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 感染症の話 2001年第11週(3月12日〜3月18日)掲載


◆エルシニア感染症

 エルシニア感染症はYersinia 属菌を原因菌とする感染症の総称であるが、一般的に1類感染症に分類されているYersinia pestis を原因菌とするペストを除いたYersinia enterocoliticaYersinia pseudotuberculosis による感染症を示している。ペストとの大きな違いはこの2菌種が経口的に感染して腸炎症状を主徴とすることである。
 Y. enterocolitica 感染は1939年に米国で初めて報告された。わが国では1971年に下痢症、虫垂炎など胃腸炎症状のある患者から初めて本菌が検出され、続いて食中毒様の集団発生が相次いで報告された。そして1982年に、本菌は食中毒の起因菌として指定された。
 一方、Y. pseudotuberculosis はエルシニア属菌の中では最も早く検出され、1883年にまで遡る。わが国では1913年に敗血症による死亡例が報告されている。その後本菌が泉熱の原因菌であることが確認され、さらに川崎病との関連も指摘されている。
 これら2菌種はブタ、イヌ、ネコなどの動物の腸管内容物からも多く分離されることから、食中毒菌としてのみならず、動物からヒトへ直接、あるいは糞便に汚染された食品を摂取して感染する人獣共通感染症として位置付けられている。

疫 学
 Y. enterocolitica による感染症は、1972年に散発下痢症患者から初めて本菌が分離されてから現在までに13例の集団食中毒の発生が確認されている(表1)。起因菌のほとんどが血清型O3、生物型4であることがわが国における特徴である。しかし、1980 年代を境に散発事例から分離される血清型O3菌の生物型は3に移行している。また、1987年以降青森県を中心に、病原性が強いとされる血清型O8 、生物型1 の菌株による散発事例も報告されている。
 一方、Y. pseudotuberculosis による感染は、わが国では1973年に虫垂炎患者から証明された。そして1977 年に初めての集団発生が確認されてから、15例の集団感染が報告されている(表2)。原因菌の血清型は多岐にわたっているが、血清型4b と5a 菌による事例が多いのがわが国における特徴である。また、散発例では血清型1a 菌以外のすべての血清型菌による感染が報告されている。

表1. わが国におけるY. enterocolitica 食中毒事例
 
発生年月
発生場所
患者数
推定原因食
血液型
1 1972. 1 静岡県,小学校
188
不明(給食)
O3/4
2 1972. 7 静岡県,小学校
544
不明(給食) O3/4
3 1972. 7 栃木県,中学校
198
不明(給食) O3/4
4 1974. 4 京都府,小学校
296
不明(給食) O3/4
5 1975. 6 宮城県,小学校
145
不明(給食) O3/4
6 1978.10 宮城県,小学校
264
不明(給食) O3/4
7 1979. 1 宮城県,養護施設
6
不明(給食) O3/4
8 1979.11 広島県,小学校
184
不明(給食) O3/4
9 1980. 4 沖縄県,小中学校
1,051
不明(給食) O3/4
10 1981. 5 岡山県,小中学校
641
加工乳 O3/4
11 1984. 6 島根県,小学校
102
不明(給食 O3/4
12 1988.12 三重県,社員寮
23
不明(寮の食事) O5, 27/2
13 1989. 9 三重県,会社
19
不明(会議の弁当) O5, 27/2

表2. わが国におけるY. pseudotuberculosis 集団発生例
 
発生年月
発生場所
患者数
推定原因食
血液型
1 1977.4 広島県,中学校
57
不明
5b
2 1977. 10 岐阜県,幼稚園
82
水?
1b
3 1981. 2 岡山県,小学校
535
野菜ジュース
5a
4 1982. 2 岡山県,市街地住民
260
サンドイッチ
4b
5 1982.12 岡山県,山間部住民
67
5b
6 1984. 7 三重県,中学校
35
焼肉
5a
7 1984. 7 三重県,家族
4
焼肉
5a
8 1984.11 和歌山県,小学校,保育園
63
不明
3
9 1984.11 岡山県,山間部住民
11
4b
10 1985. 4 島根県,小学校,幼稚園
8
不明
4b
11 1985. 4 新潟県,小学校
60
不明
4b
12 1986. 3 千葉県,小学校
651
給食
4b
13 1987. 5 広島県,家族
5
3
14 1988. 5 長野県,小中学校
31
3
15 1991. 6 青森県,小中学校
732
不明(給食)
5a

病原体

 Yersinia 属菌はグラム陰性の桿菌で腸内細菌科に属しており、冷蔵庫内温度である4 ℃でも発育できるが、その点でサルモネラや大腸菌などの他の腸内細菌科に属する菌とは異なる。菌体は小さく、その形態は桿状あるいは球状で(写真1)、培地上では比較的小さな集落を形成する。Yersinia 属菌の生化学性状の多くは培養温度に依存し、通常25〜30℃で実施される。

