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 感染症の話 2000 年第33 週(8月14日〜8月20日)掲載

 
◆エボラ出血熱(Ebola Hemorrhagic Fever )

 エボラ出血熱はエボラウイルスによる急性熱性疾患である。ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱と共にウイルス性出血熱(Viral Hemorrhagic Fever:VHF)の1疾患である。最も重要な特徴は、血液や体液によりヒトからヒトへ感染が拡大し、多数の死者を出すことであり、しばしば注目をあびる。自然界の宿主が今もって不明なことからも今後の発生が危惧される。表1. ウイルス性出血熱と出血を生ずるウイルス病)

疫 学
 エボラ出血熱は現在までは象牙海岸(コートジボワール)を除けばアフリカの中央部でのみ発生している。ラッサ熱のように宿主のマストミスとの関連で持続的に感染者や患者が出ているのとは異なり、継続的疫学調査は全くなされてはいない。発生があるたびに周辺で調査がなされたが、自然宿主の特定には至ってはいない。1995年のキクウィトの発生の際にもヒトでの発生が終焉した後昆虫、ネズミ類、サル類等の血液、組織等5万検体にわたり調査されたが、エボラウイルスのウイルスも遺伝子も抗体も見つかってはいない。ヒトでの発生に係るエピソードは過去10回ある(表2. エボラ出血熱の発生図1)。表中の9と10は塑及調査と南アフリカに移動したヒトでの発生で、9ではウイルスは分離されてはおらず抗体調査のみ、10では南アフリカの自然界にウイルスが存在していたわけではなく非流行地への感染者の侵入である。

 スーダン(1976 、1979): 1976年6月末南部のヌザラ、マリディを中心に284名が感染し、151名(53%)が死亡した。ヌザラの町の綿工場で倉庫番の男性が発症し次々と家族、医療関係者等に伝播したもので、さらに独立した2 例から家族内、院内感染として感染拡大が生じた。1979年にはヤンピオで5家族34名が発症し、22名が死亡した。

図1 エボラ出血熱発生の分布


 ザイール(1976 、1977 、1995 ):1976 年スーダンでの発生から2カ月後、北部のヤンブク教会病院を舞台として大発生が起こった。病院とそこに出入りしていた患者と家族、医療関係者の間で感染拡大が生じたものである。そもそもはヤンブク教会学校の教師(44 歳男性)がマラリアの疑いで注射を受けその同じ注射器で他の注射を受けた9人全員が感染し、全員死亡した。それらの患者との接触、医療を通じ伝播が起こった。マスク、手袋、ガウン、注射器等の基本的不足による。約2カ月の間に318名の患者中280名(88%)が死亡した。CDC、WHO、ベルギーのチームが入り終焉したものである。スーダンの例もヤンブクの例もヒトからヒトへの伝播は急性期の患者との直接接触によるものでairborne の可能性はないとされている。ヤンブクでは病院のスタッフ17 名中13 名が発症し11名が死亡し病院は閉鎖された。この折の疫学調査は最も密度の濃いものでヤンブク、ヤンドンギ等周辺部落の各戸構成員全てが詳細に(感染抗体保有、発症等)調べられた。翌年近くのタンダラで9 歳の女児が発症し死亡したが、"もしや"ということもあり誰も接触せず他に感染者は生じなかった。それから18 年後の1995 年遠く離れたザイール中央部のキクウィトで町の総合病院を中心に4 月初め患者が発生した。244 名の死亡者中100 名以上は医療関係者であった。この際もガウン、手袋、長靴、注射器等の不足が感染拡大の最大の理由であった。発生1カ月後情報が米国に入りその10日後エボラウイルスによることが判明し、直ちに米、WHO 、ベルギー等のチームが入り6月20 日に終焉した。なおこのときに分離されたウイルスは19 年前のヤンブクのそれとほとんど遺伝子上、差はなかった。
 1994 年象牙海岸(コートジボワール)、1996 年ガボン:この2カ所の発生はいずれもチンパンジーが関与しているがチンパンジーはヒトと同様終末宿主であり、自然界の宿主ではないとされている。前者は死亡チンパンジーの解剖に携わっていてスイス人女性が感染したもので、後者では森で死亡していたチンパンジーを子供たちが接触し感染発症したことが発端である。1996年10月のガボンの発生は原因・経路は不明である。ヒトの抗体保有調査は発生があったときその周辺でなされてきたが、不顕性感染者が数%(男女とも)いることもわかっている。感染経路は血液、体液、汚物との接触である。この疾患のアフリカ大陸外への侵入はない。

