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 感染症の話 1999 年第38 週(9 月20 日〜26 日)

 
◆腸チフス、パラチフス

 腸チフス・パラチフスは一般のサルモネラ感染症とは区別され、チフス性疾患と総称される。腸チフス・パラチフスは、チフス菌 (Salmonella Typhi)・パラチフスA菌 (Salmonella Paratyphi A)の感染による網内系マクロファージ内増殖に伴う菌血症と腸管の局所の病変を特徴とする疾患である。1999年4月から施行された感染症新法では、腸チフス・パラチフスは第2類感染症に指定され、患者、疑似症患者および無症状病原体保有者(保菌者)を診断した医師は、速やかに保健所長を通じて都道府県知事に届け出るように決められている。
 チフス菌、パラチフスA菌以外にもヒトにチフス様症状を起こすサルモネラ属菌(S. Sendai, S. Paratyphi B, S. Paratyphi C )もあるが、これらはサルモネラ症として扱われる。

疫 学 
 腸チフス・パラチフスは現在でも、日本を除く東アジア、東南アジア、インド亜大陸、中東、東欧、中南米、アフリカなどに蔓延し、流行を繰り返している。わが国でも昭和初期から終戦直後までは腸チフスが年間約4万人、パラチフスが約5,000人の発生がみられていた。そして、1970年代までには環境衛生状態の改善によって年間約300例の発生まで減少した。その後さらに減少し、1990年代に入ってからは腸チフス・パラチフスを併せて年間約100例程度で推移している。日本国内に由来する発生例は減少しているが、海外からの輸入事例は、むしろ増加傾向にある(図1)。腸チフス・パラチフスの集団発生は、1990年代に入ってからは、1993年に首都圏で50名の腸チフス患者、1994年には近畿地方で34名のパラチフス患者、1998年には関東地方で約20名のパラチフス患者による集団発生があった。その他に、年間数例ではあるが、保菌者を介して感染したと思われる家族内感染がみられる。家族内感染では、保菌者である高齢の老人から、同居している小中学生、幼児などの低年齢者がチフス菌、パラチフスA菌に感染し発症するケースがみられている。
 わが国では腸チフス、パラチフスの疫学調査のために、チフス菌・パラチフスA菌の分離菌株は、地方衛生研究所を通じて国立感染症研究所に集められファージ型別を行っている。ファージ型は感染経路の追求に非常に有効な方法であり、集団発生の時にはファージ型で感染経路の追求が行われる。現在、チフス菌は106型、パラチフスA菌は6型のファージ型に分類されている。


病原体 
 チフス菌、パラチフスA菌はグラム陰性桿菌で周毛性鞭毛を持ち運動性がある(図2)。チフス菌、パラチフスA菌は宿主特異性がありヒトにのみ感染し、病気を起こす。ヒトの糞便で汚染された食物や水が媒介体となる。感染源がヒトに限られているため、衛生水準の向上とともに発生頻度は減少する。

臨床症状 
 腸チフスとパラチフスは臨床症状はほとんど同じであるが、パラチフスは腸チフスに比較して一般的に症状は軽い。通常10-14日の潜伏期の後に以下の症状を起こす。
 第1病期:段階的に体温が上昇し39-40℃に達する。三主徴である比較的徐脈、バラ疹、脾腫が出現する。第2病期:極期であり、40℃台の稽留熱、下痢時に便秘を呈する。重症な場合では、意識障害を引き起こす。第3病期: 弛張熱を経て徐々に解熱に向かう。腸出血後に2-3%の患者に腸穿孔がおきることがある。第4病期:解熱し、回復に向かう(表1)。生化学的検査では、急性期には白血球は軽度に減少し3000/mm3近くまで低下する。GOT, GPTは軽度上昇する(200 IU/l程度)。LDHも中程度に上昇し1000 IU/l以上となることもある。

