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2002年第11週号(2002年3月11日〜3月17日)掲載

◆ ライム病

 ライム病(Lyme disease またはLyme borreliosis)は、野鼠や小鳥などを保菌動物とし、野生の マダニ(マダニ属マダニ)によって媒介される人獣共通の細菌(スピロヘータ)による感染症である。19世紀後半より欧州で報告されていた、マダニ刺咬後に見られる原因不明の神経症状(Garin‐Bujadoux 症候群、Bannwarth 症候群、Hellerstrom 病など)、1970 年代以降、アメリカ北西部を中心に流行が続いている、マダニ刺咬後に見られる関節炎、および遊走性皮膚紅斑、良性リンパ球腫、慢性萎縮性肢端皮膚炎、髄膜炎、心筋炎などが、現在ではライム病の一症状であることが明らかになっている。

疫 学
 欧米では現在でも年間数万人のライム病患者が発生し、さらにその報告数も年々増加していることから、社会的にも重大な問題となっている。
 本邦では、1986年に初のライム病患者が報告されて以来、現在までに数百人の患者が、主に 本州中部以北(特に北海道および長野県)で見い出されている。欧米の現状と比較して本邦でのライム病患者報告数は少ないが、本邦においても野鼠やマダニの病原体保有率は欧米並みであることから、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されている。感染症法施行後 の報告数としては、1999年4〜12月に14 例、2000年1〜12月に12例となっている。

病原体

 ライム病をおこす病原体であるボレリアは数種類が確認されている。北米では主にボレリア・ブルグドルフェリ(Borrelia burgdorferi )、欧州ではB. burgdorferi に加えて、ボレリア・ガリニ(B. garinii )、ボレリア・アフゼリ(B. afzelii )が主な病原体となっているが、本邦ではB. garinii 、B. afzelii が主な病原体となっていると考えられている。

図1. イクソデス・マダニ
(左から幼虫、飽血幼虫、若虫、飽血若虫、成虫メス、飽血成虫メス)
(旭川医科大学 宮本健司、中尾稔両博士提供)

ライム病ボレリアは、野山に生息するマダニ(イクソデス・マダニ、図1)に咬着されることによって媒介、伝播される。北米においては主にスカプラリス・マダニ(Ixodes scapuralis )、欧州においては主にリシナス・マダニ(I. ricinus )がライム病ボレリアを伝播するとされている。本邦においては、シュルツェ・マダニ(I. persulcatus )の刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどで、これらマダ ニは本州中部以北の山間部に棲息し、北 海道では平地でもよく見られる(一般家庭 内のダニで感染することはないとされている)。

臨床症状 (表1a, b)
感染初期(stage I)マダニ刺咬部を中心とする限局性の特徴的な遊走性紅斑を呈することが多い。随伴症状として、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフルエンザ様症状を伴うこともある。紅斑の出現期間は数日から数週間といわれ、形状は環状紅斑または均一性紅斑がほとんどである。
播種期(stage II )体内循環を介して病原体が全身性に拡散する。これにともない、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多彩な症状が見られる。
慢性期(stage III)感染から数カ月ないし数年を要する。播種期の症状に加えて、重度の皮膚症状、関節炎などを示すといわれる。本邦では、慢性期に移行したとみられる症例は現在のところ報告されていない。症状としては、慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性脳脊髄炎などがあげられる。

表1-a. ライム病の臨床症状

早期症状(stage I, stage II )
  限局性 遊走性紅斑
インフルエンザ様症状(倦怠感、頭痛、発熱など)
拡散性(播種性) 神経症状(脊髄神経根炎、髄膜炎、顔面神経麻痺)
循環器症状(刺激伝導系障害性不整脈、心筋炎)
皮膚症状(二次性紅斑、良性リンパ球腫)
眼症状(虹彩炎、角膜炎)
関節炎、筋肉炎など
晩期症状(stage III) 慢性萎縮性肢端皮膚炎
慢性関節炎

表1-b. ライム病の鑑別診断

病期 臨床症状 鑑別診断

早期(限局性)

遊走性紅斑 体部白癬、銭形湿疹、環状肉芽腫、蜂巣炎、刺虫症
神経症状 ベル様麻痺、中枢神経系腫瘍
心臓炎 ウイルス性心筋炎、急性リウマチ熱、心内膜炎

早期(拡散性)

