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感染症の話
1999 年第22 週(5 月31 日〜6 月6 日)掲載
◆咽頭結膜熱
臨床症状
咽頭結膜熱(Pharyngoconjunctival fever、PCF)は、アデノウイルスによる感染症で、プールを介して流行することがあるため、プール熱とも呼ばれる。発熱をもって発症し、頭痛、食欲不振、全身倦怠感とともに、咽頭炎に起因する咽頭痛、結膜炎にともなう結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂を訴え、3〜5日間程度持続する。眼症状は一般的に片方から始まるが、その後他方にも出現する。また結膜の炎症は下眼瞼結膜に強く、上眼瞼結膜には弱いとされる。眼に永続的な障害を残すことはない。また、頚部特に後頚部のリンパ節の腫脹と圧痛を認めることがある。潜伏期は5〜7日とされている。
疫 学
本疾患の原因であるアデノウイルス自体は特に季節特異性はなく年間を通じて分離される。しかしながら、咽頭結膜熱という疾病は、通常夏期に大きな流行をみ、6月頃から徐々に増加しはじめ、7〜8月にピークとなる。通常学童年齢の罹患が主であるとされているが、感染症発生動向調査での罹患年齢は5歳以下で80%以上を占めている。感染経路は通常飛沫感染であるが、プールでは結膜や経口的な感染も考えられる。
病原体
アデノウイルスは、正20面体構造をとるDNAウイルスであり、エンベロープを持たない。47種類の血清型が知られており、咽頭炎、扁桃炎、肺炎などの呼吸器疾患、本稿で述べている咽頭結膜熱、流行性角結膜炎などの眼疾患、胃腸炎などの消化器疾患、出血性膀胱炎などの泌尿器疾患から、肝炎、膵炎から脳炎にいたるまで、多彩な臨床症状を引き起こす。咽頭結膜熱をおこすのは、多くは3型、あるいは4型、7型であるが、逆にこれらの血清型のアデノウイルスが感染してもかならずしも咽頭結膜熱の症状を来すとも限らない。乳幼児の急性気道感染症の10%前後がアデノウイルス感染症といわれ、アデノウイルスは小児のウイルス感染症としては一般的によく見られるウイルスである。
アデノウイルス7型について
近年のアデノウイルスの傾向として、以前には少なかった7型が増加してきたことがあげられる。わが国ではアデノウイルス7型の分離報告は1994年までは極く少数の散発例のみであったが、1995年以降急激に増加している。注意すべき点は心肺機能低下、免疫機能低下等の基礎疾患のある人、乳幼児、老人では重篤な症状となることがあり、呼吸障害が進行したり、さらに細菌の二次感染も併発しやすいということである。最近感染症関連の学会などでも各地の医療機関よりアデノウイルス7型感染の重症例の報告が相次いでおり、引き続きこのウイルスの動向には注意を払う必要がある。
病原体診断
確定診断には、患者の鼻汁、唾液、喀痰、糞便とそれぞれの拭い液、洗浄液、胸水、髄液を検査材料としてウイルスを分離するか、あるいはウイルス抗原を検出する。最近ラテックス凝集(LA)反応や酵素抗体(ELISA)法での抗原検出キットが市販され早期診断に使用されているが、型別はできない。しかしながら、近年遺伝子診断(PCR法や制限酵素切断法など)が可能となり、迅速診断に有用で、簡便かつ型別可能な方法である。
血清学的診断は、急性期と回復期のペア血清を用い、赤血球凝集阻止反応(HI)、補体結合反応(CF)、中和反応(NT)などで行われる。CFは感度の点でやや劣り、血清型の特定はできない。NTおよびHIは理論的には型特異的であるが、実際には交叉反応もあるため型特定が困難なこともある。
発生動向調査について
咽頭結膜熱は4類感染症のうち定点把握疾患となっており、小児科定点医療機関から毎週の年齢群別発生数が報告されている。報告の基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下の2つの基準をすべてを満たすもの
1. 発熱、咽頭発赤
2. 結膜充血
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
学校保健法での取り扱い
学校保健法では、第2種伝染病に位置づけられており、主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とされている。ただし、病状により伝染の恐れがないと認められたときはこの限りではない。
治療・予防
特異的治療法はないため、対症療法が中心となる。眼症状が強い場合には眼科的治療が必要になることもある。対策としては、感染者との濃密な接触を避けること、流行時にうがい、手指の消毒を励行することでさらなる流行を抑えることである。プールを介しての流行に対しては、水泳前後のシャワーなど一般的な予防方法の励行が大切であるが、プールを一時的に閉鎖する必要のあることもある。7型感染症の場合には心肺機能に基礎疾患をもつ小児では重症化の危険性が高く、院内感染対策上重要である。消毒法として、手指に対しては流水と石鹸による手洗いおよび90%エタノ−ル、器具に対しては煮沸、次亜塩素酸ソーダを用いる。逆性石鹸、イソプロパノールには抵抗性なので注意を要する。
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