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2001年第44週(10月29日〜11月4日)掲載


インフルエンザ

 インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であるが、個体や社会に対する影響の重大性から「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき疾患である。流行が周期的に現われてくるところから、16 世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザ(influenza)の語源であると言われている。インフルエンザは、いまだ人類に残されている最大級の疫病である。

疫学
 毎年世界各地で大なり小なりインフルエンザの流行がみられる。温帯地域より緯度の高い国々での流行は冬季にみられ、北半球では1〜2月頃、南半球では7〜8月頃が流行のピークとなる。熱帯・亜熱帯地域では、雨季を中心としてインフルエンザが発生する。
 わが国のインフルエンザの発生は、毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1〜3月頃に患者数が増加、4 〜5月にかけて減少していくというパターンを示すが、夏季に患者が発生し、インフルエンザウイルスが分離されることもある。流行の程度とピークの時期はその年によって異なる。昨シーズン(2000/01 シーズン)は、近年になく流行の開始が遅く、1月下旬になってようやく流行が始まり、3月の中旬が流行のピークとなった。感染症発生動向調査による定点当たり報告数でみると、1987 年にインフルエンザ様疾患定点サーベイランス開始以降、1993/94 シーズンに次いで2番目に小さい流行だった。流行の主流となったウイルスはA/H1N1 (ソ連型)およびB 型で、とくに後半B 型の分離報告が増加し、A/H3N2 (香港型)の分離は比較的少数であった。抗原分析の結果、A/H1N1 ではA/New Caledonia/20/99 (ワクチン株)類似株が圧倒的多数であり、B 型では今シーズン(2001/02 シーズン)のワクチン株であるB/Sichuan (四川)/379/99 株類似株(ワクチン製造株としてはB/Johannesburg/5/99)が優勢であった。地域によってウイルスの抗原性に多少の違いがみられるが、おおむね全世界でもほぼ同様の傾向であった。
 インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡数および肺炎死亡数が顕著に増加し、さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡も増加、結果的に全体の死亡数が増加することが明らかになっている(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすく、先進工業国などで共通に見られる現象となっている。高齢者の全人口に対する割合が急増している我が国においても、超過死亡は1998/99 シーズンには3 万人以上も観測され、超過死亡の8 割以上は65 歳以上の高齢者によってもたらされており、社会的な問題となっている。ほとんどの先進工業国では高齢者のインフルエンザ予防接種は公費負担によって行われており、我が国でも、高齢者に対する予防接種を一部公費負担とする法案が本年10 月31 日に成立し、11月7日に公布、施行となった。

病原体  
 インフルエンザウイルスにはA,B,Cの3型があり、流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A 型とB型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、これらが感染防御免疫の標的抗原となっている。とくにA型では、HA には15 亜型、NA には9亜型の抗原性の異なる亜型が存在し、これらの様々な組み合わせを持つウイルスが、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布している。このため、人獣共通感染症として動物由来の亜型ウイルスがヒトの世界にも侵入する。
 A型インフルエンザでは、数年から数十年ごとに世界的な大流行が見られるが、これは突然別の亜型のウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスに取って代わることによって起こる。これを不連続抗原変異(antigenic shift)という。1918 年に出現した新亜型(H1N1)ウイルスによりスペインかぜの大流行がもたらされ、その後その子孫のH1N1 型ウイルスの流行が39 年間続いた。1957年には新亜型(H2N2 )ウイルスが出現してアジアかぜ(H2N2)の大流行が起こり、その子孫ウイルスの流行が11 年間繰り返された。その後1968 年には香港型(H3N2/HongKong)が現れて香港かぜの大流行を起こし、ついで1977 年にソ連型(H1N1/USSR )が再出現して加わり、現在はA 型であるH3N2とH1N1 、およびB 型の3 種のインフルエンザウイルスが世界中で流行している。
 一方、同一の亜型内でも、ウイルス遺伝子に起こる突然変異の蓄積によって、HAとNAの抗原性は少しずつ変化する。これを連続抗原変異(antigenic drift)という。その結果、過去の感染の際に獲得された免疫機構から逃れる様な抗原変異株ウイルスが生き残って流行を広げる。インフルエンザウイルスではこの様な連続抗原変異が頻繁に起こるので、毎年のように流行を繰り返す。


