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 感染症の話 2000 年第38 週(9月18日〜9月24日)掲載

 
◆クリミア・コンゴ出血熱(Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever)

 クリミア・コンゴ出血熱(Crimean‐Congo Hemorrhagic Fever :CCHF )は、クリミア・コンゴウイルスによる急性熱性疾患であり、ウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever :VHF)4 疾患のひとつである。この疾患はダニが媒介する疾患で、ヒトからヒトへのウイルスの感染は、血液や体液を介して伝播される。ダニへの感染源となるのは、ウイルス保有感染ダニ、患者及び感染者、さらに野生及び家畜哺乳類である。インド亜大陸からモンゴル、中国西部にかけて広く分布しており、Zoonosis(人畜共通感染症)として最も重要な位置にある。臨床症状として、発熱と点状出血から大紫斑と多彩な出血像が特徴的である。近年はダニの体内での垂直伝播も知られ、今後疫学的にも最も注意していくべき感染症のひとつである。

疫 学
 CCHF が世界中に知られるようになったのは、中央アジアのクリミア地方で野外作業中の旧ソ連軍兵士の間で1944 〜45 年にかけて重篤な出血を伴う急性熱性疾患が発生した時のことである。この折に患者血液や、ダニからウイルスが分離されたが、1956 年アフリカのコンゴで分離されたウイルスと同一であることがCasals 博士により明らかにされ、CCHF ウイルスの名前がつけられた(米国ではCongo‐Crimian と称されている)。ちなみにCasals 博士はCCHF ウイルス以外に1969 年にラッサウイルスを初めて分離した人として知られている。
 現在患者発生が知られている地域は、アルバニア、ブルガリア、ユーゴスラビア等の東欧、中央アジア、ロシア、パキスタン、イラク、イラン、サウジアラビア、ドバイ、オマーン等の中近東、中国、モンゴル地方、アフリカ全域(南アフリカ、コンゴ、モーリタニア、ウガンダ、セネガル等)である。このウイルスがダニや哺乳類から分離されている地域は、ギリシャ、ナイジェリア、中央アフリカ共和国、ケニア、マダガスカル、エチオピア、ブルキナファソ等の国々である。

 CCHF ウイルスの感染経路は(1) 感染マダニに咬まれる、ダニをつぶす、感染動物の血液や組織との接触、(2) 感染者や患者の血液、血液の混入した排泄物、汚物などとの接触、(3) 羊飼い、キャンパ−、農業従事者、獣医師等家畜やダニと密接に接する人、(4) 病院で患者に接する医療関係者、および介護にあたる家族等である。院内感染はしばしばみられている。
 他の出血熱ウイルス同様、空気感染は否定されている。パキスタン、ドバイ等の病院での発生はいずれも手術に伴うもので血液との直接接触で、医師、看護婦が感染している。
 1985 年の南アフリカでの発生は31 例で、曝露された感染源と潜伏期間はそれぞれ、ダニ咬傷が3.2 日、家畜等の血液との接触が6 日、患者や感染者との接触では5.6 日であった。 19/31例でウイルスが分離され、IgM は5例のみで検出された。

図1. クリミア・コンゴ出血熱の分布領域

画像をクリックすると拡大図が見られます。

病原体
 CCHF ウイルスは、ブニヤウイルス科(Bunya viridae)のナイロウイルス属(genus Nairovirus)のメンバーである。粒子の径は90‐110nm の球形で、1 本鎖RNA をもつ。3分節L 、M 、S の分子量は6x10 6 Daである。自然界では野生、家畜等の哺乳動物(ウシ、ヤギ、ヒツジなど)が自然宿主で、ヒトへはマダニ(hyalomma)が媒介する。現在27種のマダニがこのウイルスを媒介することが知られている。鳥が感染マダニを遠隔地へ運ぶことも知られている。最近の注目すべき事実は、感染マダニの中でウイルスが垂直感染を繰返していることである。すなわち、感染哺乳類がいなくてもダニのみで感染源になることを示している。


臨床症状
 潜伏期間は2‐9 日で、ダニに咬まれる、患者血液に直接触れるなどすると発生までの期間が短くなる。症状は表に示したように非特異的である。発生は突発的で、発熱、頭痛、筋肉痛、腰痛、関節痛がみられ、重症化すると種々の程度の出血がみられる(点状出血から大紫斑まで)。死亡例では肝腎不全と消化管出血が著明である。致命率は15‐40%で、感染者の発症率は20%と推定されている。



病原診断
 最も重要なことは (1) 発症1 週間以内にウイルスを分離する、(2)PCR 法等で血中からCCHF ウイルス遺伝子を検出する、(3) ELISA 、免疫蛍光法、補体結合反応等で有意の抗体上昇を確認する、などである。発症21日(3週)で補体結合反応陰性の時はこの疾患ではない、といえる。


治療・予防
 ワクチンはない。感染予防には基本的バリア(ガウン、手袋、マスク等の装着)で十分である。特異的治療法はない。治癒例では後遺症はみられない。鑑別診断は全ての急性出血性感染症が対象となる。
 ラッサ熱の治療薬リバビリンがCCHF にも効果があるのではとされているが、ヒトの例での実証例はない。


感染症法の中でのCCHF の取扱い
 CCHF は、1類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。類似患者、患者、無症状病原体保有者のいずれであっても届け出は必要である。報告のための基準は、以下の通りとなっている(平成11 年3 月30 日 厚生省結核感染症課長通知)。
 ○当該疾患を疑う症状や所見があり、かつ、以下の方法によって病原体診断または血清学的診断がなされたもの。
 (材料)血液、血清
 ・病原体の検出
  例:ウイルスの分離など
 ・抗原の検出
  例:ELISA 法など
 ・病原体の遺伝子の検出例:PCR 法など
 ・血清抗体の検出
  例:IgG のIFA 、補体結合反応による検出など
 ○当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体か抗原が検出されたもの
 (病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものを含まない)
 ○疑似症の診断
 臨床的特徴に合致し、以下の疾患の鑑別診断がなされたもの
 (鑑別診断)他のウイルス性出血熱、チフス、赤痢、マラリア、デング熱、黄熱等
《備 考》
 当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものについては、法による報告は要さないが、確認のため保健所に相談することが必要である。


学校保健法の中でのCCHF の取扱い
 CCHF は学校において予防すべき伝染病第1 種に定められており、治癒するまで出席停止となる。



(国立感染症研究所副所長 倉田 毅)

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updated info

この記事は、2002年第31週にて改訂しました。

 

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