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2003年第12週号(2003年3月17日〜23日)掲載

◆無菌性髄膜炎

 いわゆる無菌性髄膜炎症候群は、通常の塗抹染色標本および一般細菌培養にて病原体がみつからないものがこの範疇にはいるため、多種多様の起因病原体がある。一般的な臨床の現場においては、無菌性髄膜炎はウイルス性髄膜炎を念頭において語られることが多く、これは通常良好な経過をとることを意味する。これはその頻度から言えば正しいと言える反面、ウイルス以外でも多くの病原体がこの病態を起こしうること、そして場合によっては重症となり不幸な転帰をとりうることを認識して、臨床症状、炎症反応、髄液所見などを正確に把握して治療に当たることが望まれる。

疫 学
 無菌性髄膜炎全般について考えれば、上述のごとく多くの病原体が関与している症候群であるので、一定の疫学パターンをとらない。しかしながら、全体の約85%がエンテロウイルスによるものであるために、基本的な流行パターンはこのウイルス属の状況を反映する 1)。すなわち、初夏から増加し始め、夏から秋にかけて流行が見られる。罹患年齢は幼児及び学童期が中心であり、また、抗体保有状況により種々のタイプのエンテロウイルスが周期的に流行することが報告されている。

病原体
 無菌性髄膜炎を起こしうる病原体を表にあげる。ウイルスが最も多いが、このうちでもエンテロウイルス属が全体の約85%を占める。エンテロウイルス属の中でも多くのウイルス種がこの疾患をおこすが、本邦ではエコーウイルスとコクサッキーB群ウイルスが多い。過去にエコー30型、6型、7型、あるいはコクサッキーB5型、B3型、B4型などの流行が報告されている 2)。2002年にはエコー13型の流行があったことは記憶に新しい。また、手足口病の起因病原体であるエンテロウイルス71も特筆すべき病原体である。その他のウイルスとして、ムンプスウイルス、単純ヘルペスウイルス2型などがあげられる。肺炎マイコプラズマも無菌性髄膜炎の原因の一つとして重要であるし、真菌性髄膜炎も無菌性髄膜炎の形をとる。結核、ライム病、回帰熱、ブルセラ症、レプトスピラ症なども疾患の一部として無菌性髄膜炎を発症するし、その他、広東住血線虫などの寄生虫も無菌性髄膜炎をおこす。不完全に治療された細菌性(化膿性)髄膜炎もこの疾患形態をとることがあり、注意が必要である。

 感染経路は起因病原体により異なり、接触、飛抹、あるいは食物など一般媒介物、あるいは媒介動物を介した感染がありうる。エンテロウイルスの場合には、基本的に患者あるいは無症状病原体保有者からの糞口感染、飛抹感染による。潜伏期は、エンテロウイルスの場合には4 〜6日である。

表.無菌性髄膜炎に関連する病原体、疾患

臨床症状
 臨床症状も起因病原体によって異なるが、エンテロウイルス属による場合をもっとも一般的な例としてあげることができる。通常、発熱と頭痛、悪心・嘔吐で発症する。発熱は38〜40度で症例により様々であるが、5日間程度持続し、時に非特異的な急性熱性疾患が先行する二相性となる。頭痛は前頭部痛、後眼窩痛であることが多く、また羞明を見ることもある。腹痛、下痢もよくみられる訴えである。乳幼児の場合には発熱と不機嫌、易刺激性、嗜眠がよくみられ、だっこされるのを嫌うことも経験される。咽頭炎症状も同時に見られることがあり、また、起因ウイルス種にもよるが発疹もみられることがあり、エコーウイルス9型では30 〜50%に発疹がみられる。また、粘膜疹、心外膜炎、心筋炎、結膜炎等を合併することもある。理学所見では、項部硬直、Kernig 徴候などの髄膜刺激徴候がみられることがほとんどである。
 髄液所見では細胞数増多がみられる。範囲は通常数十〜数千/mm 3 と広いが、概ね100〜500程度が多い。病初期には好中球が優位なことが多いが、その後リンパ球優位に逆転する。蛋白は軽度に上昇することが多いが、糖は通常正常範囲内である。髄液の塗抹染色標本では微生物は認められず、一般細菌培養でも検出されない。一般血液検査、生化学検査では異常を認めないことが多い。
 その他の病原体による無菌性髄膜炎としては、アルボウイルスによるものでは通常髄膜脳炎の形をとることが多いが、無菌性髄膜炎として良性の経過をとることもある。
 結核性や真菌性髄膜炎の場合には発症が比較的緩徐であり、微熱や性格変化、易刺激性、食欲不振など非特異的な症状があり、徐々に頭蓋内圧上昇による症状が出てくる。また、結核、クリプトコッカス症やヒストプラスマ症では肺に病変を伴うことがあるし、特にマイコプラズマに伴うものでは、その多くが呼吸器病変に引き続いて起こる。
 本疾患の診断は、発熱、頭痛、嘔吐のいわゆる3主徴をみとめ、後部硬直、Kernig 徴候などの 髄膜刺激徴候が存在すること、髄液一般検査で定型的な所見を得ること、髄液の塗抹、細菌培 養で細菌を検出しないことによりなされるが、本疾患は症候群であるため、確定診断は病原体診 断により起因病原体を明らかにすることによってのみなされる。

