感染症の話トップページへ

2002年第09週号(2002年2月25日〜3月3日)掲載

◆ Q 熱

 Q 熱は重要な人獣共通感染症の一つで、1935年オーストラリアの屠畜場の従業員の間で流行した原因不明の熱性疾患として発見され、のちにリケッチアの一種Coxiella burnetii による感染症であることが明らかにされた。Q熱という病名は、「Query fever =不明熱」に由来している。

疫 学
 オーストラリアで発見されて以来、世界中でQ 熱の患者が報告され、広く認識されるようになった。本菌は感染動物の尿、糞、乳汁などに排泄され、環境を汚染する。ヒトは主にこの汚染された環境中の粉塵やエアロゾールを吸入し、感染する。ウシやヒツジの未殺菌の乳製品・生肉などを摂食し感染することもあるが、稀である。
 感染源はおもに家畜や愛玩動物であるが、自然界では多くの動物やダニが保菌しており、感染源となりうる。感染動物は症状がない(不顕性感染)ことが多いが、妊娠しているウシやヒツジが感染すると流産や死産をおこすこともある。これは、本菌が胎盤で爆発的に増殖するためである。このため、菌を大量に含む胎盤や羊水が原因となったヒトの集団感染が数多く報告されている。また、ネコの出産や流産時のヒトの感染も多い。一方で、ヒトからヒトへの感染はほとんどおこらない。
 わが国でも、1988 年カナダでヒツジの胎仔を扱う研究に従事していた医学留学生が帰国後に発症し、最初のQ 熱の症例として報告された。これを契機に国内での調査・研究が進み、わが国にもQ 熱が存在することが明らかとなり、1999 年4月からは感染症法による届出が始まった。1999年には12人、2000年には23人、2001 年には40人の患者が報告され、増加傾向にある。これらの発生をみると、都市部での散発例が多く、集団感染が極めて少ないという特徴があった。感染源としては、患者が飼っている愛玩動物が重要視されているが、特定できない症例が多い。また、我々は最近、オーストラリアの農場視察に行った畜産関係者3 人が同時に感染した輸入症例を経験している。

病原体

 Coxiella burnetii (コクシエラバーネティー)はリケッチア科コクシエラ属の小桿菌で、多型性を示す(写真1)。他のリケッチアと同様に細胞内でのみ増殖できる偏性細胞内寄生細菌で、人工培地では増殖できない。その大きさは0.2〜0.4 ×1.0 μm で、球菌の1/2〜1/4 である。増殖時の菌の形態には大型菌体(large cell variant, LCV)と小型菌体(small cell variant, SCV)とがある。

写真1. マウス脾臓中のCoxiella burnetii
(静岡県環境衛生科学研究所 長岡宏美博士提供)

ともに感染性があり、LCV は浸透圧に対し抵抗性が低いが、SCV は芽胞様構造を示し、熱、乾燥、消毒に強いため環境中で安定である。そのため、他のリケッチアでは菌の伝播にダニなどの媒介(ベクター)を必要とするが、Q 熱では必要としない。また、本菌は腸内細菌に似た相変異をおこし、I相菌およびII相菌とよばれている。I 相菌は野外(病原)株で菌体表面にリポ多糖(LPS)を保有し、II相菌は、I相菌を発育鶏卵や培養細胞を用いて長期継代し弱毒化した株でLPS を保有しない。このI相菌およびII 相菌が血清診断には重要である(後述)。

臨床症状
 Q 熱の病態は大まかに急性と慢性の2 つに分けられる。急性型の潜伏期は一般的には2〜3週間で、感染量が多いと短くなる。症状は発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、呼吸器症状などで、インフルエンザ様である。しかし、主症状が肺炎、肝炎、あるいはその他の症状であったりと、その臨床像は多彩である。他のリケッチア症と異なり、皮疹がみられることは稀である。検査所見では、CRP、肝酵素(GOT、GPT)の上昇、血小板の減少、貧血などがみられる。また、急性型の2〜10%は心内膜炎を主徴とする慢性型に移行するといわれており、適切な治療をしないと致死率も高くなる。海外では、急性Q 熱患者が回復後しばらくして倦怠感、不眠、関節痛などを訴え、数ヶ月〜十数年もの間持続し、慢性疲労症候群と診断される症例が報告されている。
 Q熱に特徴的な症状や所見がないため、臨床的に他の熱性呼吸器疾患や細菌性心内膜炎と鑑別することは困難と思われる。したがって、上記のような症状があり、動物との接触歴や海外(流行地)への渡航歴があり、起因菌やウイルスが証明できない場合には、本症を疑ってみる必要がある。

病原診断
 血清診断は主に間接蛍光抗体法などで行われる。急性型では、まずII相菌に対する抗体が上昇し、その後I相菌に対する抗体が上昇する。一般に、I相菌よりII 相菌に対する抗体価が高くなる。急性型の確定診断には、II相菌あるいは双方を用いて、急性期と回復期のペア血清での抗体価の上昇を証明することによって行われる。抗体価は最初の感染から数ヶ月〜数年持続する。陽性判定は、ペア血清で4 倍以上の抗体価の上昇があったものとする。単独血清での判定は難しいことが多い。一方、慢性型の確定診断では、I相菌およびII相菌に対する高い抗体価がみられ、一般にI 相菌の抗体価がII 相菌の抗体価より高いことから判定される。また、慢性疲労症候群様患者では全般的に抗体価が低いといわれている。
 また、急性期の血液からPCR法により遺伝子検出を行うことも可能である。外膜蛋白質、superoxide dismutase 遺伝子などを標的としたPCR法が利用されている。我々は、主に全血のバフィーコート分画から検出を行っており、急性極期には血清中からの検出も可能である。


治療・予防
 治療にはテトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択薬であり、クロラムフェニコールなども有効である。急性型の場合には、抗菌薬による治療を発症から3日以内に行うと一般的に効果が最も高いが、2〜3週間は続ける必要がある。仮に再燃したら、すぐに投薬を再開することが重要である。また、慢性型の場合は予後が悪く、数年にわたる投薬が行われても十分に効果が得られないこともある。急性型の発症の際に適切な治療を行い、慢性型に移行させないことが重要である。
 海外では家畜の出産シーズンに感染が発生することが多く、出産時の動物(愛玩動物も含め)、特に死・流産などをおこした動物の取り扱いには要注意である。流産胎盤などは焼却し、汚染された環境はクレゾール石けん液、5%過酸化水素水で消毒する。また、オーストラリアでは屠畜場の従業員などハイリスク群にはワクチンが使用されているが、わが国では使用できない。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 Q 熱は4類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る。
 報告のための基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
 ・病原体の検出
 例、血液などからの病原体の分離など
 ・病原体の遺伝子の検出
 例、PCR 法など
 ・病原体に対する抗体の検出
 例、間接蛍光抗体法(IF)法で抗体が4倍以上の上昇など


(国立感染症研究所ウイルス第一部 小川基彦)

   IDWRトップページへ

 

 

 

updated info

この記事は、2000年第04週 掲載を改訂して発行しました。

ページの上へ