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感染症の話 2000 年第27 週(7 月3日〜7 月9日), 第28週(7月10日〜7月16日)掲載
◆マラリア
マラリアは、4 種のマラリア原虫(Plasmodium spp.)の感染により、特有の熱発作とそれに続発する貧血、脾腫のほか、多彩な病態を呈する原虫性疾患であり、感染症法においては4
類感染症に分類されている。
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病原体と疫学
熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum )、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax )、四日熱マラリア原虫(Plasmodium
malariae )、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale )が病因となり、いずれも夜間吸血性の雌ハマダラカに媒介され固有のマラリアを起こすが、この中で熱帯熱マラリア原虫が最も悪性である。
人類はマラリアには有史以前から悩まされ、その疾病史に数々の惨禍を記録してきただけでなく今なお地球上の人口の40%以上が居住する熱帯、亜熱帯各地に猖獗を極めており、年間3 億人以上が罹患し、その犠牲者は200 万人以上に達すると推定されている。特にサハラ以南の熱帯アフリカで甚大な被害が出ている。
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1. (上)、fig 2. (下)
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画像をクリックすると拡大図が見られます。
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また、わが国では国際化が進み、熱帯諸国との交流が盛んになった今日、海外渡航者や来日外国人によって国内に持ち込まれる輸入マラリアが増加しており、最近では、年間120 前後の患者発生と臨床経過が悪性の熱帯熱マラリアによる死亡例が散発していることが憂慮されている。加えて、現在の日本で遭遇するマラリアは大部分が熱帯地からの輸入症例であるが、まれに輸血(保存血、血小板、交換輸血)、針刺し事故などによる国内感染も起こっているので注意を要する。
病原診断
マラリアは多彩な症状を呈するため、症候学的診断が困難である。そこで、有熱患者を診たら直ちに血液検査を行うのが鉄則である。これには、虫種の鑑別、感染密度の測定が可能なギムザ液染色(pH7.2 〜7.4 )した血液塗抹標本の鏡検により原虫を検索する古典的な方法が今日でも基本である。本法は形態学的な変化の観察から薬剤の効果判定にも用いることが出来る。この場合、臨床的に最も重要な熱帯熱マラリアでは発病直後に輪状体のみが観察され、感染赤血球は非感染赤血球と同大もしくはやや小さく、マウレル斑点を認める。やがてバナナ形の生殖母体が出現するが、成熟栄養体やシゾントが検出されるのは稀である。
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無性原虫の輪状体、栄養体、シゾントのほか、生殖母体の全発育環が検出され、感染赤血球が非感染赤血球より膨大し、シュフナ−斑点を認めれば、三日熱マラリア原虫か卵形マラリア原虫であり、後期栄養体が寄生する感染赤血球が卵円形で一端が鋸葉状を呈するのは後者である。あるいは、感染赤血球がやや縮小し、いずれの斑点も欠き、栄養体が帯状を呈するのは四日熱原虫である。
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図. ヒト赤血球に感染した熱帯熱マラリア
