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 感染症の話 2001年第6週(2月5日〜2月11日)掲載

◆カンピロバクター感染症

 カンピロバクターは15菌種9亜種(2000 年現在)に分類されているが、ヒトの下痢症から分離される菌種はCampylobacter jejuni subsp. jejuni(以下C. jejuni)がその95〜99%を占め、C.coliC. fetus subsp. fetus は数%に過ぎない。従って、カンピロバクター感染症は、C. jejuni 感染症と言っても過言ではない。

疫 学
 C.jejuni は1982 年に食中毒起因菌に指定されて以来、食中毒事例数においてサルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌に次ぐ発生頻度を示している。
 近年、その頻度は欧米諸国と同様、我が国においても増加傾向にあり、厚生省の食品衛生調査会食中毒部会(平成12年2月25日)でもその対策が急務である旨、提言がなされている。厚生省食中毒統計によると、全国における本食中毒の年間事例数(1996年以降は患者数2名以上)は、1995〜1996年では20〜46件であったが、1997年に73件、1998年に63件、及び1999年に77件と急増している()。患者数は、大規模食中毒事例が減少したこともあり、1,400〜2,500人前後を推移している。一方、散発下痢症における本菌の検出率は、小児では約15〜25%で下痢症起因菌の第1位を占め、成人でも約5〜10%前後の高い検出率を示している。特に小児では受診当初感冒と診断されることが多く、実際の患者数はかなりの数に上るものと推察される。米国では、我が国との食生活の相違はあるものの、本菌罹患率は10万人当たり約6人と推定されている(CDC)。
 一般に、細菌性食中毒の発生は夏季に多発し冬季に減少するが、本食中毒においては様相を異にして、その発生は5〜6月に多く、7〜8月はやや減少、再び9〜10月頃に上昇傾向を示している。しかし、東京都内では1999年以降、冬季の発生が著しく増加している。

 C.jejuni 食中毒発生時における感染源の特定は極めて困難である。それは、少量感染(102 個以上)の成立、長い潜伏時間(2〜5日)、加えて通常の大気条件下で本菌は急速に死滅する生理学的特徴に起因する。しかし、患者の喫食調査並びに施設等の疫学調査結果からは、推定原因食品又は感染源として、鶏肉関連調理食品及びその調理過程の不備が強く示唆されている。なお、欧米では生牛乳を原因食とする事例が多いが、我が国では加熱殺菌乳が流通しており、当該食品による発生例はみられていない。この他、井戸水、湧水および簡易水道水を感染源とした水系感染事例が我が国では少なくとも12例確認されており、その原因の大部分は不十分な消毒であった。

 
表. カンピロバクター食中毒の事件数および患者数:全国
事件数* 患者数
1995 20 1,493
1996 46 1,538
1997 73 2,464
1998 63 1,624
1999 77 1,386
*1996 年以降は,患者数2名以上の事件数
(厚生省食中毒統計)

病原体

 C.jejuni は長さ0.5 〜5μm 、幅0.2 〜0.4μmのグラム陰性らせん状桿菌である。両極にそれぞれ1 本の鞭毛を持ち、所謂コルクスクリュー様の独特な運動を活発にする(写真)。本菌の発育には微好気条件(酸素濃度:5〜10%)が必須で、発育温度域は34〜43℃、炭水化物は全く利用しない。本菌はウシ、ヒツジ、野鳥及びニワトリなど家禽類の腸管内に広く常在菌として保菌されている。なお、C.coli はブタでの保菌率が極めて高いことが特徴である。

写真. Campylobacter jejuni の電子顕微鏡写真

 

臨床症状
 症状は下痢、腹痛、発熱、悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感などであり、他の感染型細菌性食中毒と酷似するが、潜伏時間が一般に2 〜5 日間とやや長いことが特徴である。感染性腸炎研究会(都市立伝染病集計)資料によると、入院患者の98%に下痢が認められ、その便性状は水様便(87%)、血便(44%)、粘液便(24%)である。特に粘血便がみられる場合は、赤痢菌、腸管出血性大腸菌、腸炎ビブリオ、サルモネラ等による腸炎との鑑別を要する。下痢は1日に10回以上に
及ぶこともあるが、通常2〜6回で1 〜3日間続き、重症例では大量の水様性下痢のために急速に脱水症状を呈する。腹痛は87%、嘔吐は38%にみられた。発熱時の平均体温は38.3℃で、サルモネラ症に比べるとやや低い。
 C.jejuni 感染症の一般的な予後については、一部の免疫不全患者を除き死亡例もなく良好な経過をとる。しかし、近年本菌の後感染性疾患としてギラン・バレー症候群(GBS)との関連性が注目を浴びており、GBS 患者全体の3割程度に本菌による先行感染(GBS発症時の1〜3週間前)が認められている。GBS はこれまで予後良好な自己免疫性末梢神経疾患として捉えられていたが、C.jejuni 感染症に後発する症例は概して重症化し易く、発症1年後の時点においても寛解する患者は6 割程度に止まる。また一部患者においては、呼吸筋麻痺が進行し死亡例も確認されている。GBS の罹患率は諸外国でのデータでは人口10万人当たり1 〜2人とされているが、我が国における発生状況は情報集積データがなく不明である。

病原診断
 C.jejuni 感染症の診断については臨床症状から判断することは困難で、糞便等から本菌を分離することが最も確実な方法である。しかし、その培養には微好気培養装置が必要で、最低2日間(37〜42 ℃)要する。更に、本菌の同定には3日間程度必要であり、迅速性を図るためにPCR法等の遺伝子診断技術が導入されつつある。

治療・予防
 患者の多くは自然治癒し予後も良好である場合が多く、特別治療を必要としないが、重篤な症状や敗血症などを呈した患者では、対症療法と共に適切な化学療法が必要である。第一選択薬剤としては、エリスロマイシン等のマクロライド系薬剤が推奨される。セフェム系薬剤に対しては自然耐性を示すため治療効果は望めない。
 ニューキノロン系薬剤に対しては近年耐性菌が増加しており、世界的な問題となっている。私共の調査においても、NFLX, OFLX, CPFX, NAの4 剤に対する耐性株出現頻度は調査開始時(1993〜1994年)は15%程度であったが、1998 〜1999年には26.5%と約2倍に増加していた。従って本剤を使用する際は、このことを念頭に入れた処方が必要であろう。
 本菌感染症の予防は食品衛生の面からみると、他の細菌性食中毒起因菌と同様獣肉(特に家禽肉)調理時の十分な加熱処理、また調理器具や手指などを介した生食野菜・サラダへの二次汚染防止に極力注意することである。また、本菌は乾燥条件では生残性が極めて低いことから、調理器具・器材の清潔、乾燥に心掛けることも必要である。一方、食品の嗜好面からは、生肉料理(トリ刺し、レバ刺し等)の喫食は避けるべきであろう。その他、イヌやネコ等のペットからの感染例も報告されており、接触する機会の多い幼小児及び高齢者等においては啓蒙を図ると共に、ペットの衛生的管理が必要である。

食品衛生法での取り扱い
 食中毒が疑われる場合は、24 時間以内に最寄りの保健所に届け出る。


(東京都立衛生研究所微生物部 高橋正樹 横山敬子)

 

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