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感染症の話
1999 年第16 週(4 月19 日〜25 日)掲載
◆ポリオ
病原体
ポリオ(急性灰白髄炎、小児麻痺、Acute poliomyelitis)の病原体はポリオウイルスで、その抗原性により1型、2型、3型の3種類に分けられ、エコーウイルス、コクサッキーウイルスとともにエンテロウイルス属(腸内ウイルス属)に分類される。
70%アルコールやエーテル、界面活性剤では不活化されず、熱、ホルムアルデヒド、塩素、紫外線により速やかに不活化される。ポリオウイルスは口から入って咽頭や小腸の粘膜で増殖し、咽頭や糞便から検出される。侵入したウイルスはリンパ節を介して血流中に入り、脊髄を中心とする中枢神経系へ達し、脊髄前角細胞や脳幹の運動神経ニューロンに感染し、これを破壊することによって典型的なポリオの症状をきたす。発症後1週間を経過すると咽頭にはウイルスはほとんど存在しなくなるが、糞便には数週間に渡って排泄される。
疫 学
ポリオウイルスの自然宿主は、ヒトのみである。ポリオ流行の記載は18世紀頃からみられ、1950年代まではしばしば、世界各地で流行した。不活化ワクチンに次いで生ポリオワクチンが開発され、多くの国でポリオ患者は激減した。WHOは、西暦2000年までに世界からポリオを根絶する計画をたて、地域流行のある国を中心にして定期のポリオワクチン接種を推進し、National
Immunization Days (NIDs:一定の日に一定年齢の子どもたちに一斉にポリオワクチンをのませる)を実施することによりこれらを補足し、さらには高危険地域では家庭訪問によるワクチン接種の徹底(Mopping-up
campaigns)を行っている。
確実にポリオ様患者を捕捉するために急性弛緩性麻痺(Acute flaccid paralysis;AFP)の発生動向調査が行われている。WHOのデータによると、日本が所属している西太平洋地域からもほぼ根絶のめどがついてきている。しかし、東地中海地域、南東アジア(インド、ネパール等)、アフリカ地域では経済状態や紛争の影響もあって流行が続いており、さらなる対策が必要と考えられている。
日本におけるポリオは、1940年代頃から全国各地で流行がみられ、1960年には北海道を中心に大流行となった。1961年に生ワクチンを緊急輸入し、一斉に投与することによって流行は急速に終息した。引き続いて国産生ワクチンが認可され、1963年からは定期接種が行われて現在に至っている。1980年の1型ポリオを最後に、野生型ポリオウイルスによるポリオ麻痺症例はこれまでにない。
臨床症状
潜伏期は概ね6〜20日であるが、感染者の90〜95%は不顕性に終わる。約5%(4〜8%)では、発熱、頭痛、咽頭痛、悪心、嘔吐等の感冒様症状が出現し(不全型)、1〜2%では上記の症状に引き続き無菌性髄膜炎を起こす(非麻痺型)。感染者の0.1〜2%に定型的な麻痺型ポリオ、すなわち前駆症状の1〜10日後、四肢の非対称性の弛緩性麻痺が出現する。この場合、特に小児における前駆症状は2相性となることが多く、初期の軽い症状の後1〜7日の間隔をあけて、表面反射消失、筋肉痛、筋攣縮などの前駆徴候がみられ、その後麻痺に進展する。なんら前駆症状なくして麻痺が現れる症例もある。麻痺は下肢に多くみられる。知覚障害はみられない。麻痺型としてはこのような脊髄型が大部分であるが、球麻痺を合併して嚥下、発語、呼吸が障害されることもある。多くの症例で完全に麻痺は回復するが、発症から12ヶ月過ぎても麻痺或いは筋力低下が残る症例では、永続的な後遺症を残すことになる。死亡率は小児では2〜5%、成人では15〜30%で、成人や妊婦では小児より重症になる傾向がある。球麻痺を合併すると死亡率は25〜75%と高率になる。髄液検査では、細胞数増多(10〜200/mm3)、蛋白の増加(40〜50mg/dl)が見られる。
診 断
確定診断はウイルス分離及び血清診断による。ウイルス分離は比較的容易であるが、麻痺が出てからできる限り早い時期に検査材料(糞便など)を2回採取する必要がある。
咽頭からは初発症状出現後約1週間、糞便からは約2週間はウイルスが分離できる。
髄液からウイルスを分離できれば非常に診断的価値は高いが、分離率は低い。ポリオウイルスが検出された場合は、ワクチン由来株か、野生株かの鑑別が必要となる。血清中和抗体は、急性期と回復期のペア血清で4倍以上の上昇が認められれば診断的価値があるが、発症早期から上昇するので確認できないこともある。診断上は糞便からウイルスを分離することがもっとも重要である。
本邦における根絶証明のための調査
ポリオ根絶に関するWHOの決議を受け、本邦におけるポリオ根絶宣言のために、平成10年5月1日よりポリオ様疾患の発生動向調査が行われている(ポリオ根絶証明のためのポリオ様疾患患者発生動向調査について:健医感発第33号)。これによりポリオが疑われるような急性弛緩性麻痺患者を診断した医師は保健所に連絡するとともに確定診断のための検体(糞便)を発症14日以内に2回採取することが求められている。この発生動向調査により国内のポリオ患者発生がゼロであることが臨床的、ウイルス学的に確認されて後、我が国におけるポリオ根絶が国際的に認められることになる。
治 療
特異的な治療法はなく、対症療法が中心となる。呼吸障害や分泌物喀出不全が認められる例では、気管切開、挿管、あるいは補助呼吸が必要となる。
予 防
本邦を含む多くの国々では、不活化ワクチンあるいは経口生ワクチンの普及によりほとんどポリオ麻痺患者発生はみられていない。しかし、いまだに世界には野生ポリオが流行ないし存在している地域が存在し、国内的には常に我が国への侵入を警戒しておく
必要がある。
現在わが国のポリオの予防接種は生ワクチンの2回投与方式であるが、世界的には3回以上の投与が一般的である。3つの型の混合ワクチンを投与しても、ある型が腸管内で先に増殖すると、干渉作用により他の型のウイルスが増殖できずに免疫が得られないことがある。厚生省流行予測調査によるポリオ中和抗体保有状況をみると、1型、2型に対する抗体保有状況は良好であるが、3型に対しては若干低い。この様な点から、ポリオがまだ存在する国への旅行者に対してはポリオワクチンの追加投与が勧められている。また20歳代の年齢群では1型に対する抗体保有率も低いため、特にこの年齢群には留意するべきである。
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