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 2001年第38週(9月17日〜23日)掲載
◆百日咳
百日咳(pertussis, whooping cough)は、特有の咳そう発作を特徴とする急性気道感染症である。母親からの移行抗体が期待できず、乳児期早期から罹患するが、1歳以下の乳児、ことに生後6カ月以下では死に至る危険性も高い。百日咳ワクチンを含むDPT 三種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風)は我が国を含めて世界各国で実施されており、その普及とともに各国で百日咳の発生数は激減している。しかし、ワクチン接種を行っていない人での発病は我が国でもまだ見られており、世界各国ではまだ多くの流行が発生している。ジフテリアと同様、ワクチン接種が滞れば再び流行の可能性がある感染症である。
疫 学
我が国における百日咳患者の届け出数は、ワクチン開始前には10万例以上あり、その約10%が死亡していた。百日咳(P)は1950 年から予防接種法によるワクチンとして定められ、1958 年の改正からはジフテリア(D)と混合のDP 二種混合ワクチンとして使われた。1968(昭和43)年からは、破傷風(T)を含めたDPT 三種混合ワクチンが定期接種として広く行われるようになった。これらのワクチンの普及とともに患者の報告数は減少し、1971年には206 例、1972年には269例で、この時期に世界で最も罹患率の低い国となった。
しかし、1970 年代からDPT ワクチン、ことに百日咳ワクチンによるとされる脳症などの重篤な副反応発生が問題となり、1975 年2 月にDPT ワクチンは一時中止となった。接種開始年齢を引き上げるなどで同年4 月から再開されたが、接種率の低下は著しく、あるいは、DPT でなくDT の接種を行う地区も多く見られた。その結果、1979 年には年間の届け出数が約13,000例、死亡者数が約20 〜30 例に増えた。その後、我が国で百日咳ワクチンの改良研究が急いで進められた。それまでの全菌体ワクチン(whole cell vaccine)から無細胞ワクチン(acellular vaccine)が開発され、1981 年秋から無細胞(精製、とも表現する)百日咳ワクチン(aP)を含むDPT 三種混合ワクチン(DTaPとも表現する)が導入され、その結果、再びDPT の接種率は向上した。
また、この時期の1981 年7月から「百日せき様疾患」として感染症発生動向調査が開始され、旧伝染病予防法での届出数の約20 倍の患者数が報告されるようになった。1982 年には全定点からの報告数が23,675 (一定点当たり12.59 )で、その後は徐々に減少しながら約4年毎に増加するパターンを示し、1997 年には2,708 (同1.12)、1998 年には2,313 (同0.97)に減少した。1999 年4月施行の感染症法の元では「百日咳」として定点把握疾患の扱いであり、全国約3,000の小児科定点からの報告がされているが、2,000 年の1 年間では約3,800例であった。本年2001年に関しては今のところ、例年よりも少ない報告数である。
WHO の発表によれば、世界の百日咳患者数は年間2,000〜4,000万人で、その約90%は発展途上国の小児であり、死亡数は約2 〜3 万例であるとされる。
病原体
グラム陰性桿菌である百日咳菌Bordetella pertussis の感染によるが、一部はパラ百日咳菌Bordetella parapertussis も原因となる。感染経路は、鼻咽頭や気道からの分泌物の飛沫感染である。
百日咳菌は病原因子として毒素と吸着因子を有する。前者には百日咳毒素(PT)、気管上皮細胞毒素、アデニル酸シクラーゼ、易熱性皮膚壊死毒素などがあり、後者には凝集原(線毛)、パータクチン(69kD 外膜蛋白)、線維状赤血球凝集素(FHA)などがある。
臨床症状
カタル期(約2 週間持続):通常7〜10日間程度の潜伏期を経て、普通のカゼ症状で始まり、次第に咳の回数が増えて程度も激しくなる。
