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2003年第38週号(2003年9月15〜21日)掲載

◆細菌性髄膜炎

 細菌性髄膜炎(Bacterial meningitis )は細菌感染による髄膜炎の総称、すなわち疾患群であるが、通常結核性髄膜炎はこの範疇に含めない。化膿性髄膜炎ともよばれ、ウイルス感染が主体である無菌性髄膜炎と対照をなす。診断にあたっては、可能な限り病原診断を行うことが望ましい。抗菌薬療法の発達した現代にあっても、発症すれば致死率は高く、また救命できても重篤な後遺症を残すことがあり、特に小児においては侮れない感染症である。迅速な診断と適切な治療の早期開始が鍵である。

疫 学
 わが国における細菌性髄膜炎患者の発生状況は、1981年7月に開始された感染症サーベイランス事業(現在の感染症発生動向調査事業)によって、定点医療機関(以下、定点)からの報告数として把握され、年間の累積定点当たり報告数は1980 年代では1.0人から徐々に減少し、1990 年代では0.5 人程度であった。しかし、この間、報告単位が週→月→週と変わったり、定点数も変わったりしているため、本疾患の長期的発生状況の変化をどの程度反映できているのかは定かでない。
 1999 年4月施行の感染症法下における感染症発生動向調査によると、年齢別では、5歳未満(0歳及び1〜4 歳)の報告が多く全体の約半数を占め、それ以降の年齢では減少しているが、70歳以上ではまた多くなっている。季節に関してはほとんど差異がみられていない。原因菌に関してはインフルエンザ菌、肺炎球菌の順となっている。
 細菌性髄膜炎の一つである髄膜炎菌性髄膜炎は世界的に分布するが、特にアフリカ中央部のいわゆる髄膜炎ベルトといわれる、西はセネガルから東はエチオピアまでの地域において流行が続いている。そこでは、主にサバンナ地帯で乾期(12〜6月)に多くみられ、その血清型はほとんどA群である。欧米先進国でも時に流行がみられている。2001年に、メッカでのイスラム教徒の巡礼(Haj:ハッジ)においては、帰国してからW135群髄膜炎菌による発症が英国その他のヨーロッパ諸国でみられ、問題となった。わが国においては、流行性脳脊髄膜炎の名称で1918年に法定伝染病に指定された。患者報告数は1945年の4,384人をピークに減少し、特に1960年代以降急激に減少した。現在は感染症法で定める4 類感染症全数把握疾患に分類されており、報告数は1999年(4月〜)11例、2000年15例、2001年8例、2002 年8例である(註:その後、2003年11月施行の感染症法一部改正により、5類感染症全数把握疾患に変更)。
 インフルエンザ菌によるものに関しては、欧米でtype b (Hib )に対するワクチンが使われている国では発生数は激減しているが、我が国においては特に小児における原因菌として重要である。

病原体
 病原体(原因菌)は多種類あるが、年齢や基礎疾患によって次のように特徴がある。
・新生児〜生後3カ月乳児:B群レンサ球菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、リステリア菌
・生後3 カ月以降の乳児〜幼児:インフルエンザ菌(ほとんどがHib )、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌
 ・年長児〜青年期:肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌
 ・成人:肺炎球菌、髄膜炎菌
 ・高齢者(50 歳以上):肺炎球菌、グラム陰性桿菌、リステリア菌
また、免疫能低下の状態では肺炎球菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌、リステリア菌、黄色ブドウ球菌(MRSA)などがみられ、脳室シャント後であれば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などが多くみられる。
 感染経路は多くの場合飛沫感染であり、原因菌が上気道あるいは呼吸器感染病巣を経由して侵入し、血行性に髄膜に到達する。新生児のB群レンサ球菌感染症の場合には、産道感染も考えられている。その他に、リステリア菌が腸管から侵入したり、粘膜や皮膚に付着している黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌が、カテーテルを介して血行性に髄膜に到達することもある。