髄膜炎 ウイルス性髄膜炎、髄膜周囲炎、髄膜脳炎、その他の無菌性髄膜炎

晩期

関節炎 化膿性関節炎、急性リウマチ熱、幼年性リウマチ様関節炎、Henoch-Schonlein 紫斑病、コラーゲン血管病、出血傾向、悪性滲出、外傷性滲出、血友病


病原診断
 ライム病の診断には、欧米では、流行地での媒介マダニとの接触機会などの疫学的背景、遊走性紅斑やその他ライム病に合致する臨床症状、さらに米国疾病管理予防センター(CDC)が示した血清学的診断基準(表2)、などから総合的に判断することが推奨されている。
〈病原体の検出〉病原体ボレリアの分離培養にはBSK‐II 培地が用いられており、紅斑部からの皮膚生検で分離が可能である。欧米では脳炎患者の髄液からも稀に分離されているが、血液からの分離は難しいとされている。
〈血清診断〉本邦では輸入例、国内例ともにみられるため、それぞれに適した血清診断用抗原を選択する必要があり、北米からの輸入例が疑われる場合には、血清診断はコマーシャルラボ経由で米国の臨床検査ラボにて行う。欧州からの輸入例および国内例では、感染症研究所・細菌部で検査が可能である。

第1ステップ Enzyme immunoassay(EIA)あるいはImmunofluorescent assay (IFA)により試験する。

EIA あるいはIFA で陽性、擬陽性であった検体ではWestern immunoblot(WB)を行い、以下の場合最終的に抗体陽性とする。

第2ステップ 1)WB で主要表層抗原C (OspC)、ボレリア膜タンパク質A (BmpA)、鞭毛抗原のうち少なくとも2つ以上に対してIgM 抗体価が上昇していること。
2)WB で18kDa 抗原、OspC 、28kDa 抗原、30kDa 抗原、BmpA 、鞭毛抗原、45kDa 抗原、58kDa 抗原、66kDa 抗原、93kDa 抗原のうち、少なくとも5つ以上に対してIgG 抗体価が上昇していること。

【ライム病血清診断、情報受付窓口】
 ライム病血清診断に関する問い合わせ、およびライム病情報の受付窓口は以下の機関が行っている。
 ●国立感染症研究所 細菌第一部 第四室
  〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1
  TEL:03-5285-1111(内線2224)
  FAX:03-5285-1163

  研究協力機関としては
 ●千葉科学大学・薬学部・免疫/微生物学研究室 増沢俊幸先生
  〒288-0025 千葉県銚子市潮見町3番地
  TEL&FAX:0479-30-4685

 ●旭川医科大学 皮膚科学教室 橋本喜夫先生
  〒078-8307 北海道旭川市西神楽4線5号3番地の11
  TEL:0166-65-2111

治療・予防
 ライム病ボレリアには抗菌薬による治療が有効である(表3)。マダニ刺咬後の遊走性紅斑にはドキシサイクリン、髄膜炎などの神経症状にはセフトリアキソンが第一選択薬として用いられており、薬剤耐性は今のところ報告されていない。マダニ刺咬によるエーリッキアの重複感染が疑われる場合には、ドキシサイクリンもしくはテトラサイクリンが有効とされている。
 予防には、野山でマダニの刺咬を受けないことがもっとも重要である。マダニの活動期(主に春から初夏、および秋)に野山へ出かけるときには、1)むやみに藪などに分け入らないこと、2)マダニの衣服への付着が確認できる白っぽい服装をすること、3)衣服の裾は靴下の中にいれ、虫よけをし、マダニを体に近寄らせないこと、などを心がける。また万一刺咬を受けた場合には、自分でマダニを引き剥がさず病院の皮膚科で切除してもらうのがよい。無理に虫体を剥ぎ取るとマダニの刺口が皮膚の中に残り、感染を増長する場合がある。
 ワクチンとしては、米国ではFDA で認可を受けたものがあるが、本邦では導入されていない。

表3. ライム病の抗菌薬による治療

(参考論文:Nadelman RB, Wormser GP., Lyme borreliosis, Lancet 1998;352:557‐565.)

臨床症状 抗菌薬
投与期間(日)

遊走性紅斑、顔面神経麻、 良性リンパ球腫など

Doxycycline *
Amoxicillin
Cefuroxime axetil
Phenoxymethylpenicillin
(Penicillin V)
Tetracycline *

14
14
14
14

14

髄膜炎、神経根炎、末梢性神経炎など**

Ceftriaxon
Cefotaxime
Doxycycline
Penicillin G

14
14
14〜28
14

慢性関節炎

Doxycycline
Amoxicillin
Ceftriaxon

28
28
14

*エーリッキアの重複感染が疑われる場合、doxycycline もしくはtetracycline を適用
** 脳炎に移行している場合は、投与期間 (〜4W) を延長できる

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 ライム病は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの
 ・病原体の検出
  例、生体試料からの分離培養など
 ・病原体に対する抗体の検出
  例、血清のELISA 法やWestern Blot 法検査など


(国立感染症研究所細菌部 川端 寛樹)

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updated info

・一部更新しました(2005/7/4)

・この記事は 1999年第37週 掲載を改訂して発行しました。

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