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 感染症の話 2000 年第16週(4月17日〜4月23日)掲載

 
◆淋菌感染症

 淋菌感染症は、淋菌Neisseria gonorrhoeae(gonococci)の感染による性感染症である。淋菌は弱い菌で患者の粘膜から離れてから数時間で感染性を失い、日光、乾燥や温度の変化、消毒剤で簡単に死滅するので、性交や性交類似行為以外で感染することはまれである。

疫 学 
 淋菌感染は最近増加している。
 淋菌は世界中に存在しており、20 才前後の年齢層に感染者が一番多い。米国の淋菌感染症は、CDC の報告によると(Sexually Transmitted Disease Surveillance 1997 http://www.cdc.gov/nchstp/dstd/Stats_ Trends/1997_Surveillance_Report.pdf)性感染症対策の成果として1975 年以来減少を続けてきたが、1996 年から減少が横這いとなり98 〜99年にかけて一部の地域で増加に転じている。我が国でも1985 年以降のエイズ啓発活動により顕著にその症例数が減少していたが、最近の感染症発生動向調査によると(http://idsc.nih.go.jp/ kanja/backnumber.html)98 年4月以降連続して増加傾向にある。なお報告数の女性の数が男性より極端に少数なのは、女性は自覚症状に乏しく受診の機会が少ないことも要因の一つであると考えられる。また最近の疫学的研究によれば、淋菌感染によりHIV の感染が容易になると報告されている。

当該月と過去5年間の平均(過去5 年間の前月、当該月、後月の合計15月の平均)の比を対数にてグラフ上に表現した。1標準偏差を越えた場合黄で、2標準偏差を越えた場合赤で色分けしている。

画像をクリックすると拡大図が見られます。

病原体
 淋菌感染症は淋菌Neisseria gonorrhoeae(gonococci )の感染による性感染症である。
 淋菌と似た菌に髄膜炎菌Neisseria meningitidis (meningococci)があり、DNA 相同性は70%である。両菌種ともヒトに病原性がある。ナイセリアは直径0.6 〜1μm のグラム陰性双球菌で、腎臓形をした球菌はそれぞれがくぼんだ面で接している。両菌種は感染後発症した臨床症状に著しい相違がある。淋菌は尿路性器感染症を、髄膜炎菌は上気道に感染した後に中枢神経感染症(髄膜炎)をおこす。
 確定診断には菌の培養と同定検査を要する。淋菌は弱い菌で患者の粘膜から離れてから数時間で感染性を失う。日光、乾燥や温度の変化、消毒剤で簡単に死滅するので、後述するように分離培養が必要な場合には検体の取り扱いには注意を要する。従って、性交や性交類似行為以外で感染することはまれである。


臨床症状
 男性は淋菌性尿道炎を呈し、女性は子宮頚管炎を呈する。
 男性の尿道に淋菌が感染すると、2〜9日の潜伏期を経て例外なく膿性の分泌物が出現し、排尿時に疼痛があるので受診のきっかけとなり、治療へ結びつく。女性では男性より症状が軽く無自覚のまま経過することが多く、上行性に炎症が波及していくことがある。米国ではクラミジア感染症と共に、骨盤炎症性疾患、卵管不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛の主要な原因となっている。その他、咽頭や直腸の感染では無自覚のことが多く、これらの部位も感染源となる。何回でも反復して感染することがある。


病原診断
 前述したように、淋菌は死滅し易いことなどから検体の取り扱いには注意が必要である。
 死菌からでも検出可能でかつ迅速に検査結果が得られる検査法(酵素免疫法)が、キットとして市販されている。これらの検査法や淋菌遺伝子を検出する方法は、患者診断の補助として用いられている。いずれも高感度に検出できるが、検体の採取部位や採取法によっては的確な結果が得られないこともあるのでキットの仕様書を遵守することが必要である。菌の耐性検査を行う場合は分離培養による菌の確保が必要である。
 男性尿道分泌物や女性頚管分泌物などの検体採取はカルチャーレット(淋菌・百日咳菌等に適した市販検体輸送セット)で行い、乾燥や温度変化を避けて保存や輸送を行う。検体採取後直ちに培養を行わない場合には、この操作は必須である。尿はそのまま室温にて迅速に検査室へ輸送する。淋菌検体は採取した日に分離培養することが原則で、長時間放置してはならない。培養にはマーチン・ルイス寒天培地、サイヤー・マーチン培地またはチョコレート寒天培地などを用い、37 ℃5 〜10%の炭酸ガス孵卵器内で行う。同定は、培養後にグラム染色をして菌の形態観察やオキシターゼ陽性、共同凝集反応、免疫蛍光染色などを行い決める。特に生殖器以外からの分離菌は、菌種の同定を行う。
 血清診断法は有用でない。


治療・予防
 耐性菌が増えている。
 治療として、スペクチノマイシン(筋注)、セフィキシム(経口)、オフロキサシン(経口)、ビブラマイシン(経口)等が用いられている。セフトリアキソン(静注)も有効であるが、我が国では目下のところ健康保険の適応とはなっていない。近年、ニューキノロン系薬剤に対して感受性の低下が著しくなってきている。予防対策としては、危険性の高い集団への教育及び患者とその接触者を発見し早期診断と治療を行うことである。また性的接触時にはコンドームを使用することがすすめられる。


感染症新法の中での淋菌感染症の取り扱い
 淋菌感染症は、第4 類の定点把握疾患に定められており、患者定点として選定された医療機関は月単位にて保健所に届け出ることとなっている。報告のための基準は、以下の通りとなっている。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
 ・病原体の検出
  例:(男性の場合)尿道性器から採取した材料からの検鏡・培養、蛍光抗体法など
 ・病原体の抗原の検出
  例:尿道性器から採取した材料からの酵素抗体法による検出など
 ・病原体の遺伝子の検出
  例:尿道性器から採取した材料からの核酸検出法による検出など

(国立感染症研究所細菌部  芳賀伸治)

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この記事は、2002年第22週 にて改訂しました。

 

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