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 感染症の話 1999 年第26 週(6 月28 日〜7 月4 日)掲載

 
日本脳炎

疫 学
 日本脳炎は極東から東南アジアにかけて広く分布しているが、最近はインド、ネパール、オセアニアにまで広がっている。経済活動により水稲の栽培(蚊の発生場所)とブタの飼育(増幅動物)が盛んになった地域で、新たに日本脳炎の流行が見られているが日本、韓国はワクチンの定期接種によりすでに流行が阻止されている。日本では、1960年代半ばまでは毎年数千人の患者があったが、ワクチンの普及とともに減少し、現在は年間数人の患者発生を見るだけとなった。厚生省では毎年夏に、ブタの日本脳炎ウイルス抗体獲得状況から間接的に、日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調べている。それによると、毎夏日本脳炎ウイルスを持った蚊はかなり発生しており、国内でも感染の機会はなくなっていない。発生している患者は少数ではあるが、そのほとんどはワクチン接種を受けていない幼児と高齢者である。

病原体
 日本脳炎はフラビウイルス科に属する日本脳炎ウイルスに感染することによっておこる。このウイルスは、古い分類では伝播様式からアルボウイルス(節足動物媒介性ウイルス)と分類されていた。日本などの温帯では水田で発生するコガタアカイエカが媒介するが、熱帯ではその他数種類の蚊が媒介することが知られている。ヒトからヒトへの感染はなく、増幅動物(ブタ、ウマ、サギ等の野鳥等)の体内でいったん増えて血液中にでてきたウイルスを、蚊が吸血し、その上でヒトを刺した時に感染する。ブタは、特にコガタアカイエカに好まれること、肥育期間が短いために毎年感受性のある個体が多数供給されること、血液中のウイルス量が多いこと等から、一番の増幅動物となっている。ヒトでは血液中にでてくるウイルス量は極めて少なく、自然界では終末の宿主である。また、感染しても日本脳炎を発病するのは数百人〜千人に一人程度であり、大多数は抗体を作るが無症状に終わる。

臨床症状
 日本脳炎の潜伏期は6〜16日間といわれる。症状は不顕性感染で終わるものがもっとも多いが、それ以外に頭痛を伴うかぜ様症候群、無菌性髄膜炎、脳炎に至るまで様々である。典型的な脳炎では、数日間の高い発熱、頭痛、悪心、嘔吐、眩暈などで発病する。小児では腹痛、下痢を伴うことも多い。これらに引き続き急激に項部硬直、光線過敏、種々の段階の意識障害とともに、神経系障害を示唆する症状、すなわち筋強直、脳神経症状、不随意運動、振戦、麻痺、病的反射などが現れる。感覚障害は稀であり、麻痺は上肢で起こることが多い。脊髄障害や球麻痺症状も報告されている。痙攣は小児では多いが成人では10%以下である。
 検査所見では、末梢血白血球の軽度の上昇がみられる。急性期には尿路症状がよくみられ、無菌性膿尿、顕微鏡的血尿、蛋白尿などを伴うことがある。髄液圧は上昇し、髄液細胞数は初期には多核球優位、その後リンパ球優位となり10〜500程度に上昇することが多い。1,000以上になることは稀である。蛋白は50〜100mg/dl程度の軽度の状況がみられる。
 死亡率は5〜40%で、幼少児や老人では死亡の危険は大きい。精神神経学的後遺症は生存者の45〜70%に残り、小児では特に重度の障害を残すことが多い。パーキンソン病や痙攣、麻痺、精神発達遅滞、精神障害などである。

病原体診断
 日本脳炎が疑われた場合は、血清の抗体価を調べる。HI、CF、ELISAがある。確定診断のためにはHI、CF抗体は、単一血清ではそれぞれ1:640, 1:32以上の抗体価であることが必要である。適当な時期のペア血清で抗体価が4倍以上上昇していれば、それより1〜2管低い価でもほぼ確実となる。ELISAでは、IgM抗体が陽性であればほぼ確実といえる。 HIはCFよりも感度は高いが、海外で感染した可能性のある場合には、その地域で流行している他のフラビウイルス、例えばデングウイルスと交差反応があるので注意が必要である。IgM ELISAの方が特異性が高い。抗体が上昇する前に死亡した症例では、臨床診断に頼らざるを得ない。症状の経過の記載が重要である。剖検あるいは鼻腔からの脳底穿刺により脳材料が得られた場合は、ウイルス分離、ウイルス抗原の検出あるいはRT-PCRによりウイルスRNAの検出を試みると、確実な診断となる。血液や髄液からのウイルスの検出は非常に難しい。

治療・予防
 特異的な治療法はなく、支持療法が中心となる。高熱と痙攣の管理が重要である。脳浮腫は重要な因子であるが、大量ステロイド療法は予後、死亡率、後遺症などを改善することはできないと云われている。
 日本脳炎は症状が現れた時点ですでにウイルスが脳内に達し、脳細胞を破壊しているため、将来ウイルスに効果的な薬剤が開発されたとしても、すでに破壊された脳細胞の修復は困難であろう。日本脳炎の予後が30年前と比較しても死亡例は減少したが全治例は約3分の1と全く変化していないことからも、治療の難しさが明らかである。日本脳炎は予防が最も有効な疾患である。
 予防の中心は、蚊の対策と予防接種である。日本脳炎の不活化ワクチンが予防に有効なことは、すでに証明されている。実際近年の日本脳炎確定患者の解析より、殆どの日本脳炎患者は予防接種をうけていなかったことが判明している。1988年までは、我が国ではワクチン株として中山-予研株を用いていたが、1989年から免疫原性が高く、抗原性が野外分離株により近いと考えられる北京-1株に変更された。ワクチンは第I期として初年度に1〜2週間間隔で2回、さらに1年後に1回の計3回、各0.5mlの皮下注射を行うことによって基礎免疫が終了する(3歳未満は0.25ml)。第I期は通常3歳で行われるが、その後第II期として9〜12歳に、第III期として14〜15歳に追加接種をうけることとされている。

発生動向調査について
 日本脳炎は4類感染症のうち全数把握疾患となっており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届けることとなっている。報告の基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
 (1)病原体の検出
   例:血清、髄液からの日本脳炎ウイルスの分離など
 (2)病原体の遺伝子の検出
   例:PCR法など
 (3)病原体に対する抗体の検出
   例:血清または髄液中の日本脳炎ウイルス特異的IgM抗体の存在
    血清抗体価の上昇(IgG抗体価がペア血清で4倍以上の上昇)など

学校保健法での取り扱い
 本疾患は基本的にヒトからヒトへの感染はなく、学校において流行を拡げる可能性は無いと考えられるため、学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされていない。

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この記事は、2002年第1・2週にて改訂/更新いたしました。
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