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感染症の話 2000 年第29 週(7月17日〜 7月23 日)掲載
◆アメ−バ赤痢
原虫である赤痢アメ−バ(Entamoeba histolytica )を病原体とする大腸炎のうち、粘血便をはじめとし、下痢、テネスムス(しぶり腹)、腹痛などの赤痢症状を示すものを、本来、アメ−バ赤痢と呼ぶ。しかし、平成11年4月から施行された感染症法ではE.
histolytica 感染に起因する疾患を、消化器症状を主症状とするものばかりでなく、それ以外の臓器に病変を形成したものをも含めてアメ−バ赤痢と定義し、4類感染症として全例報告の対象とした。
原虫の感染は、赤痢アメ−バシスト(嚢子)に汚染した飲食物などの経口摂取により行なわれる。シストは胃を経て小腸に達し、そこで脱シストして栄養型となり、分裂を繰り返して大腸に到達する。栄養型原虫は大腸粘膜面に潰瘍性病変を形成し、粘血便を主体とする赤痢アメ−バ性大腸炎を発症させる。大腸炎症例のうち5%ほどが腸管外病変を形成する。その大部分は肝膿瘍であるが、まれに心、脳、皮膚などの赤痢アメ−バ症も報告される。
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疫学・病原体
従来から赤痢アメ−バは全世界の人口の10%(約5億人)に感染しているとされてき た。すなわち、これらのヒトの糞便中からは光学顕微鏡下に赤痢アメ−バシストと同
定される原虫が検出される。最近、これらの「赤痢アメ−バ」は、明らかに異なる 2種の原虫に分類されると結論された。病原種(E.
histolytica)と非病原種(E. dispar)の割合は1:9程度と考えられ、結局、世界人口の1%(約5,000万人)が病原種
E. histolytica の感染者ということになる。
感染者の多くは発展途上国に集中して分布する。多くの先進国では、これら原虫は 一般人口の間には流行していない。先進国家で感染率が高い集団は男性同性愛者、発
展途上国からの帰国者や知的障害者収容施設収容者などである。なかでも、男性同性 愛者間に流行する赤痢アメ−バ感染症は性感染症であることが多く、他の性感染症
(梅毒、HIV感染症、B型肝炎、性器ヘルペスなど)を合併していることが少なくない。
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図1.顕微鏡下での赤痢アメーバの運動
赤痢アメーバ(栄養型)は胞体内に貧食した赤血球や空胞、原形質顆粒などを含 み、原形質突起を突出させて運動を繰り返す。 |
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画像をクリックすると拡大図が見られます。
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なお、従来からシスト保有者(キャリア)は「赤痢アメ−バ症」としてすべてが 治療の対象と考えられ、そのシストは投薬による駆除の適応とされてきた。しかし、
病原種・非病原種の概念が確立したことから、現在ではE. dispar は駆除が不要であ り、E. histolytica
のみを治療の対象とすべきとされている。
臨床症状
1. 大腸炎
赤痢アメ−バ性大腸炎は粘血便、下痢、テネスムス、排便時の下腹部痛などを主症状とする。肝膿瘍などの合併症を伴わない限り発熱を見ることはまれである。下痢による発症は一般に緩除であり、その程度も粘血を混じた2〜3回/日程度のものから、テネスムスを伴い1日に20回以上の粘血便を示すものまで多彩である。多くの症例でこれらの症状は数週程度の周期で増悪・寛解を繰り返し、慢性に経過するが、その全身状態は侵されず、患者は通常の社会生活を営める。そのため、全身症状が激しくて、患者が臥床してしまうことの多い赤痢菌による赤痢をlying
down dysenteryと呼ぶのに比べ、アメ−バ赤痢はwalking dysenteryと称されることがある。アメ−バ赤痢の病変の首座は大腸(好発部位は直腸・S状結腸・盲腸・上行結腸)にあり、小腸性下痢に比べて糞便の排出量は少ない。典型的な例では激しいテネスムスとともに少量の粘血を頻回に排出する。
多くの患者は内痔核、大腸腫瘍である可能性などのために医療機関を受診するが、そのなかには潰瘍性大腸炎と誤診され、年余にわたり投薬を受けている例がある。なお、アメ−バ感染症はコルチコステロイド剤投与で増悪するため、潰瘍性大腸炎として治療されている症例は、腸穿孔を合併して急変することがある。
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2.
