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2001年第39週(9月24日〜30日)掲載


◆感染性胃腸炎

 感染性胃腸炎は単一の疾患を意味するものでなく、多種多様な病原体による胃腸炎を広く包含する症候群である。細菌性疾患として腸チフス/パラチフス、細菌性赤痢、コレラ、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症など、原虫性疾患としてランブル鞭毛虫症、赤痢アメーバ症、クリプトスポリジウム症なども、広義の意味では感染性胃腸炎に入るが、通常それぞれの疾患として分類される。したがって、実際上感染性胃腸炎として分類されるのはカンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、EHEC 以外の下痢原性大腸菌などの細菌、ノーウォーク様ウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスなどのウイルスによるものが中心となる。さらに、1999 月4月施行の感染症法の下で行われている感染症発生動向調査では、感染性胃腸炎が小児科定点把握疾患であることから、冬季におけるノーウォーク様ウイルスとロタウイルスの二つが重要な病原体となっている。

疫 学
 
旧体制下では乳児嘔吐下痢症、感染性胃腸炎として分けてサーベイランスを行っていたが、1999 年4月施行の感染症法の下では、感染性胃腸炎としてのサーベイランスに一本化された。その流行曲線は主にノーウォーク様ウイルスとロタウイルスの流行を反映し、このことは病原体サーベイランスによって裏付けられている。これら2種のウイルスによる感染性胃腸炎が圧倒的多数であるため、その他の病原体の動向を流行曲線から読み取ることは困難である。1999 年4月からの感染症発生動向調査によると、感染性胃腸炎の流行曲線は12月にみられる比較的シャープなピークと、1〜3月にみられるなだらかなピークとからなるが、前者の多くはノーウォーク様ウイルス、後者の多くはロタウイルスによるものと考えられる。
 ノーウォーク様ウイルスの場合にはヒト−ヒト感染によって小児を中心に流行がみられる。また、成人ではカキの生食などによる食品媒介の感染も多く、ノーウォーク様ウイルスを原因とする小規模および中規模集団発生事例においては、生カキ関連事例がその3 〜4 割を占める。しかし、大規模発生事例においては仕出し弁当や学校給食の占める割合が多い(病原微生物検出情報月報Vol.19,No.11 &Vol.20,No.11、IDWR2001 年第8週号参照)。また、食品衛生法の下での食中毒届け出でみると、1998 〜2000 年の3 年間で見た場合、ノーウォーク様ウイルスによる事件数はそれぞれ123(全体の4.2%)、116(4.3%)、238 (10.8%)となっており、患者数はそれぞれ5,213 (12.1%)、5,217(14.8%)、7,772(18.2%)となっている。
 一方、ロタウイルスによる胃腸炎は単発例が多くを占めるが、時に学校などにおける集団発生も見られる。

病原体  
 
さまざまな細菌、ウイルス、原虫などが感染性胃腸炎の起因病原体となりうる。細菌としては腸
炎ビブリオ、下痢原性大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど、ウイルスとしてはノーウォーク様ウイルス(以前に小型球形ウイルスあるいはSRSV と呼ばれていたもの)、ロタウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスなどがみられる。原虫ではクリプトスポリジウム、赤痢アメーバ、ランブル鞭毛虫などがあげられる。
 感染様式は感染者からの糞口感染や、汚染された水・食品を媒介する感染などであるが、ノーウォーク様ウイルスの場合には吐物や飛沫からの感染もありうる。発生形態としては、1)散発性、
2)食中毒あるいは集団発生、3)輸入感染症、4)ペットからの感染、などの種々の形を取る。


