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 感染症の話 2001年第31週(7月30日〜8月5日)掲載


◆伝染性紅斑

 伝染性紅斑(erythema infectiosum)は第5病(the fifth disease)ともよばれ、頬に出現する蝶翼状の紅斑を特徴とし、小児に多くみられる流行性発疹性疾患である。両頬がリンゴのように赤くなることから、「リンゴ(ほっぺ)病」と呼ばれることもある。本症の病因は長く不明であったが、ヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:以下B19)であることが明らかにされた。病因が明らかになるのに伴って、本症の周辺には多くの非定型例や不顕性感染例があること、多彩な臨床像があることなども明らかになった。

疫 学
 感染症発生動向調査によると、ほぼ5年ごとの流行周期で発生数の増加がみられ、2001年は過去10年間と比較すると1992年に次ぐ大きな発生となっている。年によって若干のパターンの違いはあるものの、年始から7月上旬頃にかけて症例数が増加し、9月頃症例が最も少なくなる季節性を示す。流行が小さい年には、はっきりした季節性がみられないこともある。患者の年齢分布は5〜9歳での発生がもっとも多く、ついで1〜4歳が多い。成人における発生状況は、感染症発生動向調査の対象外であるため詳細は不明であるが、臨床の場ではしばしば成人例に出会うことはあり、看護学生・看護婦などの病院内感染による成人集団発生事例も報告されている(病原微生物検出情報、Vol.12 No.7,1991、Vol.18 No.12,1997参照)。

病原体  
 原因ウイルスは単鎖DNAウイルスであり、パルボウイルス科パルボウイルス亜科エリスロウイルス属に属するヒトパルボウイルスB19である。ウイルスのレセプターは赤血球膜表面にあるP抗原であり、P抗原保有細胞、とくに赤芽球前駆細胞に感染し、増殖する。


臨床症状
 
10〜20日の潜伏期間の後、頬に境界の鮮明な紅い発疹(蝶翼状−リンゴの頬)が現れ(写真1)、続いて手・足に網目状・レ−ス状・環状などと表現される発疹がみられる(写真2)。胸腹背部にもこの発疹が出現することがある。これらの発疹は1週間前後で消失するが、中には長引いたり、一度消えた発疹が短期間のうちに再び出現することがある。成人では関節痛・頭痛などを訴え、関節炎症状により1〜2日歩行困難になることがあるが、ほとんどは合併症をおこすことなく自然に回復する。なお、頬に発疹が出現する7〜10日くらい前に、微熱やかぜ様の症状などの前駆症状が見られることが多いが、この時期にウイルス血症をおこしており、ウイルスの排泄量ももっとも多くなる。発疹が現れたときにはウイルス血症は終息しており、ウイルスの排泄はほとんどなく、感染力はほぼ消失している。
 伝染性紅斑は当初異型の風疹として発表され、その後独立疾患であることが確立された。これまでも伝染性紅斑と風疹の流行時期は重なることが少なくなく、典型的な伝染性紅斑では臨床診断を誤ることはないが、非典型例では風疹との鑑別が困難である。英国において行われた血清調査では、風疹と診断された患者の半数がB19感染であったことが述べられている。成人では典型的な発疹を伴う頻度が低く、風疹と診断されている例が小児より多いと推察される。