病原体
 エボラウイルスはマールブルグウイルスと共にフィロウイルス科(Filoviridae)のメンバーである。短径が80‐100nm 、長径が850‐1,500nmで、U 字状、ひも状、ぜんまい状等多形性を示すが組織内では棒状を示す(図2)。スーダン株とザイール株との間には生物学的にかなり差がある。たとえばin vitro での細胞培養(Vero 細胞)で、スーダン株はあまり強い変性を示さないのに対し、ザイール株は急速に細胞を変性・壊死にいたらしめる。またin vivoでもマウス、サル類での感染性は大きく異なる。ザイール株は極めて強い病源性を示し、速やかに死に至らしめる。病原体は他のVHF ウイルス同様レベル4 に分類されており、ウイルス増殖を伴う作業には最高度安全実験施設(BSL‐4 、P4とも)が必要である。

図2 (米国CDC Fred Murphy 博士より)

画像をクリックすると拡大図が見られます。

わが国では国立感染症研究所村山分室にキャビネット式P4 施設が19年前に設置されたが、住民との合意が得られず本来の目的に使用されることなく現在に至っている。世界では宇宙服式、キャビネット式を含めて10カ所以上で稼働中である。仏パスツール研究所は2年前より現地での連続的分離作業を行うため、ガボンの現地(密林の)にP4 施設をつくり稼働中である。

臨床症状
 発症は突発的で進行も早い。感染源との接触後潜伏期間は2‐21 日で汚染注射器を通しての感染では早い。接触感染では長い。インフルエンザ様症状が進行し、重篤化する。発熱、頭痛が100%に、腹痛、咽頭痛、筋肉痛、胸部痛が80%に、出血(吐血、口腔歯肉、消化管)は70%に達する。出血は死亡例の大部分でみられる。症状として”エボラ出血熱に特徴的なもの”はない。血液、体液、汚物、汚染注射器等が主感染源となっている。

病原診断
 迅速診断には遺伝子をPCR 法等で検出する。血液、体液等からウイルスを分離する。その他血中抗体や抗原を検出する。抗体検出はELISA 、免疫蛍光法で行う。発症者や死亡者では安全な検査法として頚部等の小さな皮膚片のホルマリン固定材料でウイルス抗原検出も試みられている。

治療・予防
 感染予防ワクチンはない。治療は対症療法のみである。感染者や検体と接触した人のみの対応で十分である。アフリカでの対応と非流行地でのそれとは大きく異なる。空気感染はないとされている。

感染症法の中でのエボラ出血熱の取扱い
 エボラ出血熱は第1類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。類似患者、患者、無症状病原体保有者のいずれであっても届け出は必要である。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
 ○当該疾患を疑う症状や所見があり、かつ、以下の方法によって病原体診断または血清学的診断がなされたもの。
 (材料)血液、血清、剖検材料及び生剖検皮膚(ホルマリン固定)など
  ・病原体の検出
   例:ウイルスの分離など
  ・抗原の検出
   例:ELISA 法など
  ・病原体の遺伝子の検出
   例:PCR 法など
  ・血清抗体の検出
   例:IgM あるいはIgG の免疫蛍光法あるいはELISA 法による検出など

 ○当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体か抗原が検出されたもの
  (病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものを含まない)
 ○疑似症の診断
  臨床的特徴に合致し、以下の疾患の鑑別診断がなされたもの
  (鑑別診断)他のウイルス性出血熱、チフス、赤痢、マラリア、デング熱、黄熱等
 

《備 考》
 当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものについては、法による報告は要しないが、確認のため保健所に相談することが必要である。

学校保健法の中でのエボラ出血熱の取扱い
 エボラ出血熱は学校において予防すべき伝染病第1 種に定められており、治癒するまで出席停止となる。

(国立感染症研究所感染病理部  倉田 毅)

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updated info

この記事は、2002年第32週にて改訂しました。

 

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