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また、最近は原虫が発する蛍光を蛍光顕微鏡で観察するアクリジン・オレンジ染色法も用いられている。さらに、蛍光抗体法、DNA 診断のPCR 法なども開発されているが操作や検査時間に難点があり、日常的な検査法として普及するには至っていない。近年、海外では熱帯熱マラリア及び三日熱マラリアを対象とした特異抗原検出用キット(Dipstick 法)が開発されており、10分で反応が完了する迅速診断法としての有用性が評価されている。
臨床症状
マラリア、特に熱帯熱マラリアの臨床経過は複雑で、赤血球の原虫感染密度、合併症の有無、宿主の栄養や免疫状態などにより著しく影響される。潜伏期は通常、7 〜40 日で、熱帯熱マラリアが最も短く、四日熱マラリアが最も長いが、熱帯熱マラリアを除いてはさらに長期化することも少なくない。
三日熱、四日熱、卵形マラリアでは、食欲不振などの前駆症状の後に悪寒戦慄とともに39 ℃前後の高熱を発し、数時間後には大量に発汗して解熱するが、発熱時には頭痛、顔面紅潮、頻脈、呼吸切迫、口渇を伴うことが多い。この熱発作は第5病日頃から赤内型無性原虫の分裂周期が同調して悪寒期、灼熱期、発汗期から成る特有の熱発作を呈するようになり、三日熱と卵形マラリアでは48 時間、四日熱マラリアでは72 時間毎に認められる。この反復により次第に貧血と脾腫をみるようになるが、一般にその経過は良性である。しかし、四日熱マラリアは慢性化するとネフロ−ゼ症候群を併発することがある。
熱帯熱マラリアでは、病因原虫の分裂周期は概ね48 時間であるが、熱型不規則な高熱を持続することも多く、冷感はあるが戦慄を欠くことが多い。また、その経過は悪性で、治療開始が遅れると高度の虫血症を呈し、嘔吐、黄疸などのほか、頭痛、傾眠、錯乱、譫妄、昏睡など種々の程度の脳症、急性腎不全、肺水腫/ARDS 、重度貧血、出血傾向、低血糖、電解質異常、代謝性アシド−シス、循環不全によるショック、ヘモグロビン尿症などの多彩な病態や重篤な合併症を併発して死の転帰をとる危険が高くなる。
臨床検査所見では、発病当初はさしたる異常を認めないが、しだいに正球性貧血、赤血球の大小不同、多染性と網赤血球の増加を認め、赤血球数、Hb.Ht などが低下し、一般に白血球数の減少傾向に伴う相対的単球増多、血沈亢進、CRP 上昇、血小板減少、LDH の増加などがみられるようになる。
また、熱帯熱マラリアでも合併症を伴わない発病初期の軽症例では、GOT,GPT,ビリルビンなどの軽度上昇をみるのみである。しかし重症例では、高度の貧血、LDH の著増、血小板の著減、プロトンビン時間、部分的トロンビン時間の延長、総コレステロ−ルの著減と中性脂肪の増加、FDPの増加と第5 凝固因子の減少、乏尿(400ml/日以下)や無尿に伴うクレアチニンやBUN の上昇、血糖値の低下、電解質異常、高γグロブリン血症、代謝性アシド−シスの所見を呈するようになる。
治 療
マラリア治療の基本は化学療法であるが、抗マラリア薬は原虫種とその発育環に特異的な効果をもたらし、その薬理作用から殺シゾント薬、殺ヒプノゾイト薬、殺生殖母体薬に類別され、発熱抑止療法に用いる殺シゾント薬が最も重要である。しかし、代表的な殺シゾント薬に対する熱帯熱マラリア原虫の耐性株が1960 年以降各地に出現しているため、熱帯熱マラリアの治療が以前よりも困難になっている。
1 )三日熱マラリア、卵形マラリア、四日熱マラリアの治療
■熱発作治療の選択薬はクロロキンである。初回600mg 、6 時間後、24 時間後、48 時間後に各300mg 塩基経口投与。副作用として胃腸障害、頭痛、長期投与により網膜損傷を起こすことがある。また、キニ−ネ、ファンシダ−ルなども有効。
■上記熱発作療法後に三日熱と卵形マラリアには肝細胞内発育環のヒプノゾイトをプリマキン(15mg 塩基/日、14 日間投与)で殺滅して再発を防止する根治療法を行う。腹痛のほか、G‐ 6PD欠損者では溶血発作を起こすことがある。
2 )合併症を併発していない熱帯熱マラリアの治療
■ファンシダ−ル(スルファドキシン500mg 、ピリメタミン25mg/錠)3 錠の単回投与。副作用として胃腸障害、顆粒球減少、まれにStevens‐ Johnson 症候群を起こす。
