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2003年第5週号(1月27日〜2月2日)掲載

◆セレウス菌感染症

 本感染症は、感染症法における4類感染症定点把握疾患の感染性胃腸炎の中に含まれる。セレウス菌感染症は殆ど食中毒の形をとり、嘔吐型と下痢型がある。わが国においては1960 年代以降、セレウス菌食中毒が報告されており、そのほとんどが嘔吐型である。厚生省は1982 年3月に食中毒の原因菌として本菌を新たに追加指定し、1983 年の食中毒統計から病因物質として記載されるようになった。

疫 学
 自然界に広く分布するセレウス菌による食中毒は古くから知られており、1950 年代に、特にヨーロッパ諸国において、「芽胞を形成する桿菌」による下痢を主症状とした下痢型セレウス菌食中毒の発生が報告されている。1970 年代にイギリスで炒飯の喫食による嘔吐を主症状とした嘔吐型セレウス菌食中毒が報告され、その後欧米各国で同様の事例が報告された。

表1. 日本における細菌性食中毒の発生状況(1983 年〜1999 年)

表2. セレウス菌食中毒の大規模事例(1983 年〜1999 年:100 名以上)

 わが国におけるセレウス菌食中毒は嘔吐型がほとんどであるが、その発生数や患者数はそれ程多いものではない。1983 年から1999 年までの17 年間に発生した食中毒総数19,937事例のうち、セレウス菌食中毒は201 事例、患者数7,697 名で、いずれも1%程度を占めるにすぎない(表1)。また、その発生規模も1事例当たりの患者数が10 名前後の小規模発生がほとんどであるが、時に患者数100 名を超える大規模な事例もみられる。表2 に大規模食中毒事例を示したが、学校や事業所での事例が多く、患者数1,800名を超える事例までみられている。時期的には、他の細菌性食中毒と同様、夏期に多く発生している。

 表3には原因食品別発生状況を示したが、穀類と複合調理食品によるものが大部分を占め、具体的には米飯、スパゲティが嘔吐型食中毒の原因食品となっている。一方下痢型の原因食品としては、食肉製品や野菜、そしてこれらを材料としたスープなどがあげられている。

表3. 原因食品別セレウス菌食中毒の発生状況(1983 年〜1999 年)


病原体(図1)
 Bacillus 属には30種以上の菌種が知られており、中でもB. anthracis は炭疽の病原菌として良く知られた病原菌である。セレウス菌(B. cereus)は100 ℃30 分の加熱にも耐える芽胞の形で土壌などを中心に自然環境に広く分布し、野菜や穀物などの農産物を汚染している。

 また、セレウス菌は溶血毒をはじめ、いくつかの毒素を産生することが知られているが、食中毒に関係するのは嘔吐毒と下痢毒である。嘔吐毒本体はCereulide と呼ばれる環状ペプチドで、消化酵素や熱、酸・アルカリにも安定であるため、食品中で産生された毒素で中毒が発現する。一方、下痢毒本体はタンパク質であり、ペプシンやトリプシンなどの酵素や、60 ℃以上の加熱、pH4以下の酸性条件などによって失活することが知られている。したがって、原因食品中に産生された毒素は胃酸や消化酵素により不活化されるので、下痢は起こさないと考えられる。

図1. セレウス菌の電子顕微鏡像

 

臨床症状

 セレウス菌食中毒の症状は嘔吐型と下痢型で異なる。嘔吐型は食品内で産生された毒素によって発症する毒素型食中毒で、潜伏時間は30分〜5 時間で嘔吐が主である。実際に1987 年に東京で発生した事例における患者318名の症状発現状況を見ると、主な症状は嘔吐、吐き気、下痢、腹痛であり、いずれも軽症であった(表4)。一方、下痢型は原因食品内で増えた菌が喫食され、腸管内での増殖とともに産生された毒素によって起こる感染型(生体内毒素型)であり、潜伏時間は6〜15時間と長く、下痢が主症状である。

表4. 1987 年東京都内で発生したセレウス菌食中毒における患者の臨床症状(患者数:318 名)


病原診断
 セレウス菌食中毒は、臨床症状、潜伏時間、および関係検体からの原因菌検出頻度などによって診断されているのが現状である。自然環境からよく検出される本菌と食中毒の原因となる本菌との区別については、後者がでんぷん分解性陰性であることから、でんぷん分解能検査が役立つと思われる。セレウス菌の鞭毛抗原によるH 血清型別は特異性が高く、セレウス菌の血清型別に応用されるが、市販の試薬はない。原因食品や患者試料などから検出された菌株間における同一血清型菌の検出頻度は、食中毒診断にとって重要な判定資料となる。一方、病原本体である毒素の検出では、下痢毒についてはラテックス凝集反応による検出キットが市販されているが、嘔吐毒の簡 易な検査方法は開発されていないため、検出菌株や食品中の毒素を検出することは困難である。

治療・予防
 本食中毒患者に対しては、下痢や嘔吐に対する水分や栄養補給などの対症療法程度で、特 別な治療は必要ないと考えられる。
 セレウス菌は食品における汚染頻度が高く、さらに加熱調理後も生残している場合が多いこと から、予防対策としては、食品中での菌増殖を押さえることが第一である。嘔吐型、下痢型いず れの場合も、食品中で原因菌が増えることが発生要因となる。したがって、調理から喫食までの時間と温度管理が最も重要な予防法である。

感染症法における取り扱い(2003年10月の感染症法改正に伴い更新)
 感染性胃腸炎は5類感染症定点把握疾患に定められており、全国約3,000カ所の小児科定点から毎週報 告がなされている。報告の基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準を満たすもの。
   1. 急に発症する腹痛(新生児や乳児では不明)、嘔吐、下痢
   2. 他の原因によるものの除外
 ○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。

食品衛生法における取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出る。

(東京都立衛生研究所微生物部 柳川義勢)

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updated info

この記事は、 2001年第10週 掲載を改訂して発行しました。

 

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