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感染症の話
1999 年第32 週(8 月9 日〜15 日)
◆破 傷 風
破傷風(tetanus)は、 嫌気性のグラム陽性桿菌である破傷風菌(Clostoridium
tetani )の感染により、組織内に侵入した菌が産生する毒素によって生じる開口障害(trismus)、次いで生じる随意筋の重度の硬直と有痛性の痙攣を特徴とする、急性細菌性感染症である。破傷風菌は世界中に分布している。菌は主として創傷部位より生体に侵入するので、破傷風菌に対する免疫の無い者は、受傷時には常に感染の機会があると考えておいた方がよい。本症罹患は死に至る危険性が高く、新生児における死亡率は約75%、50歳以上では約40%、全体では約30%である。
破傷風ワクチン(トキソイド)を含むDPT三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風)は我が国を含む世界各国で実施されており、その普及とともに各国において破傷風の発生数は激減している。しかしワクチン接種を行っていない者での発病は我が国でも少数ながらいまだに見られており、世界各国ではまだ多くの患者が発生している。ことに分娩時感染による新生児における発症(新生児破傷風)が、発展途上国での大きな問題の一つとなっている。
流行状況
我が国における破傷風患者の届け出数は、1950年頃には年間約2,000人前後であったが、1955年頃より1,000人以下となり、1980年頃より50人前後で推移している。死亡率は1960年代で約70%であった。近年は患者数、死亡者数ともに減少したとはいえ、死亡率は約40%と依然高い。近年の我が国での死亡例の約70%は40歳以上で、特に60歳以上の高齢者がその多くを占める。一方、新生児破傷風の届け出はみられなくなった。
WHOによれば、新生児破傷風だけで年間35万人が発生し、そのうち約25万人が死亡していると推計している。その多くは発展途上国の新生児であり、不衛生な状態の出産に加えて、母体の破傷風に対する免疫の欠如のためと考えられている。
主な症状
創傷の大小や汚染程度によって異なるが、通常4-14日間ほどの潜伏期を経て次第に症状が出現してくる。
第1期:口を開けにくい(開口障害)こととそれに伴う諸症状、ものを噛むと顎が疲れる、首筋が張る、寝汗をかく、歯ぎしりをするなどの症状が現れる。
第2期:開口障害が次第に強くなる。嚥下困難、発語障害、呼吸困難、胸痛、歩行困難などが現れる。
第3期:全身性の強直性痙攣が出現。全身の随意筋の有痛性間欠的強直が特徴で、数秒から数分間持続する。反弓緊張(opisthotonus)姿勢が見られる。痙攣は、わずかな光、音、接触などの刺激によって誘発される。次第に発作回数は増加し、持続時間、疼痛なども増強するが、意識は通常清明である。1週間以上持続することが多いが、呼吸筋麻痺あるいは窒息などによる死亡が生じやすい、もっとも危険な時期である。
第4期:数週間の経過で諸症状が次第に回復してくるが、開口障害が最後まで残る。筋肉の萎縮と無力感が強い。
診断のためには、外傷、手術、出産などの有無、どこで外傷などを受けたか、ワクチン接種の有無などの既往歴が重要である。
病原・感染経路
グラム陽性嫌気性桿菌である破傷風菌(Clostoridium tetani)の感染による。破傷風菌はテタノスパスミンとよばれる外毒素を産生、この毒素は随意筋の神経菌接合部に作用し、主症状をおこす。
破傷風菌は、通常土壌・塵埃中に芽胞の形で存在し、100℃の加熱にも耐え、乾燥状況下でも10数年間生き続けることが出来る。動物の糞便などから検出されることもあるが、感染源の多くは創傷部位に付着した土、埃などである。適切な創傷処置が行われれば、感染はあっても発症の機会は少ない。放置した汚い傷、創傷内に砂利や刺し傷のもととなった板切れなどの破片が残ったままの場合が危険である。新生児破傷風は、不潔な分娩に加えて不潔な臍処置がもっとも危険である。
細菌学的検査
感染部位(外傷部位)から破傷風菌を分離し、分離された菌について毒素の検出を行う。しかし菌の分離率は約30%程度であるので、必ずしも診断の確定のために必要とはしない。治療のためには、臨床診断を優先とする。
治 療
創傷部の充分なデブリドマン、消毒。破傷風免疫ヒトグロブリン(TIG)の筋注または静注による投与。ペニシリンG、テトラサイクリンなどの抗生剤の投与。抗痙攣剤の投与。気道確保。
破傷風は人から人への感染はない。従って収容した患者について、病棟内では通常の感染症に対する注意で十分であり、隔離等は不用である。ただし患者は集中治療室などでの治療が望ましい。
予 防
破傷風ワクチンを一度も受けたことがない、あるいはワクチン歴が不明な者の不潔な外傷に対しては、破傷風発症の予防策として、適切な創傷処置に加えてTIGの投与を行う。またワクチン接種者であっても、創傷の程度によっては破傷風ワクチンの追加接種を行う。
我が国では、破傷風(T)ワクチンは1960年から製造が始まり、1964年からDPTワクチンとして使用が開始され、その後広く普及した。しかし予防接種法による定期接種ワクチンとして定められたのは、平成6年の予防接種法改正時である。現在我が国において予防接種法に基づいて行われているDPT三種混合ワクチンの定期接種は、1期初回として生後3-90カ月(標準的には生後3-12カ月)に3回、その12-18カ月後に追加接種を行い、11-12歳には百日咳を除いたDT二種混合ワクチンによる第2期接種が行われている。
破傷風ワクチンは、世界各国においてEPI(Expanded program on Immunization:拡大予防接種事業)ワクチンの一つとして、その普及を強力に進めている。またことに途上国においては、妊婦に対する破傷風ワクチンの単独接種を行い、新生児破傷風の発症予防に取り組んでいる。
感染症新法の中での破傷風の取扱い
破傷風は第4類の全数届出疾患に定められており、診断した医師は診断から7日以内に保健所に届け出る必要がある。
報告のための基準は、以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、外傷の既往と臨床症状などから、破傷風が疑われる場合
なお、感染部位(外傷部位)からの破傷風菌の分離と同定、及び分離菌からの破傷風毒素の検出がなされれば、病原体診断である旨を報告する。
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