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2003年第25週号(2003年6月16日〜22日)掲載


ヒストプラスマ症

 ヒストプラスマ症(histoplasmosis)は輸入真菌症の一つとして取り扱われており、3種類の原因菌がある。それぞれの感染により病名は、カプスラーツム型ヒストプラスマ症、ズボアジ型ヒストプラスマ症、ファルシミノーズム型ヒストプラスマ症と呼ばれている。感染症法では特に規定されていないが、国内感染例が疑われる報告もあることから、危険な真菌症として重要性を認識する必要がある。

疫 学

 世界的にみられ、温帯、亜熱帯、熱帯に多い。2002年9月までに、本邦で36例が確認されている。また、イヌで4例、ウマで1例が報告されており、人獣共通真菌症である
1)‐ 3)。以前、日本での感染例はないと思われていたが、最近国内感染が疑われる症例が報告されはじめてきた。本症は細胞性免疫機能が低下した患者、特に臓器移植やエイズの患者に発症例が多く、重篤となる。
 カプスラーツム型ヒストプラスマ症の原因菌はHistoplasma capsulatum variety capsulatum Darling 1906 で、世界中の熱帯、亜熱帯、温帯地域で発生している。特に、米国のミシシッピ川流域に報告例が多い。本菌は通常菌糸状で発育するが、感染組織内では酵母状発育をする(二形性真菌)。菌糸状発育で形成された大、小の分生子を吸入することにより肺感染を起こすが、多くの場合良性に経過し、自然治癒する。しかし、細胞性免疫機能が低下している患者では病状は進行し、全身性となる。
 本邦報告例のうち、興味ある2例を示す。1例は、米国テキサス州の黒人から死体腎の移植を受けた患者が全身性ヒストプラスマ症を起こして死亡した例、もう1例は、テレビ取材班がアマゾンの洞窟内の撮影を行ったとき、コウモリの糞に付着していたH. capsulatum を吸い込み、8名全員が感染した事例である。なお、本菌のテレオモルフ(有性世代)はAjellomyces capsulatus McGinnis et Kats 1979 である。
 ズボアジ型ヒストプラスマ症の原因菌はHistoplasma capsulatum var. duboisii (Vanbreuseghem)Ciferri 1960 で、本症は主にアフリカ大陸で報告されている。本邦でも、ウガンダからの渡航者の症例が報告されている。カプスラーツム型とズボアジ型との違いは、後者がアフリカ大陸でみられ、感染組織内の酵母細胞が前者のそれ(直径2〜4 μm)に比べて大きく(直径8〜15μm)、組織内に多数の巨細胞が出現してくること以外は、分離菌の間に菌学的(形態的)な違いはない。本菌のテレオモルフはH. cap. var. cap.と同じである。
 ファルシミノーズム型ヒストプラスマ症は「仮性皮疽」ともいわれ、ウマ、ロバ等の頚部や脚のリンパ管やリンパ節を特異的に侵す。ウマに発生したときは農水省への届出の義務がある。原因菌はHistoplasma farciminosum Ciferri et Redaelli 1934 で、エジプト、スーダン、インド、東欧諸国、旧ソビエト連邦で主にみられる。菌学的にはH. capsulatum と区別できない。四足獣から分離されたという事実によってのみ同定されてきた。興味あることに、ファルシミノーズム型ヒストプラスマ症は本邦でも、江戸時代から「ウマのカサ」として知られていた。また、戦前「仮性皮疽」としても、軍馬を中心に2 万頭以上が確認されていることから、本邦もファルシミノーズム型ヒストプラスマ症の流行地であった。本邦で確認された渡航歴のないヒト症例は皮膚病変だけを示し、その分離菌株はチトクロームb 遺伝子配列からHistoplasma farciminosum と同定されている 4)。また、イヌのヒストプラスマ症は4例とも皮膚の潰瘍と肉芽腫性病巣を示し、これらも「仮性皮疽」と類似した症状であった。このような背景から、日本固有のヒストプラスマ症はファルシミノーズム型ヒストプラスマ症である可能性が示唆されている。

病原体
 H. capsulatum は土壌真菌で、ヒバリ、コウモリ等の糞に好んで発育する。27 ℃での発育は遅く、集落は粉状から綿毛状となる。初めは白色で次第に黄褐色を帯びてくる。裏面は黄色あるいは黄橙色を呈する。
 顕微鏡的には分生子(conidiophore)、および、短い菌糸側枝の先端に大、小の分生子(conidium )が形成される。大分生子(macroconidium)は直径7〜25 μm 、球形または西洋梨形である。細胞壁は厚く、表面には多くの指状の突起がみられる。小分生子(micro‐conidium )は直径2〜6 μm 、球形あるいは西洋梨形である。

(写真1 )左からHistoplasma capsulatum variety capsulatum の巨大集落、大分生子、骨髄中の酵母細胞

 1%ブドウ糖を添加したブレイン・ハート・インフュージョン寒天(brain heart infusion agar)を用い37 ℃で培養すると、白色〜淡黄色の酵母様集落を形成する。酵母細胞は球形または卵円形、直径2〜4 μm である。
 病理組織では著しい肉芽腫性炎症反応が特徴的である。これら肉芽腫を形成している組織球は、細胞性免疫不全の場合、取り込んだ酵母細胞を殺すことができず、菌は組織球内で増え続ける。

