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2002年第4週号(2002年1月21日〜1月27日)掲載

◆ダニ媒介性脳炎

 ダニ媒介性脳炎は、マダニ科に属する各種のマダニによって媒介されるフラビウイルス感染症で、終末宿主であるヒトに急性脳炎をおこす。ダニ媒介性脳炎ウイルスの自然宿主はげっ歯類とダニである。

病因・疫学
 ダニ媒介性脳炎は、日本脳炎と同じフラビウイルス属のウイルスによってひきおこされる感染症である。蚊によって媒介される日本脳炎と異なり、マダニ(ヨーロッパではIxodes ricinus)によって媒介される。ダニ媒介性脳炎ウイルス群は14 のウイルス種からなるが、このうち8 種類がヒトに病気をおこす。

ヤマトマダニ(Ixodes ovatus )の写真

ヤマトマダニ(♀)
ヤマトマダニ(♂)

(原図:国立感染症研究所昆虫医科学部
マダニは、沢に沿った斜面や森林の笹原、あるいは牧草地などに生息し、家の中や人の管理の行き届いた場所には、ほとんど生息しない。

 世界におけるダニ脳炎の患者数については、患者数の集計が整った1990年以降のデータでは、毎年6,000 人以上発生し、多い年には10,000人前後発生している。主なものとしてロシア春夏脳炎ウイルスと中部ヨーロッパ脳炎ウイルスがある。なお、ロシア春夏脳炎は、我が国でも1993年に北海道の酪農家の主婦が本疾患に罹患した報告があり、ロシア春夏脳炎ウイルスが道南地域のイヌに分布していることが判明した。一方、中部ヨーロッパ脳炎はスウェーデン、ポーランド、チェコ、スロバキア、オーストリア、ハンガリー、ロシア西部などに分布している。ヒトへの感染は、ダニによる刺咬だけでなく、感染したヤギや羊の原乳を飲んでも感染する。

臨床症状
中部ヨーロッパ脳炎
 潜伏期間は、7 〜14 日であり、二相性の病状を呈する。第一期は、インフルエンザ様の発熱・頭痛・筋肉痛が1 週間程度(短い場合もある)続く。この第一期は約半数で認められない場合もある。解熱後2 〜3 日間は症状が消え、その後第二期にはいり痙攣・眩暈・知覚異常などの中枢神経系症状を呈する。脳炎、髄膜脳炎あるいは髄膜炎の形をとり、脊髄炎は伴わない。麻痺症状は報告によってばらつきがあるが、3 〜23%に認められる。死亡率は1 〜5%とされている。後遺症としては感覚障害が主なものであるが、平衡感覚障害、感音性難聴などもある。後遺症の頻度は35 〜60%とされている。疾患の重篤度は、ヨーロッパの東から西に移るにつれて減少する。
ロシア春夏脳炎
 潜伏期間は7〜14 日であるが、中部ヨーロッパ脳炎のような二相性の病状は呈さない。潜伏期の後に頭痛・発熱・悪心・嘔吐が見られ、極期には精神錯乱・昏睡・痙攣および麻痺などの脳炎症状が出現することもある。中部ヨーロッパ脳炎と比べて、致死率は30%と高い。

予 防
 予防法としては不活化ワクチンの接種がある。ヨーロッパではワクチンとして、Baxter−Immuno 社のFSME−IMMUN とChiron Behring 社のEncepur が使用可能であり、リスクのある者ヘの接種が行われているが、我が国では市販されてなく、関係者の間での認識も乏しい。初回免疫として1 dose (0.5ml)を筋注する。初回免疫の後1〜3カ月後に2回目の免疫、さらに2回目の免疫後9〜12カ月後に3 回目の免疫をする。2回目の免疫までの間隔を2週間に短縮することもできる。ワクチンは中部ヨーロッパ脳炎、ロシア春夏脳炎双方に有効である。中部ヨーロッパ脳炎に関しては、予防接種を受けておらず流行地の森林でダニに刺された場合、ガンマグロブリン製剤(オーストリア製)を投与する。
 流行のある地域の森林地帯でダニに刺されなければ、リスクはそれ程高くない。森林地帯に入る場合は、ダニに刺されないようにすることが最大の予防策である。長袖・長ズボンを着用し、靴は足を完全に覆うものがよく、サンダルのようなものは履かない。

感染症法における取り扱い(2003年11月施行の感染症法改正に伴い更新)
 急性脳炎(ウエストナイル脳炎及び日本脳炎を除く)は5類感染症全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○  意識障害を伴って24時間以上入院した者、あるいは24時間未満に死亡した者で、かつ、以下の1つまたはそれ以上の症状を有するもの
  ・ 38度以上の発熱
  ・ 何らかの中枢神経症状
  ・ 先行感染症状
 ○  熱性けいれん、代謝疾患、脳血管性疾患、脳腫瘍、外傷など、明らかに感染性とは異なるものは除外する。
 ○  可能な限り病原体診断を行い、明らかになったものは病原体名、検体の種類及び検査方法を記載する。なお、上記基準に該当する脳症も含める。

《備考》
 ・  他の届出基準に該当する感染症(インフルエンザ、手足口病、流行性耳下腺炎等)による急性の脳炎・脳症についても、急性脳炎としての届出が必要となる。その際には、二重の届出となる(脳症を発症したインフルエンザについて、定点医療機関においては、インフルエンザ及び急性脳炎の届出が必要となり、定点医療機関以外では急性脳炎のみが届出の対象となる等)。
 ・  ウエストナイル脳炎又は日本脳炎の診断がついている場合には、急性脳炎としての届出は必要ない。ただし、急性脳炎の届出後に、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎の診断がついた場合には、ウエストナイル脳炎又は日本脳炎としての届出が必要となり、結果として二重の届出となる。


(国立感染症研究所ウイルス第一部 高崎智彦)

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