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 感染症の話 2000年第47週(11月20日〜26日)掲載

 
◆レプトスピラ症

 ワイル病、秋疫などに代表されるレプトスピラ症は、病原性レプトスピラ感染に起因する人獣共通の細菌(スピロヘータ、写真1)感染症である。レプトスピラ症は全世界的に流行しており、保菌動物(ドブネズミ等)の尿等で汚染された水から経皮的(稀に経口的)に感染するとされる。レプトスピラは日本人によって発見された数少ない病原体の一つである。1999年4月に施行された感染症新法では、レプトスピラ症は届け出疾患に含まれていない。

写真1. 病原性レプトスピラ(Leptospira
interrogans
)の電子顕微鏡写真
図1. レプトスピラ症の流行
画像をクリックすると拡大図が見られます。

疫 学
 本邦では1970 年代には年間数十名の死亡例が報告されていたが、近年では衛生環境の向上等に比例して患者数および死亡例数は減少傾向にある。届け出義務のある疾患ではないことから、近年の罹患状況を把握することは困難ではあるが、昨年においては2 例の死亡が確認されている。また昨年、沖縄県八重山諸島においてレプトスピラ症の集団発生が起こった。15 例の確定診断がなされ、その血清型は、hebdomadis 8 例、grippotyphosa 5例、pyrogenes 1例、未同定1例であった(IASR2000年8月号,Vol.21 No.8 P.4‐5 参照)。
 一方、国外でのレプトスピラ症の流行は全世界的に起こっており、近年報告されたレプトスピラ症の流行事例だけでも、ブラジル、コスタリカなどの中南米、フィリピン、タイ等の東南アジア、インド、中国等の国々での大流行があげられる(図1)。特にタイなどでは毎年数千人規模の大流行が繰り返されており、早急な対策が求められている。レプトスピラ症の流行は多雨期から収穫期(7 〜10月頃)に集中することが疫学的に確認されており、これらの地域を旅行する場合は、洪水が起こっている地域にはなるべく立ち入らないこと、また素足で田圃等に入らないことが極めて重要である。
 また、海外からの輸入感染例もしばしば報告されている。本年9月、マレーシア・ボルネオ島での耐久レースに参加した男性1名が、帰国後、発熱および眼球結膜の充血を呈したこと、ペア血清を用いた抗体検査で、 L.interrogans 血清型 hebdomadis に対する抗体価が上昇していたことから、レプトスピラ症として診断された。同じレースに参加した他国の選手間で同様な感染例が報告されていることから、今後レプトスピラに汚染されている可能性がある淡水域でのトライアスロン等の競技開催・参加には十分な注意が必要である。

病原体
 病原性レプトスピラにはこれまでに250 以上もの血清型の存在が報告されている。本邦ではこれまでに表1に示した血清型が確認されている。レプトスピラは一般に用いられる細菌用の培地では増殖できず、分離にはコルトフ培地あるいはEMJH 培地等が用いられる。また光学顕微鏡では観察できず、暗視野顕微鏡下で、ひも状螺旋型の回転運動をする菌体が観察される。

表1.日本におけるヒトレプトスピラ症の血清型と分布

血清型

北海道

本州・四国・九州

南西諸島

icterohaemorrhagiae (ワイル病)

(+)

+

copenhageni (ワイル病)

(+)

+

autumnalis(秋疫A 症)

+

+
hebdomadis(秋疫B 症)

(+)

+

+
australis(秋疫C 症)

+

(+)
canicola(イヌ型レプトスピラ症)

(+)

+

+
pyrogenes    

+
javanica    

+
grippotyphosa    

+
kremastos    

+
 


臨床症状
 レプトスピラ症は急性熱性疾患である。臨床症状は軽症のものから、黄疸、腎障害等を主徴とする重症レプトスピラ症(ワイル病)まで極めて多彩である(表2)。3 〜14 日間の潜伏期間を経て悪寒、発熱、頭痛、腰痛、眼球結膜の充血などが生じ、第4 〜5 病日に黄疸が出現したり出血傾向も増強する。レプトスピラは保菌動物の尿中へと排出され、ヒトへの感染は、保菌動物の尿などに汚染された水との直接接触による経皮感染がほとんどである。保菌動物としては、ドブネズミなどの野生動物や犬などの愛玩動物、ウシ、ウマなどの家畜があげられる。

