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感染症の話 2000 年第20 週(5 月15 日〜5 月21 日)、第21週(5 月22日〜5 月28日)掲載
◆VRE
(Vancomycin Resistant Enterococci
:バンコマイシン耐性腸球菌)
VRE (Vancomycin Resistant Enterococci :バンコマイシン耐性腸球菌)は、MRSA (Methicillin‐resistant
Staphylococcus Aureus)などグラム陽性菌に有効な抗生物質であるバンコマイシンに耐性を獲得した腸球菌であり、健常者に感染した場合は通常、無害、無症状であるが、術後患者や感染防御機能の低下した患者では、腹膜炎、術創感染症、肺炎、敗血症などの「感染症」を引き起こす場合があるため、欧米では、ICU
や臓器移植ユニットなど易感染者を治療する部所で問題となっている。
疫 学
1980 年代の前半に欧州で最初に分離され、1990 年代に入り欧州、米国などで急速に拡大し、現在、それらの地域では、ICU などで分離される腸球菌の20%程度がVRE
と判定される事態に陥っている。一方、我が国では、これまでの分離報告例は、総数で50 例に達しておらず、欧米と様相を大きく異にしている。しかも、便や尿からの分離例が大半を占め、いわゆる「定着例」と考えられる事例が殆どであり、VRE
による「感染症」と判断された症例としては「子宮頚癌の術後骨盤内感染性嚢胞」などの報告があるものの、未だ少数である。
病原体
腸球菌は、健常者の腸管内や口腔、外陰部などに、多かれ少なかれ必ず常在する菌であり病原性が非常に弱い事が特徴である。したがって、VRE は、バンコマイシンに耐性を獲得しているとは言っても生物学的な特徴は腸球菌と何ら変わらず、健常者に「感染症」を引き起こす事は極めて稀である。一部で「最強のバクテリア」と言った表現で一般の人々に紹介されることがあるが、この点は全くの誤解である。しかし、腸球菌の一種であるEnterococcus
faecium などは、術後の心内膜炎などの原因菌となりうることが指摘されており、その意味では、全くの「非病原菌」ではない。
VRE として臨床上問題とされ、院内感染対策の対象となっているのは、vanA またはvanB 遺伝子を保有する腸球菌である。一方、vanC
型VRE は、今のところ、欧米でも重篤な感染症を引き起こしたとの報告は稀であり、また、「常在菌」的性格も強く、院内感染対策の対象にはなっていない。しかし、「感染症新法」では、vanC
型のVRE による重症感染症の発生状況を正確に把握するため、万一、血液や髄液など通常「無菌」的な臨床材料からvanC 型VRE が分離された場合には報告を求めている。
また、最近、vanD, vanE 型のVRE も報告されているが、臨床分離例も少なくそれらの臨床的な意義や動向は十分に把握されていない。
一方、海外から輸入されている鶏肉の一部に、VRE により汚染されているものが存在することが厚生省の調査の結果明らかとなっており、国内へのVRE
の流入を考えた場合、公衆衛生上無視できない現実がある。したがって、汚染鶏肉が明らかになった場合には輸出国に対し対策の申し入れなどが行われ、事態の改善が図られている。(表. バンコマイシン耐性腸球菌の種類と特徴)
臨床症状
VRE が健常者や感染防御機構の正常な患者の腸管内に感染または定着しても、下痢や発熱などの症状を呈することは無く、無症状である。したがって、そのような場合、無症状の「保菌者」となり長期間にわたって、VRE
を排出し続ける事例もしばしば見られる。事実、国内の多くの分離例が、無症状者の便や尿などからの偶然の分離である。
しかし、VRE による術創感染症や腹膜炎、敗血症などの感染症の症例では、患部の発赤などの炎症所見、発熱などの全身所見など一般的な細菌感染症の症状が見られる。さらに、VRE
が感染するような免疫状態の患者では、MRSA や緑膿菌や大腸菌など病原性の強い他の細菌が同時に混合感染を起こしている場合も多く、それらの菌の感染症による症状が前面に出ることが多い。
病原診断
薬剤感受性試験:各医療施設において日常的に実施されている同定試験や薬剤感受性試験法により、腸球菌であって、バンコマイシンに対する判定結果が、MIC
値で≧16 μg/ml と判定された株が分離された場合。