写真1.両側の頬に出現した蝶翼状の発疹
写真2. 上肢伸側に出現した発疹

・B19感染像の拡がり−伝染性紅斑のみではないB19感染症
 伝染性紅斑とは典型的なB19感染症の臨床像であるが、B19感染症の臨床像は単に伝染性紅斑にとどまらない。溶血性貧血患者がB19感染を受けると重症の貧血発作(aplastic crisis)を生ずることがあり、その他にも関節炎・関節リウマチ、血小板減少症、顆粒球減少症、血球貪食症候群(VAHS/HPS)、免疫異常者における持続感染などの存在も知られるようになってきた。
・胎児感染−胎児水腫(IASR Vol.19 No.3, 1998参照)
 B19感染症で注意すべきものの一つとして、妊婦感染による胎児の異常(胎児水腫)および流産がある。妊娠前半期の感染の方がより危険であり、胎児死亡は感染から4〜6週後に生ずることが報告されているが、妊娠後半期でも胎児感染は生ずるとの報告もあり、安全な時期について特定することはできない。しかし一方では、妊婦のB19感染が即胎児の異常に結びつくものではなく、伝染性紅斑を発症した妊婦から出生し、B19感染が確認された新生児でも、妊娠分娩の経過が正常で、出生後の発育も正常であることが多い。さらに、生存児での先天異常は知られていない。したがって妊婦の風疹感染ほどの危険性は少ないが、超音波断層検査等で胎児の状態をよく把握することが必要である。
・血漿分画製剤とB19感染リスク
 厚生省薬務局発医薬品副作用情報No.141によると、今般、各種血漿分画製剤中にB19DNAがPCR法で検出されたとする文献が企業より報告された。B19は他のウイルスに比べて加熱やフィルタ−などによる不活化・除去が容易でないため、製剤中への混入の可能性を否定し得ないこと、また、本ウイルス感染症が一般的には予後良好であるものの、一部の患者に感染した場合には重篤な症状を招くことがあるとされているため、血漿分画製剤の使用上の注意事項を変更し、ことに妊婦、溶血性・失血性患者、免疫不全患者、免疫抑制状態の患者に対する使用にあたって注意を喚起している。なお免疫グロブリン製剤については、製剤中の抗体によって感染性が失われている可能性も考えられるが、そのことを示す十分な根拠がないため、他の製剤と同様に使用上の注意事項を変更している。

病原診断
 ウイルスを分離することが病原診断の基本であるが、B19のウイルス分離培養は困難である。
PCR法による遺伝子の検出も可能であるが、B19を対象にする場合、健康保険による診療での制約がある。したがって、殆どの場合血清学的診断を行うが、ペア血清について酵素抗体法(ELISA)により特異的IgG抗体の上昇を確認するか、あるいは、急性期に特異的IgM抗体を検出することで診断する。

治療・予防
 特異的な治療法はなく、対症療法のみである。免疫不全者における持続感染、溶血性貧血患者などではγ-グロブリン製剤の投与が有効なことがある。
 前述したとおり、紅斑の時期にはほとんど感染力がないので、2次感染予防の必要はない。また、ウイルス排泄期には特徴的な症状を示さないので、実際的な2次感染予防策はない。現在のところワクチンはない。妊婦などは、流行時期にはカゼ様患者に近づくことを避け、万一感染した場合には、胎児の状態を注意深くフォローする。

感染症法における取り扱い
 伝染性紅斑は4類感染症定点把握疾患であり、その報告は全国約3,000カ所の小児科定点より週毎に届けられる。報告のための基準は以下の通りである。
◯診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の2つの基準を満たすもの。
 1. 左右の頬部の紅斑の出現
 2. 四肢の網目状の紅斑の出現
◯上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清学的診断によって当該疾患と判断されたもの。

学校保健法における取り扱い
 伝染性紅斑は学校において予防すべき伝染病の中には明確に規定はされておらず、一律に「学校長の判断によって出席停止の扱いをするもの」とはならない。したがって、欠席者が多くなり授業などに支障をきたしそうな場合、流行の大きさあるいは合併症の発生などから保護者の間で不安が多い場合など、「学校長が学校医と相談をして第3種学校伝染病としての扱いをすることがあり得る病気」と解釈される。通常の学校などでの対応のめやすとしては、発疹が現れたときには感染力はほとんどなくなっているので、発疹のみで全身状態の良いものについては登校が可能であると考えられる。ただし急性期には、症状の変化に注意をしておく必要がある。


(国立感染症研究所感染症情報センター)

 

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この記事は、1999年第21週掲載を改訂して発行しました。

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