臨床症状

1. 急性肺ヒストプラスマ症(acute pulmonary histoplasmosis):一過性にインフルエンザ様症状を呈し、自然治癒する。
2. 慢性肺ヒストプラスマ症(chronic pulmonary histoplasmosis):結核に似た症状を示す。特に、形成された空洞は結核による場合との鑑別が難しい。
3. 全身性ヒストプラスマ症(systemic histoplasmosis):急性型は小児に発症しやすく、死の転帰を取ることが多い。H. capsulatum が繁殖している洞窟や納屋に入り、多量の分生子を吸入した結果起こる。慢性型は細胞性免疫不全の患者に発生しやすい。
4. 眼ヒストプラスマ症(ocular histoplasmosis):血行散布により二次的に発症する。特に、乳頭部周辺および網膜が侵されやすい。

病原診断

1 . H. capsulatum の分離同定
 喀痰、膿、生検材料からのH. capsulatum の分離は当然のことながら、隔離された安全キャビネット内で行われなければならない。本症では、菌分離率が低いことが確定診断の妨げとなっている。国内症例の36例のうち、8例のみ菌が分離されている。27 ℃で、サブロー・ブドウ糖寒天培地、血液寒天培地、1%ブドウ糖添加ブレイン・ハート・インフュージョン寒天などを使用し、4週間まで観察することを推奨する。また、材料をブレイン・ハート・インフュージョン液体培地に浮遊させ、振盪培養後、平板培地に接種すると菌分離率が向上する。
 本菌の同定の決め手は、特徴的な大分生子の確認である。載せガラス培養をしなくても、ラクト・フェノール・コットンブルーで固定・染色した掻き取り標本の観察で確認できる。また、37 ℃における酵母様細胞の確認も有用であるが、分離株によっては温度依存性の二形性を取らないこともある。

2. 病原組織学的診断
 組織内で、H. capsulatum が直径2 〜5 μm の酵母形として細胞内寄生しているのを確認する。
 PAS 染色、GMS 染色陽性である。

3.免疫学的診断
 免疫反応用抗原として、ヒストプラスミン(histoplasmin)による皮膚(内)反応が有用とされてきたが、眼ヒストプラスマ症を刺激すると言われているので、使用には注意を要する。また、不顕性感染等の既往歴がある者は陽性となるので、流行地に居住した成人には有用でない。
 抗体検出法には補体結合反応(CF)と免疫拡散法(ID)があるが、ブラストミセス症、コクシジオイデス症、パラコクシジオイデス症との交差反応により陽性に出ることがあり、注意が必要である。抗原検出法としては、血清、尿、髄液等から多糖体抗原をRIA で測定する方法がある。
 AIDS 患者には有用であるが、急性肺ヒストプラスマ症では検出できないことが多い。ベータ‐1, 3 ‐グルカン(β‐1, 3‐glucan)を検出するキットも、ヒストプラスマ症に反応するといわれている。

4. PCR によるH. capsulatum 遺伝子の検出・同定

 2002 年9 月現在、282 個の遺伝子がGenBank に登録されている。現在、rRNA 遺伝子をパラフィン包埋した組織より抽出して検出する方法がほぼ確立している。また、培養菌体を固定してDNA を抽出し、rRNA 遺伝子配列の決定による同定は可能である
5)

治療・予防
 現在、イミダゾール系の抗真菌剤(ケトコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール等)、およびアムフォテリシンB が治療薬である。アムフォテリシンB の抗真菌作用は優れているが、副作用(肝、腎障害)が強く、使用に当たっては十分な注意が必要とされている。
 ヒトからヒトへの感染は通常認められないので、入院患者の隔離は要さない。材料の取り扱いについては、本菌を取り扱っている本人はもとより、周囲の人々に感染を起こす可能性があるので、安全キャビネット内で行わなければならない。
ヒストプラスマ症は感染症法で規定されている真菌感染症ではないが、輸入例だけでなく国内感染例が疑われる報告もあることから、日本でもその存在を疑われる危険な真菌感染症として重要性を認識する必要がある。


【引用文献】
1)Fujio J, Nishimura K, Miyaji M: Epidemiological survey of the imported mycoses in Japan. Jpn J Med Mycol 40: 103‐109, 1999.
2)Chandler, Kaplan, Ajello: 13 Histoplasmosis capsulati, 14 Histoplasmosis duboisii,15 Histoplasmosis farciminosi. In A colour atlas and textbook of the histopathology of mycotic diseases. Wolfe Medical Publications Ltd, P63‐72,1980.
3)佐野文子、上田八千代、猪股智夫、田村美貴、池田輝男、亀井克彦、木内明男、三上 襄、西村和子、宮治 誠:本邦で発症したイヌのヒストプラスマ症2例について.真菌誌 42: 217‐223, 2001.
4)横山耕治、王 麗、Biswas SK、伊藤純子、宮治 誠、西村和子:Histoplasma capsulatum 3 varieties のチトクロームb 遺伝子による同定と系統関係.真菌誌41 supple 1:106(P‐77), 2000.
5)Tamura M, Kasuga T, Watanabe K, Katsu M, Mikami Y, Nishimura K: Phylogenetic characterization of Histoplasma capsulatum strains based on ITS region sequences, including two new strains from Thai and Chinese patients in Japan. Jpn J Med Mycol 43:11‐19, 2002.

(千葉大学真菌医学研究センター病原真菌研究部門 宮治 誠 佐野 文子)

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この記事は、2001年01週 掲載を改訂して発行しました。

 

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