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2001年第52週(12月24日〜12月30日)掲載


◆クリプトスポリジウム症

 従来、クリプトスポリジウム(Cryptosporidium )はウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミなどの腸管寄生原虫として知られてきたものであるが、ヒトでの感染は1976 年にはじめて報告された。1980 年代に入ってからは後天性免疫不全症候群(AIDS )での致死性下痢症の病原体として注目され、その後ほどなく、健常者においても水様下痢症の原因となることが明らかとなった。

図1. Cryptosporidium 感染マウス腸管
の走査電子顕微鏡像
図2. Cryptosporidium の生活史

英米両国では、1980 年代中頃から頻繁に水系汚染に伴う集団発生が報告されるようになっている。その中で、1993 年の米国ウイスコンシン州ミルウォ−キ−市では、40 万人を超える住民が本症に罹患する未曾有の集団感染が起きている。わが国では、1994 年に神奈川県平塚市の雑居ビルで460 人余の患者が発生し、1996 年には埼玉県越生町で町営水道水を汚染源とする集団感染が発生し、8,800人におよぶ町民が被害を被った。したがって、本症に関しては散発例よりもむしろ水道水や食品を介した集団発生が重要となる。

疫 学
 ヒトおよび家畜における感染状況は国により異なるものの、世界中で感染が認められる。1997年にまとめられた文献調査によると、健常者の下痢症については、発展途上国では6.1%、先進国では2.1%が本原虫の感染に起因していた。一方HIV 陽性者の下痢症の場合、それぞれ24%および14%が本原虫によるものであった。一方、ウシを中心とした調査では、患畜を含めると非常に高い感染率が示されている。わが国でも幼若令のウシやブタから頻繁に検出されており、畜産の分野では必ずしもまれな病気ではない。また、イヌ、ネコなどからの検出の報告もある。
 ちなみに、上述の集団感染事例を除いたわが国での散発例はきわめて少なく、ある集計によると1986 年から1997年1月までの全症例数は37 名で、海外旅行者13名、エイズ患者12名、獣医学関係学生(感染牛との接触)9名となっている。また、1999 年4月の感染症法施行から2001年12月までに届けられたクリプトスポリジウム症患者数は、18 件にとどまっている。これらの数値の示すと
ころが、本症への関心の低さに原因していなければ幸いである。

病原体
 クリプトスポリジウムは胞子虫類に属する原虫で、人への感染は主にC. parvum とされるが、DNA 解析によってヒト型、ウシ型、トリ型、その他の遺伝子多型を示すことが明らかとなっている。AIDS 患者ではさらにC. baileyi など異種の感染も否定できない。
 クリプトスポリジウムは宿主の腸管上皮細胞の微絨毛に侵入して寄生体胞を形成し、無性生殖によりメロゾイト形成を行う。宿主細胞から遊離したメロゾイトは再び微絨毛へ侵入することで著しく数を増す。やがて有性生殖の過程へ移行し、直径4 〜5μm 程度のほぼ球形のオーシストが
形成される。オーシスト内には4個のスポロゾイトが発育し、この時点で感染性を有するようになる。微絨毛から脱離したオーシストはその場でスポロゾイトを放出して自家感染を繰りかえすか、糞便とともに外界へ排泄されて、水や食品に混じって新たな感染を起こす。感染者一人が排出するオーシストは1010個にのぼると言われている。

臨床症状
健常者:免疫の正常な人が罹患した場合の臨床症状は、下痢(主に水様下痢)、腹痛、倦怠感、食欲低下、悪心などが挙げられ、軽度の発熱を伴う例もある。下痢は一日数回程度から20 回以上の激しいものまで多様で、数日から2 〜3 週間持続する。抗菌薬は無効であるが、自然治癒する。原因微生物が検出されない旅行者下痢症、あるいは既知の腸管系病原体を検出した症例であっても不可解な腹部症状が持続する場合には、ジアルジアとともに本症を考えるべきであろう。また、集団下痢症が発生した際に通常の病原体が検出されない場合には、本症の可能性を念頭において検査を進める必要がある。

AIDS:本原虫は免疫不全宿主に重症・難治性・再発性・致死性下痢症を発症させる。下痢は非血性であり、その程度は軟便・泥状から水様便までさまざまであるが、免疫不全の進行とともに重症化する傾向がある。重症例では、コレラに見られるような大量の水様便や失禁を伴うことが報告され、このような例では本感染症が直接死因となることが多い。治療にあたってはいくつかの薬剤が使用されるが、効果は一過性であり、多くの場合に再発、再燃する。また、免疫不全の進行や投薬の中止とともに症状が増悪する。健常者での感染部位は小腸付近に限られるが、AIDSでは胆嚢、胆管や呼吸器系への感染も報告されている。

病原診断

図3. C.parvum オーシストの微分干渉像
図4. C.parvum オーシストの蛍光抗体染色像

 クリプトスポリジウム症の診断は検便でオーシストを検出することによる。急性期の患者便には多量のオーシストが排出されているが、通常の塗沫標本観察では確認がむずかしい。遠心沈殿法やショ糖浮遊法により集オーシストを行い、蛍光抗体法、抗酸染色、ネガティブ染色などの染色標本を作製することが望まれる。蛍光抗体染色がもっとも感度が良い検査法で、市販の簡便な染色用キットがある(未承認のため保健適用外)。オーシストの内部構造観察には微分干渉顕微鏡が用いられる。
 検査法等に関してはhttp://www.nih.go.jp/~tendo/atlas/japanese/crypt.html を参照されたい。

治療・予防
 下痢の程度が軽度である場合には、非特異的治療法である(1)食餌制限、(2)水・電解質の摂取(WHO 処方によるORS で、いわゆるスポ−ツ飲料水がこれに近い組成)を行う。これに加えて鎮痙剤、激しい下痢症例では止瀉剤が用いられている。
 AIDS に合併した症例で、長期間持続する下痢症に対してはパロモマイシン(2グラム、3週間)の経口投与が行われる。症状が寛解した段階でパロモマイシンの維持投与を行うこともある。
 クリプトスポリジウムは強い感染力を持ち、米国でのヒトへの感染実験では130 個程度の経口摂取で半数が感染すると計算されている。ちなみに、1 個のオーシストの摂取で感染する確率は0.4%と計算されている。その後、株によって毒性に差があることが示され、10個未満の摂取で発症するとの報告もある。オーシストの感染力は、水中で数カ月程度保持されるものと考えられている。また、通常の浄水処理(凝集、沈殿、ろ過)で完全に除去することは困難で、塩素消毒にも抵抗性であることから、水道水汚染には注意が必要である。AIDS 患者をはじめとする免疫機能低下症患者は、生水の摂取などを避けるべきであろう。

感染症法における取り扱い
 クリプトスポリジウム症は4 類感染症全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に最寄りの保健所に届け出る。報告のための基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
 ・病原体の検出
 例、糞便などからの鏡検による原虫(オーシスト)の証明など

 《備考》
 世界的に広く分布し、本原虫による水道水の汚染が問題となっている。また、米国等ではエイズ患者の重篤な合併症として注目されている。


 
(国立感染症研究所寄生動物部 遠藤卓郎)

 

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この記事は、2005年第1週 にて改訂・掲載しました。


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この記事は、1999年第51-52週 掲載を改訂しました。
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