臨床症状
 潜伏期間については原因にもよるが、半日〜3日程度のことが多い。しかし、カンピロバクターについては10 日と長いこともある。症状についても、原因となる病原体、感染菌量、宿主の状態により異なるが、悪心、嘔吐、下痢、腹痛などが見られる。ときに発熱もみられ、発熱が先行し、嘔吐、下痢など腹部症状が遅れて出現することもある。下痢に関しては、血便あるいは粘血便はEHEC 、サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、赤痢菌、赤痢アメーバなどでみられ、白色便はロタウイルスでみられる。サルモネラの場合には発熱が目立ち、また、肝臓、胆嚢、虫垂、血管内皮、心臓弁膜、その他の部位の感染を起こすことがある。腸炎ビブリオでは腹部疝痛発作を生ずる。感染性胃腸炎の鑑別診断としては炎症性腸疾患、大腸憩室炎、虚血性大腸炎などが挙げられる。
 検査所見としては、一般に細菌感染症では白血球数、赤沈、CRP などの増加が見られる。


病原診断
 病原診断は本疾患の治療、拡大防止を行う上で重要である。感染の形態、すなわち、1)散発性、2)食中毒あるいは集団発生、3)輸入感染症、4)ペットからの感染、などにより病原体を絞るのが可能なこともある。患者の糞便を用い、細菌培養(細菌)、ウイルス分離(ウイルス)、直接検鏡(カンピロバクター、原虫)、抗原検出(ロタウイルス、アデノウイルス、EHEC のO157抗原、ベロ毒素)、電子顕微鏡検査(ノーウォーク様ウイルス、アデノウイルス、ロタウイルス)、PCR 法(ノーウォーク様ウイルス、エンテロウイルス)などを行う。血清抗体の測定は一義的な重要性はないが、EHEC の場合にはベロ毒素やリポ多糖体(LPS)に対する抗体測定も行われる。

治療・予防
 細菌性の場合には抗菌薬を使用することもあるが、それに関して議論もあり、一般に抗菌薬の応となるのは重症例、粘血便を伴う例、免疫不全状態、小児や高齢者などで体力低下が予想される例、集団感染を予防すべき場合などとされている。抗菌薬の種類としては、カンピロバクターを除けばニューキノロン薬やホスホマイシンなどが用いられることが多く、カンピロバクターではマクロライド薬、ホスホマイシンなどが用いられる。ウイルス性のものでは対症療法が中心となる。
 予防としては、食中毒の一般的な予防法に準じて食品の加熱を徹底する。また、流行期の手洗いを励行し、患者との濃厚な接触を避けることが重要である。ノーウォーク様ウイルスによる場合には、排泄物や汚れ物の処理の際に十分注意する。いずれの病原体においても院内、家庭内、あるいは集団内での二次感染の防止策を考慮することが肝要である。また、汚染された水、食品を原因とするものでは集団食中毒の一部を捉えていることも考慮に入れ、感染の拡大防止や広域集団発生の早期探知につなげる必要がある。
 米国では4価ロタウイルスワクチン(RotaShield, Wyeth Laboratories, Inc., Marietta, Pennsylvenia;RRV-TV)が小児の予防接種として認可されたが、その後、副反応(腸重積)の問題で使用中止となっている。

感染症法における取り扱い
 感染性胃腸炎は4 類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000の小児科定点から毎週報告がなされている。報告の基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2 つの基準を満たすもの。
  1. 急に発症する腹痛(新生児や乳児では不明)、嘔吐、下痢
  2. 他の原因によるものの除外
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの。

学校保健法での取り扱い
 本疾患は、学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされていない。しかし、ウイルス性疾患を念頭においた「流行性嘔吐下痢症」が、学校で流行がおこった場合にその流行を防ぐため、必要があれば、学校長が学校医の意見を聞き、第3 種学校伝染病としての措置を講じることができる疾患に挙げられている。この中で、条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病として扱われている。登校登園については、急性期が過ぎて症状が改善し、全身状態の良いものは登校可能となっており、流行阻止の目的というよりも、患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。もちろん、病原体診断により、腸管出血性大腸菌感染症、腸チフス/パラチフスなどの特異的な診断がなされた場合には、それぞれの疾患の規定に従う。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 

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この記事は2003年11週 にて改訂しました。

 

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この記事は、1999年第34週 掲載を改訂して発行しました。
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