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 感染症の話 

2001年第19週(5月7日〜5月13日)掲載

◆E型肝炎 

 E型肝炎は、従来、経口伝播型非A非B型肝炎とよばれてきたウイルス性の急性肝炎で、E型肝炎ウイルス(HEV)が病原体である。主に発展途上国で散発的に発生している疾患であるが、ときに飲料水などを介し大規模に流行することもある。E型肝炎の死亡率はA型肝炎の10倍といわれ、妊婦では実に20%に達することもある。また日本、ヨーロッパ諸国、北米大陸において非A非B肝炎といえばC型肝炎を意味するが、発展途上国では事情が異なり、大部分はE型肝炎であるといわれる。わが国でも近年輸入感染症として発生がみられている。

疫 学
 HEVはアジアにおける流行性肝炎の重要な病因ウイルスである。中央アジアでは、E型肝炎はA型肝炎と同じく秋にピークに達するが、東南アジアでは雨期に、特に広い範囲の洪水の後に発生する。伝播は糞口経路により、主に水系感染である。1955年ニューデリーで共通感染源による流行が発生し、これは飲用上水の糞便汚染が原因であった。この流行では、黄疸性肝炎と診断された症例だけでも29,000人に及んだ。これに似た水系感染流行がインド、中央アジア、中国、 北アフリカ、メキシコなどでも報告されている。

病原体

 HEVは直径27nmのエンベロープを持たない小型球形ウイルスで、内部に約7.2Kbのプラス一本鎖RNAをゲノムとして持っている。形態学的にはノーウォークウイルスに類似し、かつてカリシウイルス科に分類されていた。しかし、ウイルス遺伝子上のウイルス蛋白の配置、特に非構造蛋白の機能ドメインの配置がカリシウイルスのそれらとは全く異なることが明らかになり、1999年の国際ウイルス命名委員会では未分類のウイルスとされている。

図1. HEV粒子の電子顕微鏡像:直径は約30nmである。この図では抗体によってウイルス粒子が凝集しているようにみえる。(日本大学医学部内田俊和氏提供)

HEVが効率よく増殖する培養細胞系は 確立されておらず、その複製機構はあきらかではない。チンパンジー、タマリン、ミド リザルのほか、アカゲザル、カニクイザル などMacaca属のサルが感受性を示す。こ れら感染サルの胆汁中には多量のウイル スが排泄され、研究の出発材料として有 用である。精製ウイルスの塩化セシウム平 衡密度勾配遠心法での比重は1.35g/cm3、 蔗糖密度勾配遠心法での沈降定数は176s 〜183sである。(図1に感染サルの胆汁中にみられたウイルス粒子を示した。)

臨床症状

 他の肝炎ウイルス同様、HEVにとって肝臓が唯一のターゲット器官である。E型肝炎の臨床症状はA型肝炎と似ている(図2)。潜伏期間は15〜50日、平均6週間で、これは平均4週間といわれるHAV感染の潜伏期に比べ、幾分長い。

図2. E型肝炎の臨床経過

ボランティアに糞便材料を経口投与した実験では、投与後約5週間で発症が見られている。その後悪心、食欲不振、腹痛等の消化器症状を伴う急性肝炎を呈する。症状としては、褐色尿を伴った強い黄疸が急激に出現し、これが12〜15日続いた後、通常発症から1カ月を経て完治する。黄疸に先立ってウイルス血症が出現し、ウイルスは便へも排泄される。
 A型肝炎と同様、E型肝炎は慢性化しないが、稀にIgM抗体が長時間持続したり、便中への排泄を伴って長期間ウイルス血症状態が続く例も見られる。E型肝炎の特徴の一つは、妊婦で劇症肝炎の割合が高く、死亡率が20%にも達する事があることである。母子感染に関してはっきり分かっていないが、治癒した妊婦の胎児発育には影響がないとする報告がある。HEV感染による死亡率は1〜2%であるが、これもHAVに比べ10倍の高さである。E型肝炎の罹患率は、大流行でも散発例でも青年と大人(15〜40歳)で高い。小児における不顕性感染はA型肝炎と比べて低く、対照的である。E型肝炎での肝臓の病理所見は、急性期の組織学的病変を示す。胆汁うっ滞性の肝炎像は一つの特徴である。

病原診断

 E型肝炎ウイルス粒子は発症前後の患者や感染サルの糞便に一次的に出現するが、量が少なく、すぐに消失する。従って、抗原検出は診断の目的には不適当である。それに対して、肝炎を発症した時点でHEVに対する特異的な血中IgM抗体が大量に誘導されるので、診断にはこのIgM抗体の検出が迅速、かつ最も確実である。問題はいかにして抗原を得るかである。これまでネイティブなウイルスと近い抗原性と免疫原性をもち、かつ、大量産生できて簡単に精製できる構造蛋白の発現が強く求められてきた。しかしながら、今までそれに成功した研究例はなかった。

図3. HEVのウイルス様中空粒子(VLP):組換えバキュロウイルスでウイルス構造蛋白(ORF2)を発現することによって、VLPを無限に産生することができる。直径は約24nmである。

 最近、筆者らはHEV感染サルの胆汁からRNAを抽出し、RT-PCR法で構造蛋白領域を増幅してORF2全領域を増幅後、ORF2のN末端から111アミノ酸を欠失させたフラグメントを組換えバキュロウイルスで発現することによって、平均密度1.285g/cm3、直径約23〜24nmの中空粒子を大量に得ることに成功した(図3)。この粒子を用いたEIAによって、急性期の患者血清と感染サルの血清からHEVに特異的なIgMとIgG抗体を、回復期の患者血清と感染サルの血清からIgG抗体を検出することができた。したがって、この中空粒子はネイティブな粒子に近い抗原性を持つ粒子であると考えられた。また、この粒子を免疫原として作製した高力価血清を用いて、患者糞便からHEV抗原を特異的に検出するEIAも開発することができ、中空粒子がネイティブな粒子に近い免疫原性を持つ粒子であることも明らかになった。したがって、特異性と感度を兼ね備えた検出系が構築できたと考えている。海外ではAbott社、Gene Lab社などから診断薬が販売されているが、わが国へは輸入されていない。我々のEIAは市販されていないが、血清診断は行政検査として下記で受け付けている。
 〒208−0011
 東京都武蔵村山市学園4-7-1
 国立感染症研究所ウイルス第二部第一室
 担当者 武田 直和
 電話:042−561−0771(内線357)
 FAX: 042−565−3315
 Mail:ntakeda@nih.go.jp

治療・予防
 治療としては、他の急性肝炎と同様に対症療法のみである。劇症肝炎に対しては、血漿交換などによる治療が必要となる。一般的な予防としてはA型肝炎と同様に、汚染地域と考えられる地域に旅行する場合に、飲料水、食物に注意し、基本的には加熱したもののみを摂取するように心がける。ワクチンはまだ開発されていない。

発生動向調査について
 急性ウイルス性肝炎は4類感染症全数把握疾患であり、診断した医師は7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準については、感染症週報1999年第49週:通巻第1巻第36号、感染症の話「急性肝炎」を参照のこと。


(国立感染症研究所ウイルス第二部 武田直和)

 

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Updated Info

この記事は 2004年第13週 にて改訂しました。