病原診断
 随伴症状、臨床所見、地域での疾患流行状況、野外活動歴、ダニ咬傷歴など注意深い病歴聴取により、ウイルス以外の病原体の可能性も疑うことが重要である。夏から秋にかけて地域でヘルパンギーナ、手足口病、発疹性熱性疾患の流行があればエンテロウイルスによる可能性が考えられるし、海外渡航歴によりアルボウイルス、あるいはウエストナイルウイルスも考慮しなければならないかもしれない。耳下腺の腫脹がみられればムンプス、野生動物生息域での水泳などの既往があればレプトスピラ、ダニへの暴露がみられればライム病、回帰熱や他のリケッチア症、肺炎が認められればマイコプラズマを考える。
 また、髄液を十分検索することは鑑別診断の糸口になる。一般的に言えば、ウイルス性以外の無菌性髄膜炎では好中球が優位になることは少なく、また髄液中の糖の減少があれば、不完全に治療された細菌性(化膿性)髄膜炎、白血病の中枢神経浸潤、脳腫瘍、マイコプラズマ、結核、真菌を疑う根拠となる。むろんウイルス性と細菌性が合併することもあり、少しでも疑いがあれば、反復して髄液検査を行うことが重要である。通常の臨床では、塗抹、培養、髄液の細菌抗原検出により細菌性を除外することが最も重要であり、髄液中CRP 、乳酸、TNF‐αが有用とされる。家族歴や臨床所見から必要と考えられれば、他の病原体を検出するための特殊な検査を行うべきである。ウイルス性が疑われれば、髄液、血液、便、咽頭拭い液によりウイルス学的検索を試みる。ウイルスを分離することと、その分離されたウイルスに対する中和抗体が、患者の急性期、回復期血清で上昇していることを確認することが確定診断につながる。近年は、エンテロウイルスに対するPCR 法により迅速診断することも可能である。

治療・予防
 脱水のために輸液療法が必要になることが多く、また、いつも細菌感染症の可能性を念頭に置く必要があるため、通常入院治療が必要であるが、多くの場合にはウイルス性であるため、対症療法が中心となる。診断のために行われる髄液の採取により、頭蓋内圧の減少を介して、症状が軽減されるのはよく経験されることである。ウイルス以外の病原体によるものでは、病原体特異的な治療が行われる必要がある。予後は起因病原体に依存する。エンテロウイルスによる無菌性髄膜炎の場合には予後は良好であり、完全に回復するが、生後数カ月以内の乳児の場合には、精神発達遅滞の危険因子となると報告されているため、その後の経過観察が必要である。結核、リケッチアなどの場合でも、特異的な治療が早期に行われれば予後が良好なことが多い。しかしながら、回復数週間後に神経学的評価を行っておくことは必要であり、特にムンプスが原因の場合には、聴力の評価が重要である。
 ムンプスによるものはワクチンにより予防可能であり、昆虫あるいは動物媒介のものはそれらに 対する対策が必要である。エンテロウイルスによるものは基本的に糞口感染であり、また患者は症 状軽快後も数ヶ月は便中にウイルスを排泄するために、流行期には一般的なうがい、手洗いの他、患者との濃厚な接触をさける以外には手だてはない。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 無菌性髄膜炎は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約500カ所の基幹定点から毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準を全て満たすもの
 (1)以下の臨床症状を呈するもの
    ・発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする
    ・項部硬直、Kernig 徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状
  (いずれも新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
 (2)以下の検査所見を有すること
   ・髄液細胞数の増加(単核球優位であることが多い)かつ、髄液蛋白量、糖量が正常であるもの
 ○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
 <備考> 原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告すること。

学校保健法における取り扱い
 本疾患は、学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされていない。本疾患は急性期には入院を含む加療が必要となることが多く、登校開始の時期については、患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。


【文 献】
1)Cherry JD and Shields WD. Aseptic meningitis and viral meningitis. In Textbook of Pediatirc infectious diseases 4th Ed., Saunders, Philaderphia, 457‐467,1998.
2)国立予防衛生研究所、厚生省結核感染症課.無菌性髄膜炎.病原微生物検出情報18(6):127‐128,1997.
3)国立予防衛生研究所、厚生省結核感染症課.エコー30型による無菌性髄膜炎の流行. 病原微生物検出情報4 (10):44‐45,1983.
4)国立感染症研究所、厚生労働省結核感染症課.無菌性髄膜炎関連エンテロウイルスの動向 1999〜2002. 病原微生物検出情報 23(8):193‐194, 2002.

(国立感染症研究所感染症情報センター 谷口清州)

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updated info

この記事は、1999年第27週2001年35週 掲載を改訂して発行しました。

 

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