写真1.Y.enterocolitica の顕微鏡写真

Yersinia 属には現在11菌種が分類されているが、ヒトに病原性を示すのはY. enterocoliticaY. pseudotuberculosis およびY. pestis である。Y. enterocolitica は生物型と血清型で分類され、ヒトに病原性を示すのは特定の組み合わせに限られている。Y. pseudotuberculosis は現在までに8 つの血清型に分類されているが、ヒトの感染症と明確に関連づけられている菌型は1a 、1b 、2a 、2b 、2c 、3 、4b 、5a と5b である。
 これら3菌種の病原性発現は約70kbのプラスミドに支配されており、37 ℃培養でプラスミド依存性の様々なタンパクを発現する。

エルシニア感染症の感染様式(感染サイクル)

 野生動物における感染あるいは発症は、健康保菌獣の糞便とともに排出された菌が感染源となり、汚染された飼料を感受性動物が摂取した場合に感染、発症が自然に繰り返されると考えられている。ヒトの感染様式も動物と同じであり、保菌獣から直接に、あるいは飲食物を介して経口的に感染すると考えられている。これまでの動物における保菌実態から、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミが最も重要である。このように、Yersinia 属菌の生態学的研究から得られた知見から、ヒトへの伝播は図1に示した感染サイクルが考えられる。

図1.エルシニアの感染サイクル(破線は稀な例)

臨床症状
 Y. enterocolitica 感染の臨床症状は多岐にわたり、下痢や腹痛をともなう発熱疾患から敗血症まで多彩である。患者の年齢とこれら病像とはある程度相関がみられ、乳幼児では下痢症が主体であり、幼少児では回腸末端炎、虫垂炎、腸間膜リンパ節炎が多くなり、さらに年齢が高くなるにしたがって関節炎などが加わって、より複雑な様相を呈する傾向がみられる。発熱の割合は高いが高熱者は少ない。症状の中で最も多いのが腹痛である。特に右下腹部痛と嘔気・嘔吐から虫垂炎症状を呈する割合が高く、虫垂炎、終末回腸炎、腸間膜リンパ節炎などと診断される場合もある。腸管感染であるにもかかわらず頭痛、咳、咽頭痛などのかぜ様症状を伴う割合が比較的高く、また、発疹、紅斑、莓舌などの症状を示すこともある。
 Y. pseudotuberculosis による感染もまた乳幼児に多くみられ、発熱は殆ど必発であり、比較的軽度の下痢と腹痛、嘔吐などの腹部症状がこれに次ぐ。発疹、紅斑、咽頭炎もしばしば観察される。さらに、頭痛、口唇の潮紅、莓舌、四肢指端の落屑、結膜充血、頚部リンパ節の腫大、肝機能異常、肝・脾の腫大、少数例には心冠動脈の拡張性変化のほか、二次的自己免疫的症状として関節痛、腎不全、肺炎、および結節性紅斑が見られることもある。

病原診断
 エルシニア感染症の確定診断にはY. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis の糞便からの検出が必要である。分離培養には直接分離と増菌分離とがあるが、下痢便には多くの菌が存在するので選択培地で直接分離することが可能である。分離培地にはSS 寒天、マッコンキー寒天、CIN 寒天などを用いる。また、菌数の少ない材料ではリン酸緩衝液を用いた低温増菌法を併用することが望まれる。Y. enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis と同定された菌株については、市販診断用血清で血清型を決定する。分離当初に菌株をBHIB (Brain Heart Infusion Broth)などで37℃培養する自己凝集性試験を行なうことにより、病原株であるかどうかの判定が迅速に行える(写真2)。

 患者の初期血清と回復期血清でY.enterocolitica あるいはY. pseudotuberculosis に対する抗体価を測定することは本感染の裏付けとなる。菌の分離ができず抗体価の上昇が認められた場合でも、本感染症が強く疑われる。しかし、Y.enterocolitica 血清型O9 とブルセラ(Brucella abortus)とは抗原交差があるため、抗体価から血清型O9感染と診断した場合にはブルセラ感染も疑うべきである。

写真2. 自己凝集性試験:BHIB に接種した病原株(左)と非病原株(右)

治療・予防
 Y.enterocolitica およびY.pseudotuberculosis は通常使用されている抗生剤に対して高い感受性を示す。しかし、Y.enterocolitica はβ−ラクタマーゼ活性があるため、アンピシリンなどに対しては感受性が低い。また、Y.pseudotuberculosis はマクロライドを除いて高感受性である。抗生剤投与に関しては、その種類、投与方法、投与期間等はいずれも不明であるが、治療に抗生剤を使用しなくてもおおむね予後は良好である。

食品衛生法での取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24時間以内に最寄りの保健所に届け出る。


(東京都立衛生研究所生活科学部 金子誠二)

 

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updated info

この記事は、2003年第4週にて改訂しました。

 

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