肝膿瘍
発熱、上腹部痛、肝腫大、盗汗などが主な臨床症状であるが、最も多く見られるの は発熱である。発病初期はかぜ症候群、インフルエンザなどと誤診されている例が多
いが、やがて、上腹部痛が出現し、画像診断から肝膿瘍を疑われることが本症を診断 する糸口になる。なお、アメ−バ性肝膿瘍の50%は下痢や粘血便などの腸管症状を伴
わず、臨床的には原発性肝膿瘍として発症する。すなわち、腸管症状を欠如すること は赤痢アメ−バ病変であることを否定する根拠とならない。
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図2.赤痢アメーバ性肝膿瘍の治療後CT像の変化
この症例はメトロニダゾール投与のみにより治療され、穿刺やドレナージによる排 液は行われなかった。治療終了後に長時間を経て膿瘍が吸収され縮小してゆくことが
分かる。左から治療前、治療3カ月後、治療1年後。
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診 断
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1. 大腸炎
診断方法は大きく3つに分けられる。すなわち、
1)糞便(粘血)、あるいは大腸粘膜組織切片上に赤痢アメ−バ(栄養型・シスト) を証明する:この場合、粘血便を伴うような症例の多くでは栄養型が見られる。偽足
を出して視野内を活発に動き回るE. histolytica を証明するためには、糞便が排出さ れた後1〜2時間以内に観察する必要がある。また、検体は保温に留意し(可能ならば
37℃位)、冷却を避ける必要がある。
軽症症例や無症状例(キャリア)からは、シストを検出する頻度が高い。シストに 関してはE. histolytica か、E.
dispar なのかが投薬の要否を決定する根拠となる が、光学顕微鏡的にはいずれかと同定することが出来ない。この目的にはアメ−バの
ザイモデムパタ−ンを検討する方法とPCR法による解析が開発されているが、現時点 では診療現場で利用できるほどその技術が一般化していない。
2)内視鏡所見:赤痢アメ−バによる大腸潰瘍はアフタ様、またはヘビタマ様と称さ れるものが多く、潰瘍周囲は浮腫状に盛り上がり、潰瘍底にはクリ−ム状の白苔が付
着する。潰瘍病変の分布はpatchyで、病変間の粘膜は正常であり、これらの所見はア メ−バ病変にかなり特徴的とされ、診断を確定するものではないが、本症を疑う有力な手掛かりになる。
3)血清抗体:測定法によって陽性率が異なるが、抗体陽性であれば赤痢アメ−バ感染症である可能性が高い。
2. 肝膿瘍
この疾患でも診断方法は3大別される。
1)画像診断:超音波やCT検査による膿瘍の証明。本法では膿瘍である可能性を示唆することは出来ても、病原体診断は得られないが、肝右葉に形成された円形〜楕円形膿瘍はアメ−バ性である可能性が高い(図2参照)。
2)原虫の直接証明:肝膿瘍内容を穿刺またはドレナ−ジによって採取し、検体中に原虫を証明する方法である。光学顕微鏡による原虫検出率は50%前後であり、本法はその侵襲性に比べれば効率の良い診断法とは言えない。しかし、超音波ガイド下の穿刺により膿瘍内容を採取することは、細菌性か否かの鑑別診断上有用である。
3)血清抗体:赤痢アメ−バ性肝膿瘍での血清アメ−バ抗体の陽性率は95%以上と報告される。侵襲性が低く、診断率が高いこれら血清抗体価の測定は本疾患の診断目的にあって極めて有用な手段といえる。
なお、赤痢アメ−バ性肝膿瘍症例にあっては、臨床症状の有無に拘らず、糞便や大腸粘膜切片から原虫が証明されることがあり、診断上の参考になる。
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図3.アメーバ赤痢の粘血便
有形便の周囲に大量の粘血が付着する。テネスムスが強い症例では、便意が頻回で あるため、糞便を伴わず、少量の粘血のみを排出することが多い。
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図4.アメーバ性大腸炎の内視鏡像
