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2003年第28週号(2003年7月7〜13日)掲載


◆突発性発疹

 突発性発疹(Exanthem subitum)は感染症法に基づく4類感染症定点把握疾患である。乳児期に罹患することが多く、突然の高熱と解熱前後の発疹を特徴とするウイルス感染症で、予後は一般に良好である。本疾患の原因ウイルスは、ヒトヘルペスウイルス6 1) あるいは7 2)(HHV‐6あるいはHHV‐7)であることが多い。HHV‐7 はHHV‐6 よりも遅れて感染する傾向があるため3)、HHV‐7による突発性発疹は臨床的には二度目の突発性発疹として経験されることが多い。

疫 学
 感染症発生動向調査によると、報告症例の年齢は0歳と1歳で99%を占めており、それ以上の年齢の報告は稀である。季節性はなく、毎週の定点当たり報告数は一定しており、年次による差異もほとんどない(感染症法施行以前に比べると、以降の方が定点当たり報告数にして0.2ほど高くなっているが、これは定点設計の差によるものと考えられる)4)。本疾患の原因ウイルスのHHV‐6、HHV‐7 の血清疫学調査からは、2〜3 歳頃までにほとんどの小児が抗体陽性となることが判明しており、不顕性感染は20〜40%と報告されている。
 このような疫学的特徴から、本疾患は過去感染症発生動向調査のデータ解析の際に基準疾患として利用されてきた。ゴールデンウイークや年末などの休日や病院の休業に伴って疾患報告数が変動することはよく知られているが、これを標準化するために本疾患の報告数がほとんど一定であることを利用して、各疾患の報告数を突発性発疹の報告数で除した値でトレンドを比較しようとした試み、あるいは本疾患が2歳までにほとんどの子供が罹患することから、実際の突発性発疹の発生数を推計し、それと本調査の報告数を使用して定点医療機関での疾患捕捉率を算定して、各疾患の人口10万人当たりの罹患率推定に利用されたりしている 5)

病原体
 1910年に本疾患が記載されて以来、原因ウイルスは長い間不明であったが、1988 年、山西らによりHHV‐6 6)であることが証明された 1)。その後、突発性発疹の中にエンテロウイルスが原因であるものが含まれていること、またHHV‐6、エンテロウイルスのいずれでもない原因不明の突発性発疹があることも明らかとなり、1990年に新しく発見されたHHV‐7 7)もその初感染像として突発性発疹を呈することが1994 年に報告された 2)。HHV‐7 による突発性発疹は、臨床的には二度目の突発性発疹として経験されることが多い 8)
 いずれもヘルペスウイルス科βヘルペスウイルス亜科に属する2本鎖DNA ウイルスである。両ウイルスとも初感染以降は潜伏感染状態となり、断続的に唾液中から排泄される。排泄される量はHHV‐7の方が多く、容易にウイルスも分離されるが、HHV‐6 は分子疫学的手法によりDNAは検出されるものの、ウイルス分離は困難である。現在のところ感染経路としては、唾液中に排泄されたウイルスが経口的あるいは経気道的に乳児に感染すると考えられているが、排泄量が多いHHV‐7の方がなぜHHV‐6より後に感染するかについては、母体からの移行抗体の存在がHHV‐7の方がHHV‐6よりも長期に持続するためであることが報告されている 9)。また、子宮頚管粘液からウイルスDNA が検出されるという報告もあり 10)、周産期における感染も感染経路の一つである可能性がある。一方母乳については、感染経路として否定的である 11)。初感染時の潜伏期は、1950 年Kempeらの報告により約10日と推定されている。

臨床症状
 乳児期に発症するのを特徴とする熱性発疹性疾患である。38度以上の発熱が3日間ほど続いた後、解熱とともに鮮紅色の斑丘疹が体幹を中心に顔面、四肢に数日間出現する。随伴症状としては、下痢、眼瞼浮腫、大泉門膨隆、リンパ節腫脹などがあげられるが、多くは発熱と発疹のみで経過する。診断は、その特徴的な臨床経過により、発疹出現をもってなされることがほとんどであり、また困難ではない。永山斑(病初期に口蓋垂の根元の両側に認められる粟粒大の紅色隆起)を見つけることにより、有熱期中に診断が予測できることもある。発熱初期に熱性痙攣を合併することがあるが、一般に予後は良好である。まれに脳炎、脳症、劇症肝炎、血小板減少性紫斑病など重篤な合併症をおこすことがある。