病原体診断  
 臨床診断は症状及び過去1カ月以内の発展途上国などへの海外渡航歴を参考にする。確定診断は、臨床材料(血液、糞便、胆汁)からチフス菌・パラチフスA菌を検出することである。有熱期の血液培養で高い検出率を示す。保菌者、無症状者では糞便培養、胆汁培養を行う。
 臨床的には、持続性の発熱患者、特に不明熱の患者を診た場合には、腸チフス・パラチフスの可能性を考慮すべきであるが、本症は比較的まれな疾患であるため、感冒などと誤診されることも多く、診断の遅れが問題となっている。海外渡航歴のある患者で不明熱を主訴とする鑑別すべき疾患としては、腸チフス・パラチフス、レプトスピラ症、マラリア、デング熱、A型肝炎、恙虫病、紅斑熱、ウイルス性出血熱などがあげられる。

治療・予防  
 腸チフス、パラチフスには抗生物質の投与による治療が行われる。従来は、クロラムフェニコール(CP)、アンピシリン(ABPC)、ST合剤(SXT)のいずれかによる治療が行われてきたが、現在ではニューキノロン系の薬が第1選択薬として使われるようになりつつある。チフス菌では、日本国内事例からは薬剤耐性菌はほとんど分離されていないが、海外からの輸入事例特に、インド亜大陸、タイへの渡航者からアンピシリン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン(TC)、ストレプトマイシン(SM)、ST合剤の5剤に耐性を持つ多剤耐性チフス菌が分離され,年々増加傾向にある(表2)。パラチフスA菌においては多剤耐性菌はほとんどみられないものの、CP、SM、SXTなどの1つの薬剤に耐性の株が毎年増加してきている。現在,腸チフスの治療の第1選択薬であるニューキノロン系のシプロフロキサシン(Ciprofloxacin)にも耐性を示す株の存在が数多く報告されている。多剤耐性チフス菌はインド亜大陸、中央アジア、東南アジアで現在も流行し、時に集団発生を起こしている。これらの多剤耐性チフス菌のファージ型はE1, UVSが多い。ニューキノロン系の薬剤が使用されるようになってから、逆に使用率の低下したCPに対して感受性を示すチフス菌が増加してきたという報告がある。日本にもニューキノロン系の薬剤に耐性を持つ多剤耐性チフス菌が、海外からの輸入事例として入ってくることは確実である。今後、腸チフスの治療には直ちにニューキノロン系の薬剤を投与するのではなく、分離菌株の薬剤感受性を調べてから治療を始めるという姿勢がますます必要となってきている。
 腸チフス・パラチフスの予防には、腸チフス・パラチフス混合ワクチンの接種が行われていたが、副反応が強いため1974年に中止された。現在は、腸チフス・パラチフスのワクチン接種は日本国内では行われていない。しかし、外国では現在でもワクチン接種が行われている。米国では、1)加熱フェノール不活化ワクチン、2)Ty21a弱毒化経口生ワクチン、3)Viワクチンの3種類のワクチンが認可され使用されている。これらのワクチンは効果の持続期間や副作用の点で異なり、それぞれに特徴がある。

発生動向調査について
 腸チフス、パラチフスは2類感染症であり、診断した医師は直ちに最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届けることとなっている。報告の基準は以下の通りである。
<腸チフス>
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
  (材料)末梢血、骨髄液、便、尿、胆汁等
   ・病原体の検出
     チフス菌の分離・培養
 ○疑似症の診断
  臨床所見、腸チフス流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する。
  (鑑別診断)マラリア、デング熱、A型肝炎、つつがむし病など
<パラチフス>
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の方法によって病原体診断がなされたもの。
  (材料)末梢血、骨髄液、便、尿、胆汁等
   ・病原体の検出
     Salmonella serovar Paratyphi Aの分離・培養
     (Salmonella Paratyphi B、Cはサルモネラ症として取り扱う)
 ○疑似症の診断
  臨床所見、パラチフス流行地への渡航歴、集団発生の状況などにより判断する。
  (鑑別診断)マラリア、デング熱、A型肝炎、つつがむし病など

学校保健法での取り扱い
 本疾患は学校保健法上、第一種の伝染病に分類されているが、感染症新法にて2類に指定されていることより、原則として患者は指定医療機関に入院するので、治癒するまで出席停止となっている。

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updated info

この記事は、2002年第05週 にて改訂いたしました。

 

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