痙咳期(約2 〜3 週間持続):次第に特徴ある発作性けいれん性の咳(痙咳)となる。これは短い咳が連続的に起こり、続いて、息を吸う時に笛の音のようなヒューという音が出る(レプリーゼ:Reprise,whoop )。しばしば嘔吐を伴う。発熱はないか、あっても微熱程度である。息を詰めて咳をするため、顔面の静脈圧が上昇し、顔面浮腫、点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもある。非発作時は無症状であるが、何らかの刺激が加わると発作が誘発される。年令が小さいほど症状は非定型的であり、乳児期早期では特徴的な咳がなく、単に息を止めているような無呼吸発作からチアノーゼ、けいれん、呼吸停止と進展することがある。また、機序は不明であるが脳症の合併も重要な問題である。1992〜1994 年の米国での調査によると、致命率は全年齢児で0.2%、6カ月未満児で0.6%とされている。
回復期:激しい発作が次第に減衰し、時折忘れた頃に発作性の咳が出る。全経過約2〜3カ月で回復する。
成人の百日咳では咳が長期にわたって持続するが、典型的な発作性の咳嗽を示すことはなく、やがて回復に向かう。軽症で診断が見のがされやすいが、菌の排出があるため、ワクチン未接種の新生児・乳児に対する感染源として注意が必要である。これらの点から、成人における百日咳の免疫状況に今後注意していく必要がある。
アデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどでも同様の発作性の咳嗽を示すことがあり、鑑別診断上注意が必要である。臨床検査では、小児の場合には白血球数が数万/mm3 に増加することもあり、分画ではリンパ球の異常増多がみられる。しかし、赤沈やCRP は正常範囲か軽度上昇程度である。
病原診断
確定診断のためには、鼻咽頭からの百日咳菌の分離同定が必要である。同定にはBordet‐Gengou 培地やcyclodextrin solid medium (CSM )培地などの特殊培地を要する。血清診断では百日咳菌凝集素価の測定が行われることが多く、東浜株および山口株を用い、ペア血清で4倍以上の抗体価上昇があるか、シングル血清で40倍以上であれば診断価値が高い。また最近では、ELISA法にて抗PT 抗体、抗FHA 抗体の測定も時に行われる。研究室レベルでは、菌の染色体DNA 解析、PCR 法などによる病原体遺伝子の検出も行われる。
治療・予防
エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられる。これらは特にカタル期では有効である。通常、患者からの菌の排出は咳の開始から約3 週間持続するが、エリスロマイシンなどによる適切な治療により、服用開始から5 日後には菌の分離はほぼ陰性となる。菌の再排泄などを考慮すると、抗生剤の投与期間として2 週間は必要であると思われる。痙咳に対しては鎮咳去痰剤、場合により気管支拡張剤等が使われる。全身的には水分補給も必要なことがあり、重症例では抗PT 抗体を期待してガンマグロブリン大量投与も行われる。世界各国がEPI (Expanded Program on Immunization :拡大予防接種事業)ワクチンの一つとして、DPT ワクチンの普及を強力に進めている。
我が国で現在使われている無細胞百日咳ワクチンを含むDPT三種混合ワクチンは、第1期初回として生後3〜90カ月(標準的には生後3〜12カ月)に3回、その12〜18カ月後に追加接種を行い、11〜12歳には、百日咳を除いたDT 二種混合ワクチンにより第2期接種が行われている。
我が国の無細胞百日咳ワクチンの有効成分はPT とFHA が主であるが、その量比率はメーカーにより異なっている。さらに、それら主成分以外に凝集原、パータクチンを含むものもある。接種後の全身および局所の副反応については、従来の全菌体ワクチンに比較して格段に少なくなっている。
感染症法における取り扱い
百日咳は4 類感染症定点把握疾患であり、全国約3,000 の小児科定点より毎週報告がなされている。報告のための基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を全て満たすもの
1. 2 週間以上持続する咳嗽
2. 以下のいずれかの要件のうち少なくとも一つを満たすもの
・スタッカートやレプリーゼを伴う咳嗽発作
・新生児や乳児で、他に明らかな原因がない咳嗽後の嘔吐または無呼吸発作
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
学校保健法での取り扱い
百日咳は学校において予防すべき伝染病第2種に定められており、特有の咳が消失するまで出席停止となる。ただし、医師によりその病状から伝染のおそれがないと認められたときは、この限りではない。
(国立感染症研究所感染症情報センター)
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