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◆エルシニア感染症
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Yersinia 属菌はグラム陰性の桿菌で腸内細菌科に属しており、冷蔵庫内温度である4 ℃でも発育できることが、サルモネラや大腸菌などの他の腸内細菌科に属している菌とは異なる。菌体は小さく、その形態は桿状(図1)あるいは球状で、培地上では比較的小さな集落を形成する。Yersinia 属菌の生化学性状の多くは培養温度に依存し、通常25〜30 ℃で実施される。Yersinia 属には現在11菌種が分類されているが、ヒトに病原性を示すのはY. enterocolitica 、Y. pseudotuberculosis およびY. pestis である。Y. enterocolitica は生物型と血清型で分類され、ヒトに病原性を示すのは特定の組み合わせに限られている。 |
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図1.
Y. enterocolitica の電子顕微鏡写真
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Y.
pseudotuberculosis は現在までに8つの血清型に分類されているが、ヒトの感染症と明確に関連づけられている菌型は1a、1b、2a、2b、2c、3、4b、5aと5bである。
これら3菌種の病原性発現は約70kbのプラスミドに支配されており、37 ℃で培養するとプラスミド依存性の様々なタンパクを発現する。
Y. enterocolitica とY. pseudotuberculosis の感染サイクルは自然界ではほぼ同様であると考えられている。野生動物における感染あるいは発症は、健康保菌獣の糞便とともに排出された菌が感染源となり、汚染された飼料を感受性動物が摂取した場合に感染、発症が自然に繰り返される。ヒトの感染様式も動物と同じであり、保菌獣から直接に、あるいは飲食物を介して経口的に感染する。これまでの動物における保菌実態から、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミが最も重要である。
臨床症状
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Y. enterocolitica 感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩である。患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられ、乳幼児では下痢症が主体であり、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相を呈する傾向がみられる。発熱の割合は高いが、高熱者は少ない。症状の中で最も多いのが腹痛である。特に、右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する割合が高く、 虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もある。腸管感染であるにもかかわらず、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状を伴う割合が比較的高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともある。 |
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図2.
自己凝集性試験
BHIB に接種した病原株(左)と非病原株(右) |
Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぐ。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察される。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大、少数例には心冠動脈の拡張性変化のほか、二次的自己免疫的症状として、関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑などが見られることもある。
病原診断
エルシニア感染症の確定診断には、糞便からのY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis の検出が必要である。分離培養には直接分離と増菌分離とがあるが、下痢便には多くの菌が存在するので、選択培地で直接分離することが可能である。分離培地にはSS 寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用いる。また、菌数の少ない材料では、リン酸緩衝液を用いた低温増菌法を併用することが望まれる。
Y. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis と同定された菌株については、市販の診断用血清で血清型を決定する。分離当初に菌株をBHIB (brain heart infusion broth)などで37 ℃培養する自己凝集性試験を行うことにより、病原株であるかどうかの判定が迅速に行える(図2)。
患者の初期血清と回復期血清でY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis に対する抗体価を測定することは、本感染の裏付けとなる。菌の分離ができず、抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われる。しかし、Y. enterocolitica 血清型O9 とブルセラ(Brucella abortus)とは抗原交差があるため、抗体価から血清型O9 感染と診断した場合には、ブルセラ感染も疑うべきである。
治療・予防
Y. enterocolitica およびY. pseudotuberculosis は通常使用されている抗菌薬に対して高い感受性を示す。しかし、Y. enterocolitica はβ−ラクタマーゼ活性があるため、アンピシリンなどに対しては感受性が低い。また、Y. pseudotuberculosis はマクロライドを除いて高感受性である。抗菌薬投与に関しては、その種類、投与方法、投与期間などはいずれも確立されていないが、治療に抗菌薬を使用しなくてもおおむね予後は良好である。
なお、米国CDC では、重篤な症状や合併症のある場合はアミノグリコシド系、ドキシサイクリン、フルオロキノロン系、ST合剤などの使用が有用であるとしている。
食品衛生法における取り扱い
食中毒が疑われる場合は、24 時間以内に最寄りの保健所に届け出る。
【文 献】
1)Zen‐ Yoji H, Maruyama T.:The first successful isolations and identification of Yersinia enterocolitica from human cases in Japan.Jpn J Microbiol 16:493‐500,1972
2)Sato K, Ouchi K, Taki M:Yersinia pseudotuberculosis infection in children,resembling Izumi fever and Kawasaki syndrome.Pediatr Infect Dis 2:123‐126,1983
3)Wauters G, Kandolo K, Janssens M.:Revised biogrouping scheme of Yersinia enterocolitica.
Contrib Microbiol Immunol 9:14‐21,1987
4)Kaneko S, Maruyama T.:Pathogenicity of Yersinia enterocolitica serotype O3 biotype 3 strains. J Clin Microbiol 25:454‐455,1987
5)東出正人、行方千佳、金子誠二:糞便由来Yersinia enterocolitica 血清型O3菌の各種性状.日本臨床微生物学雑誌.8:16‐20,1998.
6)Ohtomo Y, Toyokawa Y, Saito M, Yamaguchi M, Kaneko S, Maruyama T.:Epidemiology of Yersinia enterocolitica serovar O:8 infection in the Tsugaru area in Japan. Contrib Microbiol Immunol 13:48‐ 50, 1995
7)Zink DL, Feeley JC, Wells JG, Vanderzant C, Vickery JC, Roof WD, O'Donovan GA.:Plasmid‐
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8)Cornelis GR, Boland A, Boyd AP, Geuijen C, Iriarte M, Neyt C, Sory MP, Stainier I.:The
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9)Aleksic S. Bocemuhl J.:Yersinia and Other Enterobacteriaceae.In Manual of clinical
microbiology (ed by Murray PR, Barron EJ, Pfaller MA, Tenover FC, Yolken RH ), p483‐496, AMS
Press, Washington, 1999
10)Sazama, K.:Bacteria in blood for transfusion.A review. Arch Pathol Lab Med 118:350‐ 365, 1994.
(東京都立衛生研究所生活科学部 金子 誠二)
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updated info |
| この記事は、2001年第11週 掲載を改訂して発行しました。 |