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感染症の話 2000 年第24 週(6 月12 日〜6 月18 日)掲載
◆ラッサ熱(Lassa Fever)
ラッサ熱は、西アフリカ一帯にみられる急性ウイルス感染症である。ラッサとは1969
年に最初の患者が発生した村の名に由来する。ラッサウイルス(Lassa virus)はアレナウイルス科に属し、西アフリカ一帯に生息する野ネズミの一種であるマストミス(Mastomys
natalensis )が自然宿主である。当初は主に院内感染として集団発生がしばしばみられたが、1970年代(72〜74年頃)にウイルスが分離され性状がわかり伝播経路が判明してからはナイジェリアを除き院内感染は激減した。米国厚生省のCDC が西アフリカ最西端のシエラレオネに調査研究基地を置き1976年以来20 年間にわたる調査の結果、致死率は感染者の1〜2%であることも疫学的に判明してきた。本症の非流行地への輸入例は現在まで22例存在する。18例目はわが国でシエラレオネから帰国した人に1987年3月ラッサ熱が発症したが回復した。19例目は米国で1989 年1月ナイジェリアからの帰国者で死亡6 時間前に診断が確定された。いわゆるウイルス性出血熱4 疾患の一つである。本年に入りシエラレオネから英、ドイツに各1例、ナイジェリアからドイツに1例の輸入例があった。
〔ウイルス性出血熱とは何か?〕
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ウイルス性出血熱と定義される疾患は4
種ある。ラッサ熱、マールブルグ病、エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱である。ウイルス性出血熱の特徴は、ウイルスがヒトに感染し皮膚や内臓に出血を生ずるところにある。さらにその病因ウイルスは、(1)
かなり限られた地域―すなわちアフリカのサハラ砂漠以南―に存在する。ただしクリミア・コンゴ出血熱はアフリカ以外にも広く分布する。(2)
臨床的に突発的な発熱、頭痛、咽頭痛を主症状とし重症インフルエンザ様を呈する。重症化すると出血(吐血、下血)によりしばしば死に至る。(3)
最も重要な点は感染者や患者の血液や体液、排泄物によりヒトからヒトへ感染が伝播することである。院内感染や家族内感染をし、しばしば予期せぬ事態が発生する。他の出血性ウイルス病とは(3)
により区別される(表1)。分布地域を図1 に示す。
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図1 .ウイルス性出血熱の分布地域
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画像をクリックすると拡大図が見られます。
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疫 学
ラッサ熱はウイルスを保有するマストミスが存在するナイジェリアからシエラレオネ、ギニアに至るアフリカ一帯及び中央アフリカ共和国等で局地的流行状態にある。年間20
〜30 万人位の感染者があると推定されている。上記の地域でラッサウイルスを有するマストミス、患者、感染者(抗体陽性者)が存在する。
シエラレオネの15 カ村の調査で抗体保有率は8 〜52%で純農村型村落で高く、外部との交流の多い地域では低い。都市ではみられない。抗体保有率は年齢と共に上昇し50
歳代でピークに達する。マストミスのウイルス保有率も村落により異なり0 〜80%である。マストミスの生息状態、ヒトでの感染率からみてラッサ熱は西アフリカ一帯の日常生活に密着した風土病ともいえる疾患である。シエラレオネ以外の国ではCDC
が実施したような詳細な調査はなく実態は不明である。ナイジェリアでは1989 年、1992 年と院内感染で多数の感染者と死亡者が発生している。ウイルスを保有するマストミスの尿や唾液中には多量のウイルスが排出されるがマストミスは病気にはならず、ヒトへの感染はそれらとの接触(手、足の目に見えない傷)と咬まれる等による。ヒトからヒトへは血液、体液等(粘膜の接触を含む)で感染拡大がおこる。院内感染は基本的医療材料、すなわち手袋、ガウン、マスク、ゴーグル、長靴等の不足によることが多い。また注射器の不足により汚染注射器の繰り返し使用もエボラ出血熱同様感染拡大の中心となっている。1975
年までにウイルスの性状解析がほぼ終わり、感染経路が明らかにされてからはナイジェリア以外では院内感染はほとんど起きてはいない。
血液や体液による接触感染以外の感染例(空気感染等)は見られてはいない(CDC のフィールド及び4,400人の患者調査による)。すなわち医療機関の構造がいかに貧しくても接触感染を防ぐ手段があれば伝播は起こらない。
