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2001年第28週(7月9日〜7月15日)掲載
◆麻 疹
麻疹は、多くの途上国では現在の小児の罹患と死亡を減らすため、すでに罹患数を減少させてきた国々では患者数をゼロあるいはゼロに近づけるため、その対策が強力に進められている。WHO では麻疹をポリオに次ぐ根絶の目標にすべきかどうかということについて、議論が重ねられている。
世界の多くの国が麻疹対策に積極的に取り組んでいる中、年間10万人規模の患者数の発生が推計される我が国の状況は、麻疹に関しては後進国であると言わざるを得ない。麻疹潜伏期間中に日本を離れた日本人海外旅行者が現地で発症し、周辺に大きな迷惑を及ぼした事例も 毎年のように報告され、日本は麻疹の輸出国であるとの不名誉な指摘も受けている。
疫 学
基本的に飛沫を介する人から人への感染で、さらに、飛沫核感染(空気感染)も重要な感染経路である。本邦では通常春から夏にかけて流行する。感染性は非常に高く、感受性のある人(免疫抗体を持たない人)が暴露を受けると90%以上が感染する。過去1984年に大きな全国流行があり、1991 年にも流行があったがやや小さく、その後大きな全国流行はなかった。しかし、毎年地域的な流行が反復している。感染症発生動向調査では、国内約3,000の小児科定点から年間11,000〜22,000例の報告があり、実際にはこの10 倍以上の患者が発生していると考えられる。この中で2歳以下の罹患が60%以上を占めており、罹患者の95%以上が予防接種未接種である。
2001年は当初より高知県、奈良県、九州地方などで流行がみられ、3月に入って北海道でも患者数が急増し、過去5 年間と比較して定点当たり報告数がかなり多い状態が続いている。2001年第1週から第24週までの累積患者数は24,615 (昨年同期12,885 )、性別内訳は男13,350 、女11,265とやや男性に多い。累積報告数の年齢階級別では、1歳未満3,389 (うち6 カ月未満319 )、1歳5,512 、2歳2,502 、3歳1,799 、4歳1,542 、5〜9 歳5,522、10 〜19 歳3,873 、20 歳以上476 となっている。
また、平成11 年度から、全国約500 の基幹病院定点より成人麻疹(18歳以上)の患者発生が報告されているが、2001 年は過去3 年間で最も多い報告数となっている。これらの症例の多くは、入院を要するような比較的重症例であると考えられる。2001年第1週から第24週までの成人麻疹累積報告数は549(昨年同期215)であり、年齢階級別で多いのは、20〜24 歳(200)、20歳未満(142)、25 〜29 歳(129)などである。発症予防には麻疹ワクチンが有効だが、国内での麻疹ワクチン接種率は80%程度にとどまっているという報告もある(予防接種の効果的実施と副反応に関する総合的研究・分担研究者磯村思无)。
病原体
原因ウイルスである麻疹ウイルスはParamyxovirus 科Morbillivirus 属に属し、直径100〜250nmのエンベロープを有する一本鎖RNA ウイルスである。リンパ節、脾臓、胸腺など全身のリンパ組織を中心に増殖する。
エンベロープ蛋白のうち、F(fusion)蛋白とH(hemagglutinin)蛋白がその病原性に大きくかかわっているが、F 蛋白はウイルスと宿主細胞の膜融合を引き起こし、宿主細胞へのウイルスの侵入を可能にすることが知られている。1980 年代の流行から始まったH 遺伝子の変異は、1990 年代になってF 遺伝子に及んでいる。H蛋白、F蛋白は感染防御抗体を作らせる蛋白なので、これらの部位での変異を注視する必要がある。幸い現在までのところ、現行ワクチンによる感染防御効果には変化は見られない。ウイルスは熱、紫外線、酸(pH<5)、アルカリ(pH >10)、エーテル、クロロホルムによって速やかに不活化される。空気中や物体表面では生存時間は短い(2 時間以下)。
臨床症状
<前駆期(カタル期)>
感染後に潜伏期10 〜12 日を経て発症する。38 ℃前後の発熱が2 〜4日間続き、倦怠感があり、不機嫌となり、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、くしゃみ)と結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が現れ、次第に増強する。
乳幼児では消化器症状として下痢、腹痛を伴うことが多い。発疹出現の1 〜2 日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm 径の白色小斑点(コプリック斑)(写真1)が出現する。コプリック斑は診断的価値があるが、発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失する。また、口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともある。
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写真1. 口腔内にみられるコプリック斑
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写真2. 顔面にみられる発疹
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<発疹期>
カタル期での発熱が1 ℃程度下降した後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39.5℃以上)が出るとともに(2峰性発熱)、特有の発疹(写真2)が耳後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2日後には四肢末端にまでおよぶ。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5 ℃以上)が3 〜4日間続く。発疹ははじめ鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し、融合して不整形斑状(斑丘疹)となる。指圧によって退色し、一部には健常皮膚を残す。発疹は次いで暗赤色となり、出現順序に従って退色する。発疹期にはカタル症状は一層強くなり、特有の麻疹様顔貌を呈する。
<回復期>
発疹出現後3 〜4日間続いた発熱も回復期に入ると解熱し、全身状態、活力が改善してくる。発疹は退色し、色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑がある。カタル症状も次第に軽快する。合併症のないかぎり7 〜10日後には回復する。患者の気道からのウイルス分離は、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、第5 〜6発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されない。この間に感染力をもつことになるが、カタル期が最も強い。
<合併症>
(1)肺炎:麻疹の二大死因は肺炎と脳炎であり、注意を要する。
[ウイルス性肺炎]病初期に認められ、胸部X線上、両肺野の過膨張、瀰漫性の浸潤影が認められる。また、片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もある。
