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 2000 年第7 週(2月14日〜2 月20日)掲載


◆先天性風疹症候群


 免疫の無い女性が妊娠初期に風疹に罹患すると、風疹ウイルスが胎児に感染して、出生児に先天性風疹症候群(CRS)と総称される障害を引き起こす事が有る。風疹のサーベイランスやワクチン接種の目的は、この先天性風疹症候群の予防を第一に考えられている。風疹については感染症週報1999年19週(1巻6号)に既出である。


我が国におけるCRS の疫学
 風疹の流行年とCRS の発生の多い年度は完全に一致している。また、この流行年に一致して、かつては風疹感染を危惧した人工流産例も多く見られた(図1)。風疹は主に春に流行し、従って妊娠中に感染した胎児のほとんどは秋から冬に出生している。流行期における年毎の10万出生当たりのCRS の発生頻度は米国0.9‐1.6 、英国6.4‐14.4 、日本1.8‐7.7 であり、国による差は殆ど見られない。母親が顕性感染した妊娠月別のCRS の発生頻度は、妊娠1カ月50%以上、2カ月35%、3カ月18%、4 カ月8%程度である。成人でも15%程度不顕性感染があるので、母親が無症状であってもCRS は発生し得る。1993 年を最後に全国規模の風疹流行は無くなったので、それに対応して、CRS の発生数も減少している。

図1. 日本における風疹と先天性風疹症候群(CRS)の疫学(加藤茂孝, ほか:平成8年度伝染病流行予測調査報告書1998; pp81-101)
A,B,C とも横軸の年号の位置を合わせてある。
A:定点(約2,400)から報告された風疹患者発生数, B:病院調査(923 院)と聾学校調査(107 校)によるCRS の発生数, C:風疹感染を理由とする人口流産数(死産証書)と人口流産率(厚生省人口動態統計)。

図2. 風疹ウイルスの電子顕微鏡写真(加藤茂孝)

各画像をクリックすると拡大図が見られます。

病原体
 CRS の病原体は風疹ウイルスである(図2)。ウイルス株によって病原性に差は認められていない。発生段階の初期(特に3カ月以内)に胎児内で、ある量以上のウイルス増殖があればCRSを引き起すと考えられている。

臨床症状
 CRS の三大症状は、先天性心疾患、難聴、白内障(図3)である。この内、先天性心疾患と白内障は妊娠初期3 ヶ月以内の母親の感染で発生するが、難聴は初期3 ヶ月のみならず、次の3 ヶ月の感染でも出現する。そして、高度難聴であることが多い。三大症状以外には、網膜症、肝脾腫、血小板減少、糖尿病、発育遅滞、精神発達遅滞、小眼球など多岐に亘る。

病原診断
 病原体である風疹ウイルスの検出は、ウイルス分離よりもウイルス遺伝子の検出が感度も良く、また、時間的にも遥かに短期間で出来る。それは、ウイルス遺伝子RNAを逆転写PCR で増幅して検出する方法である(図4)。CRS 患児からは出生後6カ月位迄は、高頻度にウイルス遺伝子が検出できる。検体としては、検出率の高い順から述べると、白内障手術により摘出された水晶体、脳脊髄液、咽頭拭い液、末梢血、尿等が用いられる。
 CRS の診断としては、症状、ウイルス遺伝子検出以外に、臍帯血や患児血からの風疹IgM 抗体の検出が確定診断として使用できる。IgM 抗体は胎盤通過をしないので、もし存在すればそれは胎児が感染の結果産生したものであり、発症の有無にかかわらず胎内感染の証拠となる。
 胎児が感染したか否かは胎盤絨毛、臍帯血や羊水等の胎児由来組織中の風疹ウイルス遺伝子の検出で診断できる。母親が発疹を出しても、胎児まで感染が及ぶのは、約1/3であり、またその感染胎児の約1/3 がCRS となる(図5)

図3. CRS 白内障(杏林大学医学部 藤原隆明博士提供)

図4. 風疹ウイルス遺伝子の検出
E1 遺伝子の1 部を逆転写PCRで増幅。283塩基のDNA 断片として検出(加藤茂孝)。

図5. 出生前診断依頼症例における胎児由来組織からの風疹ウイルスの遺伝子検出率とCRS 発生率(加藤茂孝)。


治療・予防
 CRS それ自体の治療法はない。心疾患に関しては、軽度であれば自然治癒することもあるが、手術が可能になった時点で手術する。白内障についても手術可能になった時点で、濁り部分を摘出して視力を回復する。摘出後、人工水晶体を使用することもある。いずれにしても、遠近調節に困難が伴う。難聴については聴覚障害児教育を行う。
 予防は、十分高い抗体価を保有することであり、自然感染の機会がなければ、風疹ワクチンで免疫を付けておく。現在、風疹ワクチンは男女の幼児(1‐3 歳)と男女の中学生(平成15年9月30日まで)に接種されている。この年齢以外でも、希望者には接種可能である。妊娠可能年齢の女性で風疹抗体が無い場合には、積極的にワクチンで免疫を獲得しておくことが望まれる。妊娠中のワクチン接種は避ける。しかし、たとえワクチン接種後妊娠が判明したとしても、過去に蓄積されたデータによれば障害児の出生は1例もないので、妊娠を中断する理由にはならない。極めて稀ではあるが、低い抗体価を保有していながら、再感染によってCRS を発生した例がある。


感染症新法の中での先天性風疹症候群の取扱い

 先天性風疹症候群は、第4 類の全数届出疾患に定められており、診断した医師は診断から7 日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下の通りである。施行以来現在まで、1例の発生報告もない。
《報告のための基準》
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下の1 )と2 )の基準を両方とも満たすもの
 1 )臨床症状による基準
  「Aから2項目以上」または「Aから2つと、Bから2つ以上」若しくは「Aの(2) または (3) と、B (1) 」
   A.(1 )先天性白内障、または緑内障
    (2 )先天性心疾患(動脈管開存、肺動脈狭窄、心室中隔欠損、心房中隔欠損など)
    (3 )感音性難聴
   B.(1 )網膜症
    (2 )骨端発育障害(X 線診断によるもの)
    (3 )低出生児体重
    (4 )血小板減少性紫斑病(新生児期のもの)
    (5 )肝脾腫


 2 )病原体診断等による基準
   以下のいずれかの一つを満たし、出生後の風疹感染を除外できるもの
   1. 風疹ウイルスの分離陽性、またはウイルス遺伝子の検出
    例:RT‐PCR 法など
   2. 血清中に風疹特異的IgM 抗体の存在
   3. 血清中の風疹HI 価が移行抗体の推移から予想される値を高く越えて持続。
    (出生児の風疹HI 価が、月あたり1/2 の低下率で低下していない。)

(国立感染症研究所ウイルス製剤部  加藤茂孝)

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この記事は、2002年第21週 にて改訂いたしました。

 

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