PCR による判定:バンコマイシンに耐性を示す腸球菌で、vanA 、vanB 遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR 検査により、特異的なバンドが検出された場合。
disk 拡散法によるVRE の型別の推定方法やPCR の具体的実施方法については、 <http://idsc.nih.go.jp/others/vre2.html#van>
に紹介されているので、参考にされたい。しかし、市販のVRE 選択培地により分離を試みた場合、バンコマイシンに生来耐性を示す、 Leuconostoc
属、Pediococcus 属、 Lactobacillus 属なども分離されることがあり、それらとVRE との鑑別が必要である。
治療・予防
VRE が便や尿から分離されたのみで、感染症の症状を呈さない、いわゆる「定着例」と判断される症例に対しては、除菌目的の抗菌薬療法は通常行わない。
VRE による術創感染症や腹膜炎などの感染症の患者の治療は、感染巣の洗浄やドレナージ、及び抗菌薬の投与などを適宜組み合わせて行う。
抗菌薬の選択は、薬剤感受性試験結果を参考に、国内で入手が可能であり、しかも有効性が期待できる抗菌薬の中から患者の症状や基礎疾患等を考慮し、最も適切な薬剤を選択する。
また、VRE と同時にMRSA 、緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌などが分離される場合で、後者の菌が感染症状の主因と考えられる場合は、そちらの治療を優先する事も必要である。
予防手段としては、感染者または排菌者からの菌の伝播を防止する方策を第一とする。VRE を排菌している患者の介護や処置などの際に、VRE により汚染されている便や尿、ガーゼ、喀痰、膿などの処理に特に留意し、医療職員や介護者の手指や医療器具などの汚染が起きないよう注意する。
VRE を排菌している患者を擁する医療施設では、排菌者の隔離ではなく、VRE を排菌している患者とハイリスク患者の接触をなくすようにするなどの観点からの対策が必要である。
除菌目的または予防目的の抗菌薬の「予防投薬」は行わない。
発生動向調査について
平成11年4月〜平成12 年5月22 日までの集計分で、感染症新法に基づいて届け出られたVRE は31 件で、最近報告例が減少しているが、分離数の実数は必ずしも減少しているとは考えられず、欧米の状況に影響され、今後、国内分離例が増加する事は十分予想されるため、一層の警戒と対策が必要となっている。
前述の如く、国内でのVRE の分離は未だ稀であり、適切な対策や行政的施策等を実施するため、その全数を把握する事が不可欠となっている。したがって、「感染症新法」ではVRE
の感染症症例の全例について報告義務が課せられており、さらに、便や尿から分離された「定着例」についても報告の協力が追加的に求められている。
しかし届け出をした病院が特定されるのではといったことなどに対する警戒などからか、「定着例」については、報告を見合わせる施設も少なからず存在しているようであり、新法の精神が十分に生かされていないようである。VRE
の正しい状況を把握するためにはVRE が検出された施設名が特定されることなどの無いよう、各段階での情報に対する管理に一層の徹底が、不可欠である。
感染症新法の中でのVRE 感染症の取扱い
VRE 感染症は第4 類の全数把握疾患に定められており、診断した医師は7 日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下のいずれかの方法によって病原体診断がなされたもの。
1)vanA, vanB 型
○病原体の検出
血液、腹水、胸水、髄液など通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された菌(当面は、便や尿から分離されるなど定着例が疑われるものを含む)で、以下の検査室での判断基準を満たすもの
・バンコマイシン(VCM)のMIC 値が≧16 μg/ml 、あるいは分離菌におけるvanA,vanB 遺伝子の検出
なお、バンコマイシンに生来耐性を示すLactobacillus, Pediococcus, Leuconostoc, Lactococcus
などとの鑑別が必要である。
2)vanC 型
○報告対象
血液、腹水、胸水、髄液など通常は無菌的であるべき臨床検体から分離された菌であって、vanC 型遺伝子が検出されたもの
(国立感染症研究所 細菌・血液製剤部 荒川宜親)
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