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2001年第41週(10月8日〜14日)掲載


◆細菌性髄膜炎

 細菌性髄膜炎(bacterial meningitis)は細菌感染による髄膜炎の総称、すなわち疾患群であるが、通常結核性髄膜炎はこの範疇に含めない。化膿性髄膜炎ともよばれ、ウイルス感染が主体である無菌性髄膜炎と対照をなす。しかし、診断にあたっては、可能な限り病原診断に基づいた診断名であることが望ましい。抗菌薬療法の発達した現代にあっても発症すれば死亡率は高く、また救命できても重篤な後遺症を残すことがあり、特に小児においては侮れない感染症である。

疫学
 我が国における細菌性髄膜炎患者の発生状況は、1980年代では年累積定点当たり報告数は1.0人から徐々に減少し、1990年代では0.5人程度で感染症サーベイランス事業ではこの間細菌性髄膜炎の報告単位が週、月、週と変わったり、定点数が変わったりしているため、本疾病の長期的発生状況の変化をどの程度反映できているのかは定かでない。1999 年4月施行の感染症法の下における感染症発生動向調査では、0歳台、1〜4歳台の報告が多く、それ以降の年齢では減少するが、70歳以上ではまた多くなる。季節に関してはほとんど差異がみられない。原因菌に関しては、1999年4月からの感染症発生動向調査によるとインフルエンザ菌、肺炎球菌の順番になっている。
 細菌性髄膜炎の一つである髄膜炎菌性髄膜炎は、アフリカのいわゆる髄膜炎ベルトといわれる、西はセネガルから東はエチオピアまでの地域において多く発生している。そこでは、主にサバンナ地帯で乾期(12〜6月)に多くみられ、その血清型はほとんどA 群である。また、メッカへのイスラム教徒の巡礼、すなわちHaj においては、帰国してからW135 群髄膜炎菌による発症が英国その他のヨーロッパ諸国において問題となっている。髄膜炎菌性髄膜炎はわが国において感染症法で定める4類感染症全数把握疾患であるが、日本ではほとんど見られず、昨年、一昨年の報告では10例を超える程度である。
 インフルエンザ菌によるものに関しては、欧米ではtype b、すなわちHib に対するワクチンが使われており、発生数は激減しているが、我が国においては特に小児における細菌性髄膜炎の原因菌として重要である。

病原体  
 病原体は多種類あるが、年齢や基礎疾患によって特徴があり、年齢に関しては次のようである。
 ●新生児〜生後3カ月乳児:B群レンサ球菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌、リステリア菌
 ●生後3カ月以降の乳児〜幼児:インフルエンザ菌(ほとんどがtype b、すなわちHib )、肺炎球菌、
黄色ブドウ球菌
 ●年長児〜青年期:肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌
 ●成 人:肺炎球菌、髄膜炎菌
 ●高齢者(50 歳以上):肺炎球菌、グラム陰性桿菌、リステリア菌
 また、免疫能低下の状態では肺炎球菌、緑膿菌などのグラム陰性桿菌、リステリア菌、黄色ブドウ球菌(MRSA)などがみられ、脳室シャント後であれば黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌などが多くみられる。
 感染経路は多くの場合飛沫感染であり、原因菌が上気道あるいは呼吸器感染病巣を経由して侵入し、血行性に髄膜に到達する。新生児のB 群レンサ球菌感染症の場合には、産道感染も考えられている。その他に、リステリア菌が腸管から侵入したり、粘膜や皮膚に付着している黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌が、カテーテルを介して血行性に髄膜に到達することもある。


臨床症状
 多くは発熱、頭痛、嘔吐などを示し、進行すると意識障害、痙攣などがみられる。また、そのような経過を明瞭に示さずに敗血症の形を取る場合や、急速に悪化する電撃型もある。年齢が低いほど症状は非特異的であり、新生児や乳児では発熱以外の症状として不機嫌、食欲の低下などが目立つこともある。髄膜刺激症状として項部硬直やKernig 徴候などがあるが、新生児・乳児・幼児では必ずしも明瞭ではない。しかしそれらの場合、大泉門の膨隆がみられることも多い。
 検査では核の左方移動を伴う白血球数増多がみられ、CRP 値は高度の上昇を示す。髄液検査では髄液圧の上昇、主に多形核白血球からなる白血球数の増多、蛋白量の増加、糖量の減少などがみられる。


病原診断
 髄液沈査のグラム染色を行い検鏡する。菌の同定は不可能なことが多いが、グラム陽性か陰性か、球菌か桿菌かの区別からある程度の推定はできる。迅速診断として、ラテックス凝集法による抗原診断も実用化されているが、これが対象とするのは肺炎球菌、B群レンサ球菌、Hib、髄膜炎菌A、B、C群、K1抗原陽性大腸菌などである。抗原診断は、抗菌薬療法を開始して培養が陰性の場合などにも有用である。
 以上のことで陽性所見が得られても、確定診断のためには細菌培養が必要である。また、血液養で検出される場合も多い。得られた細菌に関しては、抗菌薬感性試験を行う。

治療・予防
 臨床症状、髄液所見などから細菌性髄膜炎の疑いがある場合、あるいは、無菌性髄膜炎様であっても化膿性髄膜炎を否定しきれず、全身状態が重篤な場合などには、細菌学的に確定診断がなされる前から抗菌薬療法を開始する必要がある。その際、年令、基礎疾患、発症状況などを考慮して可能性ある原因菌を想定し、それに合った抗菌薬を経静脈的に投与する。また、抗菌薬の選択には当っては、全国的な耐性菌の動向、所属する医療機関の耐性菌の動向なども考慮する。
 抗菌薬療法に際しては、特に肺炎球菌とインフルエンザ菌の場合、耐性の問題が大きい。肺炎球菌の場合、ペニシリン感性であれば結晶ペニシリンG カリウム、アンピシリン、セフォタキシムなど、耐性であればパニペネム/ベタミプロン合剤などが勧められる。また、インフルエンザ菌の場合、アンピシリン感性であればアンピシリン、耐性であればセフォタキシムを用いる。薬剤感性が不明の段階では、耐性と仮定して治療する。その他、B 群レンサ球菌、髄膜炎菌では結晶ペニシリンG カリウム、アンピシリン、セフォタキシムなど、リステリア菌ではアンピシリンが選択される。
原因菌が不明の場合の治療としては、アンピシリンとセフォタキシムの併用か、パニペネム/ベタミプロン合剤などを選択する。
 予防としては感染者からの飛沫感染などを避けることである。国内で唯一市販されているワクチンは、23 価の肺炎球菌多糖体ワクチンである。欧米ではHib 、髄膜炎菌などのワクチンが認可されている。

感染症法における取り扱い
 細菌性髄膜炎は4 類感染症定点把握疾患であり、全国約500 の基幹病院定点から毎週報告がなされている。報告のための基準は、以下の通りになっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準を全て満たすもの
1. 以下の臨床症状を呈するもの
 ・発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする
 ・項部硬直、Kernig 徴候、Brudzinski 徴候などの髄膜刺激症状(いずれも新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
2. 以下の検査所見を有すること
 ・髄液細胞数の増加(多核球優位であることが多い)
 ・髄液蛋白量の増加
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの


 【備 考】
 ・原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告すること
 髄膜炎菌性髄膜炎の場合は4 類感染症全数把握疾患であり、診断した医師は7 日以内に最寄りの保健所に届け出る。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 

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この記事は、2003年第38週 にて改訂しました。

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この記事は、1999年第35週 掲載を改訂しました。
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