病原診断
 HHV‐6、HHV‐7の診断法としては、他のウイルス疾患と同様でウイルス分離、血清診断、PCR法によるウイルスDNAの検出などがあるが、現在のところいずれも健康保険の適応はない。
 ウイルス分離はやや煩雑で、通常患児の末梢血単核球を検体とし、臍帯血リンパ球を用い、IL‐2、PHA などのリンパ球を活性化する試薬を加えて培養する。発熱期に検査が行われればほぼ100%分離可能であるが、発疹期に至ると分離率は40%程度に下降し、発疹が消失すると分離されることはほとんどない。血清診断は、HHV‐6に関しては間接蛍光抗体法によるIgG 抗体及びIgM 抗体の測定がコマーシャルラボにて可能であるが、HHV‐7抗体との交叉反応があるので、結果の解釈には留意が必要である。研究レベルでは中和法による抗体測定法が確立されている。PCR 法によるウイルスDNA の検出は両ウイルスともにコマーシャルラボにて可能であるが、初感染後潜伏感染することから、陽性結果の解釈には注意する必要がある。潜伏感染部位は単球/マクロファージ、唾液腺などが考えられているため、血液細胞や唾液からDNA が検出されても病的意義は低く、HHV‐6あるいはHHV‐7を当該疾患の原因ウイルスとして考える場合は、細胞中ではなく血漿中にウイルスDNA が検出されるか、当該臓器からウイルスが検出される必要がある。

治療・予防
 通常、予後良好のため、対症療法にて経過観察するのみであり、特に予防が問題となることもない。
 In vitro において、HHV‐6 はガンシクロビルおよびホスカルネットによりウイルスの増殖が高率に阻害されたという報告がなされている。アシクロビルに関しては、高濃度の時にのみ同様の効果が認められている。
 突発性発疹は従来予後良好な疾患であり、実際抗ウイルス療法を考慮しなければならない症例に遭遇することは稀であるが、重篤な合併症を呈した場合、あるいは、移植患者やAIDS 患者のように免疫抑制状態下にある患者において発症した場合には、前述の抗ウイルス剤の使用も検討する価値があると思われる。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 突発性発しんは5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準のすべてを満たすもの
1. 突然に発熱(38℃以上)し、2〜4日間持続
2. 解熱に前後して体幹部、四肢、顔面の発しんが出現
 ○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

【文献】
1)Yamanishi K, Okuno T, Shiraki K, et al. Identification of human herpesvirus 6 as a causal agent for exanthem subitum. Lancet 1988; i: 1065‐7.
2)Tanaka K, Kondo T, Torigoe S, et al. Human herpesvirus 7: Another causal agent for roseola(exanthem subitum). J pediatr. 1994; 125: 1‐5.
3)Tanaka‐Taya K, Kondo T, Mukai T, et al. Seroepidemiological study of human herpesvirus‐6 and‐7 in children of different ages and detection of these two viruses in throat swabs by polymerase chain reaction.Journal of Medical Virology.1996; 48: 88‐94.
4)平成六年感染症サーベイランス事業年報、382‐383p
5)病原微生物検出情報、Vol.9、No.4、2p
6)Salahuddin SZ, Ablashi DV, Markham PD, et al. Isolation of a new virus, HBLV, in patients with lymphoproliferative disorders.Science. 1986; 234 (4776): 596‐601.
7)Frenkel N, Schirmer EC, Wyatt LS, et al.Isolation of a new herpesvirus from human CD4+T cells. Proc. Natl. Acad.Sci. USA. 1990; 87: 748‐752.
8)Torigoe S, Kumamoto T, Koide W, et al. Clinical manifestations associated with human herpesvirus 7 infection. Arch Dis Child.1995; 72: 518‐519.
9)Yoshida M, Torigoe S, Ikeue K, Yamada M. Neutralizing antibody responses to human herpesviruses 6 and 7 do not cross‐react with each other, and maternal neutralizing antibodies contribute to sequential infection with these viruses in childhood.Clin Diagn Lab Immunol. 2002; 9(2): 388‐93.
10)Okuno T, Oishi H, Hayashi K, et al. Human herpesviruses 6 and 7 in cervixes of pregnant women. J Clin Microbiol.1995;33:1968‐70.
11)Fujisaki H, Tanaka‐Taya K, Tanabe H, et al. Detection of human herpesvirus 7(HHV‐7)DNA in breast milk by polymerase chain reaction and prevalence of HHV‐7 antibody in breast‐fed and bottle‐fed children. J Med Virol. 1998; 56: 275‐9.

(国立感染症研究所感染症情報センター 多屋馨子)

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この記事は、1999年20週2001年30週 掲載を改訂して発行しました。

 

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