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 感染症の話 2000 年第35 週(8月28日〜9月3日)掲載

 
◆劇症型溶血性レンサ球菌感染症

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、突発的に発症し急速に多臓器不全に進行するA群レンサ球菌による敗血症性ショック病態である。メデイアなどで「人食いバクテリア」といった病名で、センセーショナルな取り上げ方をされることがある。

疫 学

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は1987年に米国で最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアからも報告されている。日本における最初の典型的な症例は1992年に報告されており、現在までに100人を超える患者が確認されている。そして、このうち約30%が死亡しているというきわめて致死率の高い感染症である。
 A群レンサ球菌感染による一般的な疾病は咽頭炎であり、その多くは小児が罹患する。一方、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は大人から子供まで広範囲の年齢層に発症するが、特に30‐70歳代の大人に多いのがひとつの特徴である(図1)。

図1. 我が国における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者の年齢分布とその割合

画像をクリックすると拡大図が見られます。

病原体
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、A群レンサ球菌、Streptococcus pyogenes により引き起こされる。このS. pyogenes には数多くの表層抗原因子が知られている。このうちM 蛋白質は、菌の疫学マーカーとしてよく用いられているが、宿主細胞への付着や抗貪食作用をもつ病原因子のひとつでもある。また同時に、感染防御抗原としても重要な機能を果たしている。


臨床症状
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者は、免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病する例が多い。初期症状としては、咽頭炎、四肢の疼痛、発熱、血圧低下などで、発病から病状の進行が非常に急激かつ劇的で、いったん発病すると数十時間以内には軟部組織壊死、急性腎不全、成人型呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全(MOF)を引き起こし、患者をショック症状から死に至らしめる。


病原診断
 通常無菌的である部位(血液、脳脊髄液、胸水、腹水、生検組織、手術創など)からA群レンサ球菌が検出される。劇症型溶血性レンサ球菌感染症の場合には、顕著な菌血症を示すので、血液のグラム染色標本を検鏡するとレンサ球菌が直接観察される。分離培地には血液寒天培地を用い、A群レンサ球菌はこの培地上でβ溶血またはα溶血を示す直径0.5mm 以上のコロニーを形成する。菌は、グラム陽性の球菌で連鎖状の配列を形成し、カタラーゼ陰性である。その後、血清群別、糖分解試験等の生化学的性状試験や検査キットによりA 群レンサ球菌であることを同定する。


治 療
 抗菌薬としてはペニシリン系薬が第一選択薬である。また、組織内の菌密度が上昇すると菌の発育が抑制され、β‐ ラクタム系薬の効果が低下する現象が知られており、劇症型溶血性レンサ球菌感染症のように極端な敗血症病態では細胞内移行性の高いclindamycin を推奨する意見もある。さらに免疫グロブリン製剤の効果も報告されている。
 血圧維持には大量の輸液が必要であるが、輸液の許容範囲が狭いため、肺動脈圧の経時的観察が必要である。
 壊死に陥った軟部組織は菌の生息部位であり、筋壊死による腎不全および代謝性アシドーシスの悪化を防止するため、可及的広範囲に病巣を切除することが必要である。


感染症法の中での劇症型溶血性レンサ球菌感染症の取り扱い
 劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、4類感染症のうち、全数届け出疾患に定められており、本症であることを診断した医師は診断から7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の3つの基準を全て満たすもの。
 1. 血液または通常ならば菌の生息しない臓器からA 群レンサ球菌を検出(末梢血塗抹標本または壊死軟部組織の鏡検によるレンサ球菌の確認も含む)
 2. ショック症状
 3. 多臓器不全(以下の症状のうち3つ以上)
 肝不全、腎不全、成人型呼吸窮迫症、播種性血管内凝固症候群、軟部組織炎(壊死性筋膜炎を含む)、発疹、痙攣・意識喪失などの中枢神経症状。
 (鑑別を要する病態)
  1. A群レンサ球菌による軟部組織炎(丹毒)
  2. 他の菌による敗血症または敗血症性ショック


(国立感染症研究所細菌部 池辺忠義)

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