病原体
Lassa virus
ラッサウイルスは1 本鎖RNA とエンベロープを持ちアレナウイルス科に属する。このウイルスはアフリカにしか存在しないが、ヒトに病気を起こすアレナウイルス科のウイルスには他にマチュポ(ボリビア出血熱)、フニン(アルゼンチン出血熱)、グアナリト(ベネズエラ出血熱)、サビア(ブラジル出血熱)の4
種が知られ、いずれも南米に存在する。その他世界中に存在するものとしてLCM(lymphocytic choriomeningitis virus)が知られている。いずれも野ネズミが自然界の宿主であり前4者はレベル4
に属しウイルスを増殖させるためには最高度安全実験施設(いわゆるP4 実験室)が必要となる。患者の退院の指標は血液、尿からウイルスが分離されないこととされている。
病原診断
基本的には培養細胞を用いて咽頭ぬぐい液、血液、尿等からウイルスを分離することである。迅速診断法としてはPCR 法によりウイルスの遺伝子断片を検出する。急性期には抗原検出も可能であるが確率は劣る。抗体測定にはELISA
、免疫蛍光法が用いられている。発熱後追跡すると、IgMは30%内外のヒトでしか出現せず、いきなりIgG が出てくることが多い。
臨床症状(表2)
潜伏期間は7 〜18日で発症は突発的であるが進行は徐々である。発熱、全身倦怠感を初発症状とし39 〜41 ℃の高熱を朝夕に示す。続いて大関節痛、腰部痛が3
〜4 日目にあらわれる。頭痛、咳、咽頭痛が大部分の患者でみられる。さらに後胸骨痛、心窩部痛、嘔吐、下痢、腹部痛がよくみられる。重症化すると、顔面、頚部の浮腫、消化管粘膜の出血、脳症、胸膜炎、心のう炎、腹水、時にショックがみられる。いったん軽快し、2
〜3カ月後に再燃し、心のう炎や腹水を生ずることもまれにある(1987年の日本へ輸入された例はこの再燃型であった)。再燃については何らかの免疫学的機序が考えられている。また重症例の約1/4
にみられる種々の程度の不可逆性の知覚神経性ろうが最近注目されている。妊婦の重症化はよくみられ胎内死亡、流早産をおこす。
流行地でのヒトからヒトへの感染はよくみられるが、非流行地へ入ったラッサ熱が2次感染を起こした例はない。検査所見上、脱水によるBUN値の上昇を除けば生化学検査で酵素(AST
、ALT 、CPK等)等の値に特にラッサ熱に特徴的所見はない。
治療・予防
感染予防ワクチンはない。治療にはリバビリン(ribavirin:静注)が著効を示す。発症6日以内に投
与を開始すると70 〜80%の致死率を数%に激減させうる。患者との濃厚接触がある場合、あるいは実験中の病原体や感染材料への曝露がある場合には経口投与による発症予防効果も期待できる。
発生動向調査
非流行地では患者とどのような接触をしたかにより周辺調査の仕方が異なる。表3に接触の状況と周辺者の調査の仕方について示す。このウイルスは空気感染するわけではないので基本的な感染防御策(universal
precautions)で十分対応しうる。
感染症新法の中でのラッサ熱の取扱い
ラッサ熱は第1 類感染症に定められており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。類似患者、患者、無症状病原体保有者のいずれであっても届け出は必要である。
報告のための基準は、以下の通りとなっている。
○当該疾患を疑う症状や所見があり、かつ、以下の方法によって病原体診断または血清学的診断がなされたもの。
(材料)血液、血清、尿、咽頭スワブ、及び剖検材料等
・病原体の検出
例:ウイルスの分離など
・抗原の検出
例:ELISA 法など
・病原体の遺伝子の検出
例:PCR 法など
・血清抗体の検出
例:IgM 、IgG の免疫蛍光法による検出など
○当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体か抗原が検出されたもの
(病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものを含まない)
○疑似症の診断
臨床的特徴に合致し、以下の疾患の鑑別診断がなされたもの
(鑑別診断)他のウイルス性出血熱、チフス、赤痢、マラリア、デング熱、黄熱等
《備 考》
当該疾患を疑う症状や所見はないが、病原体や抗原は検出されず、遺伝子や抗体のみが検出されたものについては、法による報告は要しないが、確認のため保健所に相談することが必要である。
学校保健法の中でのラッサ熱の取扱い
ラッサ熱は学校において予防すべき伝染病第1 種に定められており、治癒するまで出席停止となる。
(国立感染症研究所 倉田 毅)
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