■硫酸キニ−ネ、1.5g/日、分3 で7 日間投与。これに、テトラサイクリン1.0g/日、分4 、7 日間を併用。薬剤耐性の度合いが高い地域で感染した患者に適用。キニ−ネの副作用として胃腸障害、眩暈、頭痛、耳鳴りを起こすことがある。
■メフロキン(250mg/錠)4 錠(1,000mg )を単回投与または6 〜8 時間間隔で2分服。副作用として胃腸障害、頭痛、眩暈のほか、ときに不眠、悪夢、洞性徐脈を呈する。精神神経疾患、痙攣の既往患者には禁忌。また、ジゴトキシン、カルシウム拮抗薬、β−ブロッカ−などを服用している患者には禁忌または慎重投与などの適応上の制限がある。
■アトバコン・プログアニル合剤(アトバコン250mg 、塩酸プログアニル100mg 含有/錠)最近開発されたアトバコンは、マラリア原虫のチトクロ−ムb を阻害して、クロロキンやメフロキン耐性マラリアにも高い治癒率を示すとされている。1 日1 回4錠を同じ時間に3 日間投与。副作用は軽微で胃腸障害や咳などと報告されている。
3 )重症熱帯熱マラリアの治療
■キニ−ネの非経口療法:二塩酸塩キニ−ネ10mg/kg を5%ブドウ糖液か生理食塩水500ml (患者の水分状態により増減)に溶解し、4 時間かけて点滴静注。必要に応じ、8 〜12 時間毎に繰り返し、患者が軽快したら経口療法に切り替える。なお、重症マラリアでは、血糖値が低下するのに加え、キニ−ネはインシュリン分泌を促進するので投与中は血糖値のモニタリングを行う。また、血圧、不整脈発現の監視も重要である。
■アルテミシニンとその誘導体:中国で古くから民間療法に用いられて来た薬用植物から抽出された抗マラリア薬で、有効成分のアルテミシニンとその誘導体(artemether, arte‐ ether, artesunate,
dihydroartemisinin)が中国や欧州の製薬企業で製剤化されている。これらの薬剤はこれまでの抗マラリア薬とは化学構造が著しく異なり、活性酵素による傷害作用がその本態である。これらの薬剤は即効性で副作用も軽微で脳症などを発現した熱帯熱マラリアにもキニ−ネの非経口療法に匹敵する効果を発揮するとされている。しかし、再燃率が高いためメフロキンなどによる追加療法が必要である。なお、アルテミシニン誘導体にはその種類により内服錠、坐薬、注射液などの剤型があるが、その用法・用量が明確に確定されていない製剤もある。
重症マラリアに対する支持療法
重篤な病態や合併症を発現した熱帯熱マラリアには原因療法だけでなく、病態に応じた適切な支持療法の強化が救命に不可欠である。WHO は1990年に重症マラリアの判定基準と治療のガイドラインを策定しており、とくに重要なのは脳症、肺水腫/ARDS 、急性腎不全、代謝性アシド−シス、出血傾向、重症貧血などであり、化学療法にあわせてこれらに対する臨床管理が適切にされるか否かが患者の予後に直接影響することを銘記すべきである。なお、現在のわが国に流通している抗マラリア薬はキニ−ネと1987 年に承認されたファンシダ−ルの2 種のみである。そこで、患者治療にクロロキン、メフロキン、キニ−ネ注射液、ア−テスネ−ト、アトバコン、プリマキンなどが必要な場合は、筆者らが関与しているヒュ−マンサイエンス振興財団「輸入熱帯病・寄生虫症に対するオ−ファンドラッグの臨床評価に関する研究班」に連絡すれば、便宜がはかられる。
感染症新法の中でのマラリアの取扱い
マラリアは第4類の全数把握疾患に定められており、診断した医師は7 日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの
・病原体の検出
例:血液塗抹標本による顕微鏡下でのマラリア原虫の証明と、鏡検による虫種の確認など
・病原体の遺伝子の検出
例:PCR 法など
《備 考》
診断のため、マラリア原虫の形態保持の観点から採血後は速やかに血液塗抹標本を作製することが強く望まれる。
(東京慈恵会医科大学熱帯医学講座 大友
弘士)
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