臨床症状
 A 型またはB 型インフルエンザウイルスの感染を受けてから1〜3 日間ほどの潜伏期間の後に、発熱(通常38 度以上の高熱)・頭痛・全身の倦怠感・筋関痛などが突然現われ、咳・鼻汁などの上気道炎症状がこれに続き、約1 週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザで、いわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いのが特徴である。とくに、高齢者や、年齢を問わず呼吸器・循環器・腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患・免疫機能が低下している患者などがインフルエンザに罹患すると、原疾患の増悪とともに、呼吸器に2 次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、肺炎、気管支炎などの合併症を起こし、入院や死亡の危険が増加する。小児ではこれらの合併症に加えて中耳炎を起こしやすく、気管支喘息を誘発することもある。
 この様な、インフルエンザに罹患すると重症化したり致死的な合併症を起こしやすい人はハイリスク群とよばれ、インフルエンザ対策上、予防・治療の対象として最も優先順位が高いとされている。
 小児のインフルエンザ患者に解熱剤としてアスピリン等のサリチル酸製剤を投与すると、稀に脳浮腫・脂肪肝を主徴とする予後不良のライ症候群を起こすことがある。アスピリンの長期投与を受けている小児では、インフルエンザの予防が大切である。
 一方、近年インフルエンザの流行期に、幼児を中心とした小児において、急激に悪化する脳炎・脳症などの重症神経系合併症例が増加することが明らかとなり問題となっている。厚生労働省「インフルエンザ脳炎・脳症の臨床疫学的研究班」(班長:森島恒雄名古屋大学医学部教授)で行った調査によると、毎年50 〜200 人のインフルエンザ脳炎・脳症患者が報告されており、その約10〜30%が死亡している。臨床経過や病理所見からは、上記のライ症候群とは区別される疾患と考えられるが、原因は不明である。インフルエンザ脳炎・脳症の増加の原因については先の研究班で詳細な調査が続行されており、すでに一部の非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用との関連性が疑われているため、それらをインフルエンザの治療には使わないよう注意が求められている。(詳細はhttp://idsc.nih.go.jp/others/topics/inf-enc.html を参照)。


ウイルス学的診断
 急性期の患者の咽頭拭い液やうがい液からウイルスを直接に分離することが病原診断の基本である。検体を発育鶏卵羊膜腔や組織培養細胞に接種して培養し、増殖してきたウイルスの同定を行うが、これには特別な設備や技術が必要であり、結果が出るまでには約1週間を要する。
 患者の血清診断には、従来から補体結合法(CF )、赤血球凝集阻止反応(HI)などが主に用いられているが、いずれも急性期と回復期の抗体価の4 倍以上の上昇をもって診断するので、確定
診断には2 〜3週間を要する。CF 抗体はウイルスの内部抗原を認識する抗体で、インフルエンザA,B,C の型別は出来るが、A型ウイルスの亜型の判別は不可能である。この抗体は感染後比較的速やかに消失することが多いので比較的最近の感染の推定に利用することができる。HI 抗体は感染後も長期にわたって証明され、また型別、亜型別の判定や抗原変異の程度を比較的簡単に測定することが可能であり、血清疫学調査やワクチンの効果を調べるのに有用である。患者検体からウイルスの遺伝子を選択的に増幅して検出する遺伝子診断法(RT−PCR)が開発されているが、実験室内の交叉汚染や特異性の問題もあり、結果の判定・評価には慎重さが求められる。
 一方、最近は外来あるいはベッドサイドなどで20〜30分以内に迅速簡便に病原診断が可能なインフルエンザ抗原検出キットが開発され、その一部は既に実用化されている。これは、患者の鼻腔拭い液を採取して、ウイルス抗原を高感度に検出する方法であり、外来診療などで抗インフルエンザ剤の使用の可否を判断する際には有用な方法で実用性が高い。