[細菌性肺炎]発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきである。抗生剤により治療する。原因菌としては、一般的な呼吸器感染症起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、化膿レンサ球菌、黄色ブドウ球菌などが多い。
[巨細胞性肺炎]成人の一部、あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎である。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多い。発疹は出現しないことが多い。本症では麻疹抗体は産生されず、長期間にわたってウイルスが排泄される。発症は急性または亜急性である。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられる。
(2)中耳炎:麻疹患者の約5 〜15%にみられる最も多い合併症の一つである。細菌の二次感染により生じる。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり、注意が必要である。乳様突起炎を合併することがある。
(3)クループ症候群:喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多い。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による。吸気性呼吸困難が強い場合には、気管内挿管による呼吸管理を要する。
(4)心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがある。麻疹の経過中半数以上に、一過性の非特異的な心電図異常が見られるとされるが、重大な結果になることは稀である。
(5)中枢神経系合併症:1,000 例に0.5 〜1 例の割合で脳炎を合併する。発疹出現後2 〜6 日頃に発症することが多い。髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加する。麻疹の重症度と脳炎発症には相関はない。患者の約60%は完全に回復するが、20 〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、死亡率は約15%である。
(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE):麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患である。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクローヌスなどの錐体・錐体外路症状を示す。発症から平均6 〜9カ月で死の転帰をとる、進行性の予後不良疾患である。発生頻度は、麻疹罹患者10万例に1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人である。
病原診断
ウイルスを分離することは本疾患の確定診断につながるが、通常は臨床診断が容易なため、あまり行われない。しかし、近年の流行ウイルス株を調べたり、ウイルスのH 抗原の変異などを検索する分子疫学的な調査には重要である。通常、咽頭拭い液、血液などから分離されるが、カタル期から発疹出現後3 日以内が分離率が高い。B95a 細胞を用いた場合、咽頭拭い液および血液から、早ければ24 時間以内に分離される。
また急性期の麻疹IgM 抗体の検出、急性期と回復期のペア血清での麻疹IgG 抗体の有意上昇をもって診断可能である。抗体測定方法には、赤血球凝集抑制法(hemagglutination Inhibition :HI 法)、中和法、ゼラチン粒子凝集法(particle agglutination :PA 法)、ELISA 法などが用いられている。
治療・予防
特異的治療法はなく、対症療法が中心となるが、中耳炎、肺炎など細菌性の合併症を起こした場合には、抗生剤の投与が必要となる。それ故に、ワクチンによる予防が最も重要である。
母体由来の麻疹特異IgG 抗体があると、接種した麻疹ワクチンの増殖が十分でないため、母体由来の抗体がほぼ消失したと考えられる生後1 歳以降の児に接種を行う国が多い。我が国における現行の予防接種法では、生後12カ月から90カ月までを接種年齢としており、標準的な実施時期を満1〜2歳の間として1回接種としている。麻疹ワクチン接種は、疾患に罹患した場合の重症度、感染力の強さから考え、接種年齢に達した後なるべく速やかに接種することが望ましい。例えば、誕生日との関係でポリオの集団接種の時期と重複した場合は、麻疹ワクチンを優先するのが望ましいと考えられる。生後6カ月以降は母親由来の免疫が減弱するため、麻疹流行期や保育園などで集団生活をしている場合は、1歳以前にワクチンを接種することが勧められる。ただし、この場合の接種は定期接種ではなく、任意接種として有料で実施することになる。いずれにしても、1歳前に接種を受けた場合は、1歳以降に再接種(この場合は定期接種として実施)をする必要がある。その理由は、乳児期後期まで母親からの移行抗体が持続している場合があり、その場合はワクチンウイルスが母親の免疫で中和されてしまうため、十分な抗体が産生されない可能性があるためである。また、γグロブリンを投与された後は、6カ月未満の乳児と同様の理由で効果が得られないため、3カ月間は接種を行わない。川崎病などの治療で大量療法を受けた場合には、6カ月間あける必要がある。
ワクチンによる免疫獲得率は95%以上と報告されており、有効性は明らかである。接種後の反応としては発熱が約20 〜30%、発疹は約10%に認められる。いずれも軽症であり、ほとんどは自然に消失する。熱性けいれん既往者に対しては、発熱性疾患罹患時と同様の方法で抗けいれん剤(例:ジアゼパム坐剤)による予防が可能である。ワクチンアレルギーの原因となったゼラチンに関しては、ゼラチン・フリーや低アレルゲン性ゼラチンを採用するなど改善された。ごく稀に(100〜150万接種に1例程度)脳炎を伴うことが報告されているが、麻疹に罹患したときの脳炎の発症率に比べると遙かに低い。
感染症法における取り扱い
麻疹は4類感染症定点報告疾患であり、その報告は全国約3,000カ所の小児科定点より毎週なされる。報告のための基準は以下の通りである。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3 つの基準をすべて満たすもの。
1. 全身の発疹(回復期には色素沈着を伴う)
2. 38 ℃以上の発熱
3. 咳嗽、鼻汁、結膜充血などのカタル症状
○なお、コプリック斑の出現は診断のための有力な所見となる
○上記の基準は必ずしも満たさないが、診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、病原体診断や血清診断によって当該疾患と診断されたもの。
学校保健法における取り扱い
麻疹は第二種の伝染病に属し、登校基準としては、「発疹に伴う発熱が解熱した後3日を経過するまで出席停止とする」と述べられている。
(国立感染症研究所感染症情報センター)
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