにマウス腹腔内に0.5ml接種する。マウスはボツリヌス毒素による運動筋の麻痺の出現により、四肢の麻痺による歩行障害、眼球の異常運動、腹部の陥凹が見られ、強い毒素の場合は数時間後から3日前後で死亡する。トリプシン処理した検体を保存する場合はトリプシンインヒビターを加える。患者血清についても上記蛋白非分解の菌型が分離されたときは、トリプシンによる活性の上昇がないか試験する。マウス試験には抗毒素添加、無添加による中和試験を併行する。
便からの毒素および菌の検出方法:検査材料としては患者の便が最も適当であるが、患者は便秘をしている場合が多く、材料の採取が困難である。菌の分離は肛門を綿棒等で塗布した材料でも可能である。抗生物質を投与する前の材料が望ましいが、治療中の材料からでも菌および毒素の検出・確認は可能である。便秘を改善するために患者への浣腸は腸粘膜を傷つける恐れがあり、毒素の吸収が増すために注意が必要である。便が得られない場合でも回収された洗浄液から菌の分離、毒素の検出を行う。通常便中には多数の菌が含まれるため、寒天平板培地(GAMまたは血液)に直接塗布しても分離が可能である。これと併行して、強化クックドミート培地または肝片加肝臓ブイヨン培地で増菌後、分離をおこなう。
治療・予防
生体内で増殖した菌が、毒素を産生するため治療には抗生物質による除菌が必要である。患者は頑固な便秘を呈するため、発症後は菌と毒素が便より長期間検出される。入院中の患児の看護・管理においては、医療従事者が二次感染の伝播者となることがあるので十分に注意が必要である。抗毒素療法は患者が乳児であること、致命率が高くないことの理由で一般には行われない。
離乳後は腸管内にClostridium属菌が定着することにより、ボツリヌス菌の定着感染が起こりにくくなると考えられる。従って、離乳前の乳児には、芽胞が汚染している恐れのある食品(ハチミツ、コーンシロップ、野菜ジュース等)は避けることが、唯一の予防である。
発生動向調査について
乳児ボツリヌス症は全数把握疾患で4類感染症に分類されている。 報告基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
・病原体及び毒素の検出
例:腸管内容物特に、糞便中のボツリヌス菌の分離と同定および検体試料のマウスへの投与による毒素の検出と同定(毒素遺伝子のPCR法による検出も可能)
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