予防(ワクチン)・治療
 高齢者、慢性呼吸器疾患患者、循環器疾患患者、免疫機能低下患者などの、ハイリスクグループには積極的にインフルエンザワクチンを接種して、インフルエンザによる健康被害を予防するべきである。
 現行のインフルエンザワクチンはウイルスの感染やインフルエンザの発症そのものを完全には防御出来ないが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されており、高齢者に対してワクチンを接種すると、接種しなかった場合に比べて、死亡の危険を1/5 に、入院の危険を約1/3〜1/2 にまで減少させることが期待できる。
 また、これらのハイリスク群にウイルスを伝播する可能性の高い医療従事者、介護者、家族などへのワクチン接種も、ハイリスク群における健康被害を減少させる効果が報告されており、積極的なワクチン接種がすすめられる。社会機能の維持・確保のために学校教員、警察官、消防官なども接種の対象となろう。
 現在我が国で用いられているインフルエンザワクチンは、ウイルス粒子をエーテルで処理して発熱物質などとなる脂質成分を除き、免疫に必要な粒子表面の赤血球凝集素(HA)を含む画分を密度勾配遠沈法により回収して主成分とした不活化HA ワクチンである。現行ワクチンは安全性は極めて高いと評価されている。インフルエンザシーズン前(通常11月中旬〜12月中旬)に、65歳以上では1回、13〜64歳では1〜2回、13歳未満では2回、皮下に接種するが、2回接種の場合には1〜4週間の間隔を空ける。
 平成13 年11 月からは、インフルエンザは予防接種法の2類疾病に分類され、1)65 歳以上の高齢者、2 )60 歳以上65 歳未満であって、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に、またはヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に一定の障害を有する者に対しては、本人の希望により予防接種が行われ(一部実費徴収)、また万一副反応が生じた際には予防接種法に基づいて救済が行われることとなった。
 我が国では、世界各地および日本国内の流行情報、WHO によるワクチン推奨株、国内外の分離ウイルスの抗原解析、遺伝子解析などに基づいて、毎年2〜3月頃に次シーズンの流行ウイルスを予測する。さらに予想されるウイルスをワクチンとして接種した場合に期待される有効性や抗原変異株への対応性、さらにワクチン製造上の効率などを総合的に検討して、次シーズンのワクチン製造株が選定される。現在はA 型のH3N2 とH1N1 およびB 型の3種のインフルエンザウイルスが毎年世界中で流行しているので、原則としてインフルエンザワクチンはこの3 種類の混合ワクチンとなっている。2001/02 シーズン(今シーズン)には、A/H3N2 としてA/Panama/2007/99、A/H1N1としてA/New Caledonia/20/99 、B 型としてB/Johannesburg/5/99 の各株が選択されている。

 インフルエンザに対しては、これまでは対症療法が中心とされてきたが、1998 年我が国でも抗A型インフルエンザ薬としてアマンタジン(Amantadine)を使用することが認可された。アマンタジンはもともと抗インフルエンザ薬として1964 年に発表されていたが、我が国では抗パーキンソン治療薬など精神神経作用薬としてのみ認可されていた。アマンタジンはB 型ウイルスには無効である。神経系の副作用を生じやすく、また、患者に使用すると比較的早期に薬剤耐性ウイルスが出現するため、注意して使用する必要がある。
 新規に開発されたノイラミニダーゼ阻害薬(ザナミビル、オセルタミビル)は我が国では2001年に医療保険に収載された。ノイラミニダーゼ阻害薬はA 型にもB 型にも有効で、耐性も比較的できにくく、副作用もほとんどないとされており、発病後2 日以内に服用すれば症状を軽くし、罹病期間の短縮も期待できる。
 対症療法として解熱剤はインフルエンザに限らずよく使用されるが、必要最小限に留めるべきである。ことにアスピリンは、ライ症侯群との関係が推測されており、小児への使用は原則禁忌である。また、インフルエンザ脳症の発症との関連が疑われるため、非ステロイド系解熱剤のうちジクロフェナクナトリウムは禁忌、メフェナム酸は基本的に使用しないよう合意がなされており、必要な場合はなるべくアセトアミノフェンを使用することが推奨されている。肺炎や気管支炎を併発して重症化が予想される患者に対しては、これらの合併症を予防するために抗菌薬の投与が行われることがある。
 インフルエンザ脳症の治療に関しては確立されたものはなく、臨床症状と重症度に応じた専門医療機関での集中治療が必要である。

感染症法の中でのインフルエンザの取扱い
 インフルエンザは第4類の定点把握疾患に定められており、あらかじめ指定されたインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000、計約5,000定点)より毎週、年齢群別患者数が報告されている。報告のための基準は、以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の4 つの基準を全て満たすもの
 1. 突然の発症
 2. 38 ℃を超える発熱
 3. 上気道炎症状
 4. 全身倦怠感等の全身症状
 なお、非流行期での臨床診断は、他疾患とのより慎重な鑑別が必要である。
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの

学校保健法でのインフルエンザの取り扱い
 インフルエンザは学校において予防すべき伝染病第2 種に定められており、通常は解熱後2 日を経過するまで出席停止となる。しかし病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 

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この記事は、1999年第33週 掲載を改訂して発行しました。

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この記事は、2005年第8週 にて改訂しました。
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