病原診断
 黄疸、出血、眼結膜の充血、腎障害などの症状を呈した場合では、他の細菌感染による菌血症性多臓器不全、発熱性ウイルス肝炎などとともにワイル病が鑑別診断の対象となる。特異的症状が見られない軽症例や非典型的症例では、あらゆる熱性疾患が鑑別対象となるが、保菌動物や病原体に汚染された水との接触機会の有無、流行地域への旅行歴等、疫学的背景からレプトスピラ感染が疑われる場合では本症が優先的検査対象となろう。

1. 病原体の分離
 分離培養には発熱期の全血を用いる。採血後、無菌的かつ速やかにレプトスピラ培養培地(コルトフ培地、EMJH 培地など)に加え、30℃で数日〜2週間静置培養する。暗視野顕微鏡下で病原体が観察される。組織学的に銀染色法、蛍光抗体法などで検出が可能である。

2.抗体価測定法
 顕微鏡下凝集反応法(MAT)、マイクロカプセル凝集法、dipstick法、slide agglutination test(SAT)など。特異性に優れた顕微鏡下凝集反応法が一般的に用いられる。顕微鏡下凝集反応法は、使用する抗原レプトスピラの発育状況、抗原量、反応条件により検査価に若干のばらつきがみられるため、鏡検には習熟を要する。抗レプトスピラ抗体は感染後長期にわたって残存すると考えられることから、単一血清による凝集反応では急性期と感染の既往を判別することは難しいとされる。感染の早期では抗体が証明されず、偽陰性となる場合があるので、できればペア血清を用いた検査が必要である。判定は、単一血清であれば抗体価40倍以上、ペア血清の場合4倍以上の上昇がみられた場合を陽性とする。通常生理的因子により変動することはないとされる。

表2. レプトスピラ症患者に見られる臨床所見

症状・徴候

陽性所見(%)

黄疸(+)
N=106

黄疸(−)
N=102

症 状    
 発熱 99 100
 筋痛 97 97
 頭痛 91 82
 悪寒 85 84
 咽頭痛 79 72
 悪心 75 71
 嘔吐 69 65
 眼痛 46 54
 下痢 27 23
 尿量減少 25 20
 咳嗽 24 15
 喀血 9 5
徴 候
 結膜充血 99 100
 筋圧痛 75 70
 肝腫大 80 60
 肺病変 24 11
 リンパ節腫脹 24 35
 点状出血、斑状出血 16 4

Watt G.Leptospirosis.Current Opinion in Infectious Diseases 5, 659‐663, 1992.より引用.


3. 病原体遺伝子のPCR による検出
 全血よりレプトスピラの16S rRNA 遺伝子、鞭毛遺伝子のPCR による検出系がある。


治 療
 重度の症状の場合はペニシリンによる治療が一般に行なわれる。ペニシリンG を6時間毎に1.5メガユニット静脈注射を7日間行なう。他のスピロヘータ感染と同様に、レプトスピラ症の治療にペニシリンを用いた場合はJarisch‐Herxheimer 反応(抗生剤投与後に起こる、破壊された菌体成分によるとみられる発熱、低血圧を主症状とするショック)が見られることがあるので、静注投与を受けた患者の観察が必要である。また軽〜中等度の場合には、1 日2回ドキシサイクリン100mg を7日間服用することが勧められている。通常ヒト‐ヒト感染はないとされているが、レプトスピラに感染したAIDS 患者が保菌者となる場合があるとの報告もある。


【備 考】
 レプトスピラに感染した犬を診断した獣医師が、検査の過程でレプトスピラに感染した可能性がある例がいくつか報告されている。検体の血液、尿などを素手で触るのは極力避けるようにすべきである。


(国立感染症研究所細菌部 小泉信夫)

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updated info

この記事は、2003年第1-2週にて改訂しました。

 

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