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 感染症の話 2001年第35週(8月27日〜9月2日)掲載


◆無菌性髄膜炎

 「無菌性髄膜炎」の用語は、厳密な意味での診断名ではなく、患者由来髄液の検査において通常の塗沫染色標本、および一般細菌培養にて病原体が検出できない場合の臨床診断名として用いられているものであり、したがって、多種多様な病原体が関与している疾患群である。しかしながら臨床的の現場においては、「無菌性髄膜炎」はウイルス性髄膜炎を念頭に置いて語られることが多い。

疫 学
 上述のごとく、無菌性髄膜炎には多種多様な病原体が関与しているので、必ずしも一定の疫学的パターンをとるとは限らない。しかしながら、全体の約85%がエンテロウイルスによるものであるために、基本的な流行パターンはこのウイルス属の状況を反映することが多い。すなわち、初夏から発生が増加し始め、夏から秋にかけて流行が見られる。罹患年齢は幼児及び学童期が中心である。また、抗体保有状況により種々のタイプのエンテロウイルスが周期的に流行することが報告されている。

病原体  
 無菌性髄膜炎の範疇には多種多様の病原体がある。ウイルスが最も多いが、このうちでもエンテロウイルスが全体の約85%を占める。エンテロウイルス属の中でも多くのウイルス種がこの疾患をおこすが、国内ではエコーウイルス(E)とB群コクサッキーウイルス(CB)が多い。過去にE30、E6、E7、あるいはCB5、CB3、CB4などによる流行が報告されている。その他のウイルスとして、エンテロウイルス71、ムンプスウイルスなどがあげられる。本年2001年には流行性耳下腺炎の流行に伴い、ムンプスウイルスの検出が例年より多くなっている。
 肺炎マイコプラズマも無菌性髄膜炎の原因の一つとして重要である。結核、ライム病、回帰熱、ブルセラ症、レプトスピラ症なども疾患の一部として無菌性髄膜炎を発症する。また、細菌性(化膿性)髄膜炎が不完全に治療された場合もこの疾患形態をとることがあり、注意が必要である。
 真菌性髄膜炎や広東住血線虫症などの寄生虫性疾患も、無菌性髄膜炎の形をとることがある。感染経路は病原体により異なるが、エンテロウイルスの場合には、基本的に患者、あるいは無症状病原体保有者からの糞口感染、飛沫感染による。


臨床症状
 
起因病原体によって異なるが、エンテロウイルスによるものを代表としてあげる。潜伏期は通常4〜6日で、発熱と頭痛、悪心・嘔吐などで発症する。また、項部硬直やKernig徴候などの髄膜刺激症状を呈することがある。発熱は38〜40度で症例により様々であるが、5日間程度持続し、時に非特異的な急性熱性疾患が先行する二相性となる。頭痛は前頭部痛、後眼窩痛であることが多く、また羞明を見ることもある。また、腹痛、下痢もよくみられる症状である。咽頭炎症状も同時に見られることがあり、また、原因となるウイルス種によっては発疹もみられることがある。乳幼児の場合には、発熱、不機嫌、易刺激性、嗜眠がよくみられ、だっこされるのを嫌うことも経験される。
 検査所見では、髄液で細胞数増多がみられる。範囲は通常数十〜数千/mm3と広いが、概ね100〜500程度が多い。病初期は好中球が優位なことが多いが、その後リンパ球優位に逆転する。蛋白は軽度に上昇することが多いが、糖は通常正常範囲内である。髄液の塗沫染色標本で微生物は認められず、一般細菌培養でも検出されない。


病原診断
 本疾患の診断は、基本的には病原体診断を行うことである。
髄液の塗沫検査、細菌培養を適切かつ十分に行うことで、一般的な細菌性の原因を除外することが最も重要である。また、随伴症状、臨床所見、野外活動歴、ダニ咬傷歴などに関して注意深く病歴を聴取し、一般的な細菌やウイルス以外の病原体、例えばスピロヘータ、結核菌、真菌、寄生虫などの可能性についても疑い、そのための髄液検査を十分行うことが鑑別の糸口になる。
少しでも疑いがあれば、反復して髄液検査を行うことが重要である。
ウイルス性の場合には、髄液からウイルスを分離すれば確定診断となる。咽頭ぬぐい液や便などからウイルスが分離された場合には、そのウイルスに対する中和抗体の上昇を確認することが確定診断につながる。

治療・予防
 診断は付かなくても絶えず細菌感染症の可能性を念頭に置く必要があり、通常入院治療が必要である。ウイルス以外であると確定された場合には、病原体特異的な治療が行われる必要がある。対症療法としては、脱水のために輸液療法が必要になることが多い。
予防としては、エンテロウイルスによるものでは、特に流行期にはうがい、手洗い、患者との濃厚な接触をさける、などが重要である。

感染症法における取り扱い
 無菌性髄膜炎は4類感染症定点把握疾患であり、全国約500の基幹定点から報告が毎週なされている。報告の基準は以下の通りである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下の2つの基準をすべて満たすもの
(1)以下の臨床症状を呈するもの
 ・発熱、頭痛、嘔吐を主な特徴とする
 ・項部硬直。Kernig徴候、Brudzinski徴候などの髄膜刺激症状
 (いずれも新生児や乳児などでは臨床症状が明らかではないことが多い)
(2)以下の検査所見を有すること
 ・髄液細胞数の増加(単核球優位であることが多い)かつ、髄液蛋白量、糖量が正常であるもの
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と診断されたもの
 尚、備考として、原因となる病原体が病原体診断や血清学的診断によって判明した場合には、病原体の名称についても併せて報告することとなっている。

学校保健法における取り扱い
 本疾患は、学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされていない。本疾患は急性期には入院を含む加療が必要となることが多く、登校開始の時期については、患者本人の状態によって判断すべきであると考えられる。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 

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この記事は、2003年第12週にて改訂しました。

 

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この記事は、1999年第27週掲載を改訂して発行いたしました。

 

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