感染症の話トップページへ

 感染症の話 2001年第7週(2月12日〜2月18日)掲載

◆ウェルシュ菌感染症

 ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)は,ヒトや動物の大腸内常在菌であり、下水、河川、海、耕地などの土壌に広く分布する。ヒトの感染症としては、食中毒の他に、ガス壊疽、化膿性感染症、敗血症等が知られているが、本欄では最も多発するウェルシュ菌食中毒を中心に記載する。
 ウェルシュ菌食中毒は、食品中で大量に増殖したエンテロトキシン産生性ウェルシュ菌(下痢原性ウェルシュ菌)を喫食することにより、腸管内で本菌が増殖・芽胞を形成する際に産生・放出されたエンテロトキシンにより発症する感染型食中毒である。

疫 学
 わが国におけるウェルシュ菌食中毒事件数は年間9 〜27件(平均22件)程度で、それほど多いものではない。しかし、1事件当たりの患者数は103.2名で他の細菌性食中毒に比べて圧倒的に多く、大規模事例が多い()。

表.細菌性食中毒1事件当たりの患者数(1990〜1999年, 全国)
原 因 菌
患者数
ウェルシュ菌
103.2  
サルモネラ
32.0  
腸炎ビブリオ
15.6  
黄色ブドウ球菌
22.4  
病原大腸菌
50.5  
カンピロバクター
11.8  
セレウス
50.5  
ボツリヌス
2.9  
エルシニア・エンテロコリチカ
17.6  
ナグビブリオ
5.4  
その他
5.0  
(厚生省食中毒統計)  

 本菌食中毒の発生場所は、大量の食事を取り扱う給食施設や仕出し弁当屋、旅館、飲食店等である。主な原因食品には、カレー、スープ、肉団子、チャーシュー、野菜の煮物(特に肉の入ったもの)等があり、一般的には以下の様な特徴が認められる。
 1)多くは食肉あるいは魚介類等を使った調理品である。これは、食肉や魚介類のウェルシュ菌汚染率が高いためである。さらに、食肉等にはグルタチオン等の還元物質が豊富に含まれているので、調理品は嫌気状態になり易くウェルシュ菌の発育に適する。
 2)原因食品は大量に加熱調理された後、そのまま数時間〜一夜室温に放置されていることが多い。加熱調理された食品中では、共存細菌の多くが死滅するが、熱抵抗性が強い下痢原性ウェルシュ菌芽胞は生存する。そして、加熱により芽胞の発芽が促進され、同時に、食品内に含まれる酸素が追い出されてウェルシュ菌の発育に好条件が与えられる。食品中のウェルシュ菌は、加熱調理食品が徐々に冷却していく間に急速に増殖する。
 食中毒等の疫学解析に用いられる疫学マーカーとしては血清型が汎用され、我が国ではHobbsの型別血清1 〜17型が市販されている。Hobbs の血清型に一致する菌株でも、エンテロトキシン非産生株も認められ、血清型と病原性は必ずしも一致しない。東京都立衛生研究所ではHobbs の血清型に一致しない菌株の血清型別を試み、TW の血清型(現在1 〜66 型)を確立し、Hobbs型と併用して検査を行っている。都内で発生したウェルシュ菌食中毒68 件(1963 〜2000年)の内、原因菌の血清型はHobbs 型39 件、TW 型が34 件、Hobbs 型とTW 型の混合が6 件、未定1 件であり、主な血清型はHobbs 型1 、4 、3 、5 及びTW 型6であった。

病原体

 ウェルシュ菌は偏性嫌気性の芽胞形成菌であるクロストリジウム(Clostridium)属の一菌種で、長さ3〜9μm 、幅0.9〜1.3μm 、非運動性のグラム陽性大型桿菌である(写真1)。本菌の発育至適温度は他の食中毒菌とは異なり43 〜47 ℃と高く、分裂時間も45℃で約10分間と短い特徴がある。

写真. ウェルシュ菌の電子顕微鏡写真

 本菌は、4種類の主要毒素α,β,ε,ιの産生性からA 、B 、C 、D 、E の5つの毒素型に分類される。食中毒やガス壊疽の原因になるウェルシュ菌はほとんどがA型菌である。また、パプアニュ−ギニア、ドイツ、アメリカにおいてC 型菌による壊死性腸炎の報告がある。
 下痢原性ウェルシュ菌は一般常在ウェルシュ菌と異なり、下痢原性因子であるエンテロトキシンを産生するA型菌で、大部分の菌株は、100 ℃1〜4 時間の加熱に抵抗性の耐熱性芽胞を形成する。
 東京都立衛生研究所では、最近新型エンテロトキシン産生菌1) 、レシチナーゼ非産生菌2) 、易熱性芽胞形成菌等の従来の検査法では検出できないウェルシュ菌食中毒事例を明らかにしている。
 参考 1) 病原微生物検出情報19(10), 228‐229,1998.
    2) 病原微生物検出情報、準備中

臨床症状
 ウェルシュ菌食中毒の潜伏時間は通常6 〜18 時間、平均10 時間で、喫食後24時間以降に発病するものはほとんどない。主要症状は腹痛と下痢である。下痢回数は1 日1〜3回程度のものが多く、主に水様便と軟便である。腹部膨満感がある場合もあるが、嘔吐や発熱などの症状はきわめて少なく、症状は一般的に軽く1 〜2日で回復する。
 その他、ウェルシュ菌が産生する溶血毒のために急死する敗血症例も報告されている。その実態は明らかではないが突然死の例もあり、注意を要する。

病原診断
 食中毒の最も確実な診断は、患者糞便や推定原因食品等からエンテロトキシン産生性のウェルシュ菌を分離することである。健康人のエンテロトキシン産生菌の保菌率は1%以下である。食中毒の検査は、非病原性の常在ウェルシュ菌との区別が重要であり、次の点に留意して実施する。
1)集団発生例では、発病初期の患者糞便から、同一血清型ウェルシュ菌が高頻度に検出されること。
2)原因食品の残品から、患者由来菌と同一血清型ウェルシュ菌が検出されること。
3)患者や原因食品から分離されたウェルシュ菌はエンテロトキシンを産生すること。
4)発病初期患者糞便からエンテロトキシンが検出されること。
 ウェルシュ菌の同定には、α毒素であるレシチナーゼ産生性が重要であり、α抗毒素濾紙を使
ったレシチナーゼ抑制反応が応用されている(写真2)。 また、エンテロトキシンの検出は、RPLA 法を利用した市販試薬を用いて行うのが一般的であるが、最近PCR 法も用いられている。

写真2. A )卵黄加CW 寒天に発育したウェルシュ菌の集落

B )レシチナーゼ抑制反応
 a) Clostridium perfringens :陽性
 b) Clostridium perfringens :陽性
 c) Clostridium absonum :陰性

治療・予防
 治療としては腹部症状に関する対症療法が主である。
 ウェルシュ菌が1g当たり10万個以上に増殖した食品を喫食することにより食中毒を起こすこと
から、予防の要点は食品中での菌の増殖防止である。すなわち、加熱調理食品は急速に冷却
し、低温に保存する。大量調理時に発生することの多い食中毒であり、前日調理、室温放置は
避けるべきである。近年の大規模調理の増加、流通形態の変化、食肉を中心とする食生活への変化等により、本食中毒の増加が危惧されるので、その予防に対する再認識が望まれる。

食品衛生法での取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24 時間以内に最寄りの保健所に届け出る。


(東京都立衛生研究所・微生物部 門間千枝、柳川義勢)

 

   IDWRトップページへ



更新情報

この記事は 2006年第33号 にて改訂しました。

ページの上へ