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2002年第12週号(2002年3月18日〜3月24日)掲載

◆ レジオネラ症

 レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila )を代表とする細菌感染症で、劇症型の肺炎と一過性のポンティアック熱がある。レジオネラ属菌は、もともと環境に普通に存在する菌である。しかしながら、快適な生活を求めるために、循環水を利用した風呂が好まれ、エアロゾルを 発生させる人工環境(噴水等の水景施設、ビル屋上に立つ冷却塔、ジャグジー、加湿器等)が屋内外に多くなっていることなどが感染する機会を増やしているものと考えられ、感染症法の施行以 後、検査技術の進歩とあいまって、報告例が少なからずみられている。

疫 学
 

 院内感染、市中感染ともに季節によらずみられ、特にヨーロッパではしばしば旅行と関連してもみられる。人から人への感染はない。レジオネラ肺炎は市中肺炎の3〜10%を占め、潜伏期は2〜10日である。一方、ポンティア ック熱は、発病率が95%、潜伏 期間が1〜2日であるが、集団発生でないと報告にあがりにくい。
1999 年4月から始まった厚生労働省発生動向調査によると、2001 年12月までに294 例報告されている。季節によらず発症がみられ(図1)、中高年に多い(図2)。図1でピークのみられる、2000年3月の静岡県の温泉、2000 年6月の茨城県の入浴施設における集団発生では、それぞれ23名(2名死亡)、45名(3名死亡)が発症した。しかし、感染源の判明していない事例も多い。
 ポンティアック熱では、1994年に東京都内で開催された研修会 での冷却塔に由来する集団発生例がある。

図1. レジオネラ症患者発生状況(1999.4 〜2001.12 )

図2. レジオネラ症患者の性別年齢別分布

病原体
 レジオネラ属菌、特にレジオネラ・ニューモフィラによることが多い。レジオネラは本来土壌細菌であるが、冷却塔、給湯系、渦流浴などの人工環境にアメーバを宿主として増殖している。冷却 塔には血清群1 、温泉や24 時間風呂には血清群4, 5, 6のレジオネラ・ニューモフィラが多い。

臨床症状 

 レジオネラ肺炎は、臨床症状では他の細菌性肺炎との区別は困難である。

全身性倦怠感、頭 痛、食欲不振、筋肉痛などの症状に始まり、乾性咳嗽(2〜3日後には、膿性〜赤褐色の比較的粘稠性に乏しい痰の喀出)、高熱、悪寒、胸痛が見られるようになる。傾眠、昏睡、幻覚、四肢の振せんなどの中枢神経系の症状が早期に出現するのも本症の特徴とされる。胸部X 線所見では肺胞性陰影であり、その進行は速い。1999年6月に発症した新生児レジオネラ肺炎の場合、生後8日目に死亡し、剖検時には肺 に小豆状の結節が多数みられた(図3)

図3. 剖検時肺(小豆状の結節が多数みられる)

 ポンティアック熱は、突然の発熱、悪寒、 筋肉痛で始まるが、一過性で治癒する。

病原診断

 市販キットによる尿中抗原の検出は特異性が高く簡便迅速なため、最近普及してきた。菌の分離にはレジオネラ専用の培地(BCYE、あるいはそれに抗菌薬を含んだもの)を用いる必要がある。
 検体中の菌はグラム染色では染まらないので、ヒメネス染色やアクリジンオレンジ染色を行う。図4は、新生児の剖検肺のパラフィン切片標本から、ヒメネス染色で 菌体を検出できた例である。また、レジオネラ属菌に対する特異抗血清が市販され、間接蛍光抗体法で菌が検出できる。

図4. 肺切片のヒメネス染色像(←の先に菌がみられる)

 肺炎の剖検例で組織を凍結保存しておけば、後程そこからレジオネラ属菌を分離するのも可能である。
 環境から分離された菌との同一性が問題になるので、環境水やそこからの分離株も、患者由来の菌種が確定するまでは保存しておくことが必要である。


治療・予防
 レジオネラは細胞内寄生細菌であるので、宿主細胞に浸透するエリスロマイシン、リファンピシン、ニューキノロンなどの抗菌薬を使用する必要がある。有効な抗菌薬の投与がなされない場合は、7日以内に死亡することが多い。
 エアロゾルの発生する可能性のある温水は、適切な殺菌剤による処理をおこなうか、換水するなどの留意が必要である。また、高齢者や新生児のみならず、細胞性免疫機能が低下した者では肺炎を起こす危険性が通常より高いので、特に留意する必要がある。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 レジオネラ症は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。報告の基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
 ・病原体の検出
 例:臨床材料(肺組織、痰、胸水、血液、他の無菌的部位)からの菌の分離、Serogroup 1の場合は臨床材料(肺組織または気道分泌物)からの菌の検出(直接蛍光抗体染色法)など
 ・病原体の抗原の検出
 例:尿中抗原の検出(EIA法)など
 ・病原体の遺伝子の検出
 例:臨床材料からの遺伝子の検出(PCR法)など
 ・病原体に対する抗体の検出
 例:間接蛍光抗体法での特異抗体価の上昇(ペア血清で4倍以上の上昇、または単一血清で256倍以上)など


(国立感染症研究所細菌部 倉 文明 前川純子 渡邊治雄)

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この記事は、2000年第02週 掲載を改訂して発行しました。
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