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 感染症の話 2000 年第8 週(2 月21日〜2 月27日)掲載

 
◆ツツガムシ病

 わが国で最も多いリケッチアによる感染症で、ダニの一種であるツツガムシによって媒介される。ツツガムシ病はわが国に古くからある疾患で、東北、北陸の一部で夏に発生する重篤な風土病として知られており、「つつがなく」という言葉は”ツツガムシ病に罹らずに無事過ごす”ということから転じたといわれるほど恐れられていた。その後、ツツガムシ病の発生は減少し、一時はまれな疾患になったように見えたが、1970年後半から80年にかけて再び患者が増加し、発生地域も拡大した。現在では北海道、沖縄を除く各地で春から初夏および晩秋から冬にかけて年間数百人の患者が発生しており、死亡者も年によって数名報告されている。


疫 学
 東北・北陸で古くから存在していたツツガムシ病を古典型、その後発生するようになったツツガムシ病を新型と称しているが、古典型ツツガムシ病はアカツツガムシ(以下アカ)、新型ツツガムシ病はフトゲあるいはタテツツガムシ(以下フトゲあるいはタテ)によって媒介される。アカの生息地域は古典型ツツガムシ病の発生する地方に限局しており、現在では生息数も減少しているが、新型ツツガムシ病を媒介するフトゲは東北、北陸、山陰地方に、また、タテは房総、東海、九州地方に広く生息している。幼虫期のツツガムシ(写真1)は一時期だけ標的動物に吸着し組織液を吸入するが、この時ツツガムシ体内のリケッチアが動物に注入される。しかし、ツツガムシがすべてツツガムシ病を媒介するわけではなく、リケッチアを保有しているいわゆる’有毒ツツガムシ’の刺咬によってのみ感染する。リケッチアは経卵感染であり、リケッチア保有動物を刺咬して有毒になることはない。有毒ツツガムシの生息場所は狭い範囲に限局されており、ヒトはその場所に立ち入ることによって感染する。
 患者発生には地域性および季節的消長があり、東北・北陸では春と晩秋に、関東以西では晩秋に多発する。地域別にみると鹿児島、宮崎、秋田、新潟、大分などに多い。感染推定場所および感染時の作業内容をみると、山地で農作業をしているときに最も多く感染しているが、行楽あるいは山菜採りで感染する例もある。患者の年齢は農作業従事者の年齢を反映して60 歳以上が大半を占めている。
 ツツガムシ病は日本以外にアジア各地、オーストラリア北部で発生していることから、輸入感染症としても注目しておかなければならない。

各画像をクリックすると拡大図が見られます。

写真1.ツツガムシ幼虫(走査電顕像):新潟大学医学部医動物学教室 関川弘雄先生提供

   a )アカツツガムシLeptotrombidium (L.)akamushi

 
a‐1 )満腹幼虫の顎体部・背甲板(×200 )
a‐ 2 )同左 背甲板(×300 )
 

b )フトゲツツガムシLeptotrombidium (L.)pallidum

b‐1)未吸着幼虫(×150 )
b‐2)満腹幼虫(×150 )
b‐3)背甲板(×300 )

c )タテツツガムシLeptotrombidium (L.)scutellare

c‐1)全形(×32)
c‐2)背甲板・胴背毛(×63)
c‐3)背甲板(×160)

病原体

 リケッチアの一種であるオリエンチア・ツツガムシ(Orientia tsutsugamushi)が病原体で、細胞外では増殖できない偏性細胞寄生性の微生物である(写真2)。ツツガムシ病リケッチアはこれまで発疹チフスや紅斑熱などと同じリケッチア属であったが、新潟薬科大学多村憲教授らの研究により新しい属として独立した。本リケッチアには血清型があり、Kato, Karp, Gilliam が血清型名で表わされているが、わが国で分離されたKawasaki, Kuroki, Shimokoshi が新しい型として報告されている。

写真2 :新潟薬科大学微生物学研究室
浦上 弘先生提供


臨床症状
 全身倦怠感、食欲不振とともに頭痛、悪寒、発熱などを伴って発病する。体温は段階的に上昇し40 度にも達する。刺し口は皮膚の柔らかい隠れた部分(臀部、外陰部、大腿など)に多い。刺し口の所属リンパ節は発熱する前頃から次第に腫脹する。第3 〜4 病日より不定型の発疹が出現するが、発疹は顔面、体幹に多く四肢は少ない。治療が適切に行われると早期に消退する。重症になると肺炎や脳炎症状を来す。臨床検査では白血球数の減少、CRP の上昇、肝機能の異常などが見られる。


病原診断
 病原体分離は有熱期の患者の血液をマウスあるいは培養細胞に接種する。安全度レベル3の実験室で行う。マウスでは腹腔あるいは脾臓表面の塗抹標本をヒメネス染色あるいは蛍光抗体染色により分離の確認を行う。培養細胞では蛍光抗体染色により検出する。遺伝子診断ではO. tsutsugamushi 特異蛋白をコードしている遺伝子のPCR により検出する。また、感染ツツガムシ病リケッチアの型は2 次PCR で型特異的蛋白をコードしている遺伝子を増幅し判定する。
 血清診断でワイル・フェリックスはOXK 陽性となるが、非特異的な反応であるため、陰性になる場合も多い。また、CF は特異性が高いが感度が低い。現在では間接蛍光抗体法あるいは間接免疫ペルオキシダーゼ法が用いられている。使用する抗原はKato, Karp, Gilliam のほか、検査機関によってはKawasaki, Kuroki が加えられている。ペア血清で4 倍以上上昇するかIgM 抗体上昇により診断している。
 注:夏季に発生したツツガムシ病様患者で血清診断により本病が否定された場合は、日本紅斑熱の感染を疑う。

治療・予防
 有毒ツツガムシの生息場所は限局していることから、患者の発生した場所への立ち入りをさけることが最も重要である。しかし、有毒ツツガムシの常在地が不明なことも多いことから、ツツガムシ病発生時期にダニが生息する山野に入った後は、入浴時にダニ吸着の有無をチェックする。ダニの刺咬を受けて10 日前後に発熱、刺し口の付属リンパ節の腫脹などが認められたら、ツツガムシ病を疑う、などの注意を怠らない。
 早期にツツガムシ病を疑い適切な抗菌薬を投与することが大切で、テトラサイクリン系抗菌薬が最も有効で、合成ペニシリン、セフェム系抗菌薬などは無効である。


感染症新法の中でのツツガムシ病の取扱い
 ツツガムシ病は、第4類の全数届出疾患に定められており、診断した医師は診断から7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下のとおりである。
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
 ・病原体の検出
  例:血液からの病原体の分離など
 ・病原体の遺伝子の検出など
  例:P C R など
 ・病原体に対する抗体の検出
  例:血清からの間接蛍光抗体法あるいは間接免疫ペルオキシダーゼ法で抗体価の4 倍以上の上昇か、IgM 抗体上昇など

(国立感染症研究所ウイルス第一部リケッチアクラミジア室  萩原敏且)

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この記事は、2002年第13 週にて改訂しました。
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