臨床症状
 多くは発熱、頭痛、嘔吐などを示し、進行すると意識障害、痙攣などがみられる。また、そのような経過を明瞭に示さずに敗血症の形を取る場合や、急速に悪化する電撃型もある。年齢が低いほど症状は非特異的であり、新生児や乳児では発熱以外の症状として不機嫌、食欲(哺乳力)の低下などが目立つこともある。髄膜刺激症状として項部硬直やKernig 徴候などがあるが、新生児・乳児・幼児では必ずしも明瞭ではない。そのような場合、大泉門の膨隆がみられることも多く、診断の助けとなる。
 一般血液生化学検査では、核の左方移動を伴う白血球数増多がみられ、CRP 値は高度の上昇を示す。髄液検査では髄液圧の上昇、主に多形核白血球からなる白血球数の増多、蛋白量の増加、糖量の減少などがみられる。

病原診断
 髄液沈渣のグラム染色を行い検鏡する。菌の同定は不可能なことが多いが、グラム陽性か陰性か、球菌か桿菌かの区別からある程度の推定はでき、抗菌薬選択のヒントとなる。また、迅速診断として、ラテックス凝集法による抗原診断も実用化されているが、現在この対象となるのは肺炎球菌、B群レンサ球菌、Hib 、髄膜炎菌A 、B 、C 群、K1 抗原陽性大腸菌などである。
 これらは、抗菌薬投与後で検鏡で菌が確認できない場合や、培養陰性の場合などにも有用である。
 以上のことで陽性所見が得られても、確定診断のためには細菌培養が必要である。また、血液培養で検出される場合も多い。得られた細菌に関しては、薬剤感受性試験を行う。

治療・予防
 臨床症状、髄液所見などから細菌性髄膜炎の疑いがある場合、あるいは、無菌性髄膜炎様であっても細菌性も否定しきれず、全身状態が重篤な場合などには、細菌学的に確定診断がなされる前から抗菌薬療法を開始する必要がある。その際には、年令、基礎疾患、発症状況などを考慮して可能性ある原因菌を想定し、それに合った抗菌薬を経静脈的に投与する。また、抗菌薬の選択に当たっては、全国的な耐性菌の動向、所属する医療機関の耐性菌の動向なども考慮する。
 抗菌薬療法に際しては、特に肺炎球菌とインフルエンザ菌の場合、耐性の問題が大きい。肺炎球菌の場合、ペニシリン感性であれば結晶ペニシリンG カリウム、アンピシリン、セフォタキシムなど、耐性であればパニペネム/ベタミプロン合剤などがすすめられる。また、インフルエンザ菌の場合、アンピシリン感性であればアンピシリン、耐性であればセフォタキシムを用いる。薬剤感受性が不明の段階では、耐性と仮定して治療する。その他、B 群レンサ球菌、髄膜炎菌では結晶ペニシリンGカリウム、アンピシリン、セフォタキシムなど、リステリア菌ではアンピシリンが選択される。原因菌が判明する前の治療としては、アンピシリンとセフォタキシムの併用、あるいはパニペネム/ベタミプロン合剤が一般的であるが、セフォタキシムとパニペネム/ベタミプロン合剤を併用することもある。
 予防としては、感染者からの伝播を避けることである。細菌性髄膜炎の原因菌に対するワクチンで国内で唯一市販されているのは、23価の肺炎球菌多糖体ワクチンである。欧米ではHib 、髄膜炎菌のワクチンも認可されている。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 細菌性髄膜炎は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約500カ所の基幹定点から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準を全て満たすもの
1.以下の臨床症状を呈するもの
 ・発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする
 ・項部硬直、Kernig 徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状(いずれも新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
2.以下の検査所見を有すること
 ・髄液細胞数の増加(多核球優位であることが多い)
 ・髄液蛋白量の増加
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
 《備考》
 ・原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告すること

(国立感染症研究所感染症情報センター 多田有希・岡部信彦)

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この記事は、1999年35週2001年41週 掲載を改訂して発行しました。

 

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