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2003年第13週号(2003年3月24日〜30日)掲載

◆急性脳炎(日本脳炎を除く)

 急性脳炎は種々の病原体による脳組織の炎症に起因する疾患群の総称である。したがって、確定診断は本来脳組織の病理学的検索で行われるべきものであり、病原体診断も脳組織における病原体の検出でなされるべきものである。しかしながら臨床的には、通常神経学的所見に基づいて診断され、病原体診断も髄液、あるいはその他の部位からの病原体の分離や、血清学的検査などから行わざるを得ないことも多い。また、脳炎の臨床症状があるにもかかわらず、脳組織での病原体も炎症も確認できないことがあり、この場合には脳症という診断名が用いられる。これは代謝性の原因その他を含み、感染症とは異なる病態を意味する。

疫 学
 前述の如く、急性脳炎は種々の病原体による疾患群の総称であるので、全体としては単一の疫学パターンをとらないことが多い。しかし、特定の原因が関係したアウトブレイクも時にみられる。
 エンテロウイルス71による手足口病流行に伴う脳炎の発生が1997年マレーシア、1998 年台湾において問題となった。1997年には我が国でも大阪で、本症に関連すると考えられる急死例3例が確認されたため、サーベイランスが強化されたが、幸い大きな流行とはならなかった。その後、2000年夏季に兵庫で、エンテロウイルス71型による手足口病の流行時に脳炎死亡例がみられた。
 また、近年冬のインフルエンザシーズンに一致して脳症が増加する傾向が認められており、インフルエンザ脳炎/脳症研究班(班長:名古屋大学森島恒雄教授)によれば、1998/99シーズンに217例、1999/2000に109 例、2000/01に63 例、2001/02 に227 例が集計されている。

病原体
 本疾患の原因としては多種多様なものが含まれ、ウイルスとしては単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ヒトヘルペスウイルス6などが含まれる。マイコプラズマ、スピロヘータ、レプトスピラ、リケッチア、真菌、寄生虫(トリパノソーマ、旋毛虫など)も脳炎を合併することがある。世界的にみると、黄熱ウイルスなどのアルボウイルス、狂犬病ウイルスなどによる脳炎も重要であるが、両者ともに発生動向調査ではそれぞれの疾患に分類される。
 1998 年にはマレーシアにてウイルス性急性脳炎の流行発生があり、患者およびブタより新種のウイルスが分離され、ニパウイルス(Nipah virus)と命名された。1998 年9 月〜1999年3月の間に急性脳炎として登録された患者は265 名で、うち死亡は105 名であり、それぞれの半数以上がニパウイルス単独によるものであり、他はニパウイルスと日本脳炎ウイルスの混合感染によるもの、日本脳炎ウイルス単独によるもの、などであることがマレーシア政府により発表された。
 1930年代からアフリカ、西アジア、中東などでの発生が知られていたウエストナイルウイルス脳炎が、1999年にアメリカ大陸として初めてニューヨークにて発生した。1999〜2000年の症例数は83例、死亡9例と報告されている。2001年末までに、北米では149例のウエストナイル脳炎患者が発症し、死亡者は18人認められている。しかし2002年には爆発的な増加を来し、症例数4,161例、死亡277例(2003年3月12日時点の集計)の発生がみられた。ウイルスの分布は、ヒトあるいは動物での感染でみると米国の46州にまで拡大している。この原因ウイルスはフラビウイルス属に属し、日本脳炎ウイルスと近縁である。

臨床症状
 病原体が多様であるので、症状も様々である。一般的には、最初は発熱、頭痛などの非特異的症状で始まることが多い。小児では不機嫌、腹部膨満、悪心、嘔吐などの症状も見られる。その後、神経障害に起因する症状が急激に、あるいは緩徐に出現する。種々の程度の意識障害、奇異行動、痙攣、脳神経症状、麻痺、あるいはその他の巣症状など多彩な症状がありうる。代謝性疾患、中毒、あるいは脳出血、脳血栓、脱髄性疾患などの器質的疾患、てんかん痙攣重積、急性小脳失調などの鑑別が問題になることもある。
 CT 、MRI などの画像診断では顕著な異常を見いだせないことが多いが、種々の程度の脳浮腫が見られる場合もあり、また、ヘルペス脳炎の際に特徴的な側頭葉の病変が発見されることがある。突発性発疹に伴う脳炎では、single photon emission CT (SPECT )で脳血流の低下、回復期のCTで軽度の脳萎縮なども報告されている。