潰瘍底にクリーム状の白苔を付着した赤痢アメーバ性潰瘍が大腸粘膜面に散在する。潰瘍間の粘膜は正常である。
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図5.赤痢アメーバ性肝膿瘍の膿汁
アンチョビソース、またはチョコレート様と形容される外観を呈する。細菌培養は 陰性である。
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図6.組織中に証明させた赤痢アメーバ栄養体の集簇(PAS染色)
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治 療
大腸炎、肝膿瘍のいずれにあっても第一選択薬剤はメトロニダゾ−ルである。本薬剤は赤痢アメ−バ症に対する国際的標準治療薬である。本邦ではメトロニダゾ−ル赤痢アメ−バ症に対する保険薬価が未収載であるが、現実には本症に対して広く用いられており、著明な治療効果が証明される。投与量としては1〜2グラムを分3〜4とし、7〜10日間投与する。嘔気、嘔吐、肝障害、白血球減少、発疹など、さらにうつ傾向、運動失調、めまいなどの副作用が発現することがある。ジスルフィラム様作用が有るため、本剤投与中および投薬終了後1週間は飲酒を禁止する。また、実験的に変異原性が証明されているため、妊婦への投与は避ける。
同系統の薬剤としてチニダゾ−ルも用いられる。また、シストキャリアのみに使用する薬剤としてジロキサニドフロエイト(フラミド)(「輸入熱帯病・寄生虫症に対するオ−ファンドラッグの臨床評価に関する研究班」、ヒュ−マンサイエンス財団、主任研究者:大友弘士東京慈恵会医科大学熱帯医学教授から入手出来る)が利用できる。
[肝膿瘍ドレナ−ジについて]
わが国ではアメ−バ性肝膿瘍の治療に、現在でもドレナ−ジが広く行なわれている。しかし、膿瘍穿破の危険がある病巣や肝左葉に形成された巨大病変以外には本手技は適応ではないと考える。その理由として、アメ−バ性病変にはメトロニダゾ−ルがきわめて有効であり、適切な薬剤投与により微生物学的レベルでの治癒が期待できること、さらにドレ−ンを留置すると細菌によるドレ−ン感染を合併する可能性が挙げられる。
[免疫不全生体と赤痢アメ−バ]
副腎皮質ステロイド剤投与時や妊娠によって赤痢アメ−バ症の症状が増悪することはよく知られる。しかし、HIV感染症の進行に伴う免疫不全でE.
histolytica が正常宿主に比べてより激しい臨床症状を示すのか、あるいはE. dispar が日和見感染的に病原性を示すようになるかについてはまだ結論が得られていない。AIDS症例にE.
histolytica が感染しても赤痢アメ−バとしての症状が増悪しなかったとする米国からの報告は病原種と非病原種の概念が確立する以前の成績である(Reed,
SL,1991)。米国で男性同性愛者間に流行しているのは非病原種であることが知られていることから、この成績は非病原種を主体とした症例での結論と考えられる。病原種E.
histolytica と免疫不全生体の関連については今後の研究に期待したい。
感染症法の中でのアメーバ赤痢の取り扱い
アメーバ赤痢は第4類の全数把握疾患に定められており、診断した医師は7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいづれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
・病原体の検出
例:糞便からの赤痢アメーバ栄養体の検出
病変部位(組織切片または膿瘍液)からの本原虫の検出など
・病原体の遺伝子の検出
例:赤痢アメーバに特有な遺伝子配列の検出(PCR法等)など
・病原体に対する抗体の検出
例:患者血清からの赤痢アメーバに対する特異抗体の検出など
《備 考》
検便は場合によって1回の検査に留めず、連続3日間程度の集中検査で検出精度を高める措置が求められる。
(都立駒込病院感染症科 増田剛太)
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