病原診断
 多種多様な病原体が考えられるが、単純ヘルペスウイルスおよび水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、あるいは、マイコプラズマ、寄生虫などの特異的治療薬がある病原体を鑑別することが重要である。それには疫学状況、随伴症状、臨床所見、病歴聴取、検査所見、画像診断、あるいは家族歴などが参考になることもある。
診断はウイルス分離や、中和抗体の上昇で行う。ウイルス分離のための検体は、随伴症状により、咽頭拭い液、血液、便、尿、髄液などから採取されることが多いが、脳炎の原因とするためには、髄液から分離することが望まれる。しかし、髄液検査(腰椎穿刺)はそれにより脳ヘルニアを誘発して危険になる場合がある。したがって、脳圧亢進の有無をみるために眼底検査を行い、乳頭浮腫がある場合には腰椎穿刺を行うべきでない。また、エンテロウイルスの場合は、便からのウイルス分離を試みる価値がある。
また、PCR 法などによる髄液からの病原体DNA 検出は、高感度の迅速診断として評価されるが、病原体が急性脳炎の直接的原因とするには慎重でなければならない。しかし、ヘルペス脳炎の場合には、髄液からのウイルス分離が困難であり、病初期の髄液を用いたPCR 法が勧められる。

治療・予防
 単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスではアシクロビル、サイトメガロウイルスではガンシクロビル、マイコプラズマ、寄生虫などでは適切な抗菌薬、抗寄生虫薬などによる治療を行う。
 痙攣の抑制、脳圧亢進・脳浮腫対策、呼吸管理、体液管理などの支持療法も重要である。予防については、ワクチンがない疾患に対しては個々の病原体伝播経路に応じた対策が必要となる。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)は5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの
 ○  意識障害を伴って24時間以上入院した者、あるいは24時間未満に死亡した者で、かつ、以下の一つまたはそれ以上の症状を有するもの
  ・ 38度以上の発熱
  ・ 何らかの中枢神経症状
  ・ 先行感染症状
 ○  熱性けいれん、代謝疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷など、明らかに感染性とは異なるものは除外する。
 ○  可能な限り病原体診断を行い、明らかになったものは病原体名、検体の種類及び検査方法を記載する。なお、上記基準に該当する脳症も含める。


《備考》
 ・  他の届出基準に該当する感染症(インフルエンザ、手足口病、流行性耳下腺炎等)による急性の脳炎・脳症についても、急性脳炎としての届出が必要となる。その際には、二重の届出となる(脳症を発症したインフルエンザについて、定点医療機関においては、インフルエンザ及び急性脳炎の届出が必要となり、定点医療機関以外では急性脳炎のみが届出の対象となる等)。
 ・  ウエストナイル脳炎又は日本脳炎の診断がついている場合には、急性脳炎としての届出は必要ない。ただし、急性脳炎の届出後に、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎の診断がついた場合には、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎としての届出が必要となり、結果として二重の届出となる。

【文献】
1)Cheryy JD,Shields WD.Encephalitis and meningoencephalitis. In Textbook of pediatric infectious diseases,4th ed.WB Saunders,1998.pp457‐468.
2)塩見正司、外川正生、山崎謙治、奧野良信.エンテロウイルス71型感染が原因で急死したと考えられた3症例−大阪市.病原微生物検出情報月報第19巻3号,1998.
3)藤本嗣人 近平雅嗣 増田邦義、他.エンテロウイルス71型による脳炎死亡例を含む
手足口病の流行−兵庫県.病原微生物検出情報月報 第22巻6号, 2001.

(国立感染症研究所感染症情報センター 谷口清州)

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この記事は、1999年第30週2001年37週掲載を改訂して発行しました。

 

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